カカオの収量に影響するのは?

カカオの収量と受粉率・土壌の栄養状態・光・水ストレスとの関係を調べる研究を見つけました。
その概要をさくっと簡単に紹介します。

どんな研究?

日陰と窒素投入がある圃場と疑似的に旱魃状態にした圃場のそれぞれで、高さ2mまでのカカオの花を人工受粉して受粉率を10%、40%、70%、100%にして収量や結実数や果実の自死数を調べる実験をします。
実験地はインドネシアの中スラウェシです。

予備知識

カカオの花は木の全身にたくさん咲きますが、果実として収穫できるまで育つのはほんの数%です。
まず受粉率が低い(この圃場周辺の自然受粉率は10%前後らしい)ことに加え、結実しても木自体が弱らないように一部はしおれて自分から死んでいきます。

それまでの研究などから、カカオの収量に制限をかけているのは栄養の利用可能量と受粉率ではないかというような仮説だったそうです。

結果は?

新鮮な花に確実に受粉させれば受粉率によらず結実はするようで、受粉数と結実率はほぼ線形の正の相関がみられます。
実験では、受粉率を10%から40%に上げると土壌操作に関わらず収量が大きく上がる結果が出ました。
しかし受粉率が高まって結実数が増えるとそれだけ自死数が増えて、40%を超えたところからは収量の増加が相殺されて変化が小さくなってきます。このことも土壌への操作に関わらず同じです。

窒素を投入しても収量自体や受粉率を上げたときの収量の増え方にあまり差がないことから、少なくともこの地域では収量に制限をかけていた要因は自然受粉率の低さがメインだったことがわかります。
そして最も効率よく高収量になるのが、受粉率40%前後にしたときだと考えられます。

自然受粉でも少し受粉率が上がるように工夫してみると収量が上がるかもしれません。

気になるのは?

一方、ガーナの痩せた土地で窒素投入による栽培実験をすると収量が上がるという研究もあるようです。
この研究の圃場はもともと栄養状態が良かったため、カカオの窒素利用量が制限に達していなかったのではないかという話になっています。樹木は水や栄養も体内に蓄積していてそこから使っていく生き方がメインらしく、吸収から利用までがゆっくりなので栄養状態の変化があまり反映されなかった可能性もあります。

またここでは高収量のために40%が理想的という結果でしたが、この数字もまた地域や木の大きさによって変わってくると思います。いずれにせよ100%など高すぎる受粉率にする必要はありませんが、自然受粉の効果を見直すと収量の向上に繋がる気がしますよね。


原文

”Experimental evidence for stronger cacao yield limitation by pollination than by plant resources”, Janna H. Groeneveld, Taja Tscharntke, Gerald Moser, Yann Clough, "Perspectives in Plant Ecology, Evolution and Systematics 12" (2010) 183-191


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