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The WhoのBaba O’Rileyのタイトルが暗示するアイルランドの要素

The Whoの名曲、Baba O’Rileyの不思議な語感のタイトルが、ピート・タウンゼントの造語だった事は割と知られています。でも、真ん中の"O"の部分って、どんな意味があるのか?今回はその辺を追ってみました。


名実ともにThe Whoの代表曲

The Whoの最高傑作とされるアルバム、Who's Nextのオープニング1曲目を飾る、Baba O’Rileyという曲がとにかく好きだ。あらゆるロック曲の中で個人的なベストを一つだけ挙げろと言われたら、躊躇なくこの曲を選ぶだろう。

そんな自分の思い入れは別にしても、今なおライブの定番曲であり、各種の編集盤にも必ず収録されている。名実共にバンドの代表曲だと言える。


"Baba"と"Riley"の間を繋ぐ"O"って何?

この曲の変わったタイトルの意味が最初は判らなかった。でも、前半の"Baba"は、ピートが傾倒していたインドの神秘家メヘル・バーバー(Meher Baba) の事だろうと割とすぐに察しがついた。

後半の"Riley"は暫く謎だったが、現代音楽の巨匠として知られるアメリカの作曲家テリー・ライリー(Terry Riley)の事だと知った時は、目から鱗が落ちる思いだった。この曲の特徴的なシンセサイザーのループが、テリー・ライリーの影響だとすれば、腑に落ちる話だ。

と、ここまでなら雑誌記事、Web情報などで既出なのでご存知の方も多いと思う。

けど、まだ何か抜けてませんか?そう、"Baba"と"Riley"の間を繋ぐ"O"って何の事なのか?そこにちゃんと触れた文章はまだ見た事がないのだ。


答えはアイルランドにあり

この謎については全然関係ないところでヒントを見つけた。アイルランドの歌手、エンヤの発言だ。デビュー間もない頃のインタビューで、本名についての質問にこんな風に説明していた。

彼女の本名はエンヤ・パトリシア・ニ・ブレナン(Eithne Pádraigín Ní Bhraonáin)と言い、これには「ブレナン家の娘のエンヤ」という意味があるのだそうだ。これが男性の場合は「息子」を意味する"オ"(O')を間に挟むらしい。

この記事を読んだ時に自分の中でBaba O’Rileyの事と繋がった。前述のエンヤの説明に倣うなら"Riley"さん家の息子の"Baba"、という感じだろうか。

なるほど曲名の意味はわかった。ただし新たな謎も生まれた。この曲のシンセ・ループがテリー・ライリー由来だとすれば、アイルランドに関係した要素も何かあるはずだ。

その答えは・・コーダのヴァイオリン・ソロの部分にあった。あのパートはアイルランドの伝統的な舞曲、ジグのリズムを使っている。正確にはジグではなくリールと呼ぶそうなのだが、この曲にアイルランド民謡の要素が入っている事は間違いないんじゃないか?

冷静に考えれば状況証拠に基づいた推測でしかない。少なくともピート本人のインタビュー等の一次情報を見つけるまでは。でも意味が解らなかった曲のタイトルと内容に新たな繋がりを発見した。それだけでも自分は満足している。


ヴァイオリン・ソロを弾いたミュージシャン

以下は余談になるけれど、この曲でヴァイオリンを弾いているデイブ・アーバス(David Arbus)というミュージシャンに触れたい。

デイブ・アーバスは、60年代末期のロンドン・アンダーグラウンド・シーンで活躍したバンド、イースト・オブ・エデンEast of Eden)に所属し、1969年に1stアルバム、世界の投影(Mercator Projected)を発表。

Mercator Projected(1969)

当時らしいブルーズ、ロック、ジャズ、民族音楽をごった煮にしたミクスチャー・サウンドで、プログレの黎明期にあれこれ試行錯誤していたバンドらしい特徴が満載だ。この1stの音に敢えて近い例を挙げるなら同時期のジェスロ・タルだろうか。

2ndアルバムを挟んだ1971年にはアイルランド音楽をロック・バンド形式で演奏したインスト曲、Jig-a-Jigが全英トップ10に入るヒットを記録している。

この後はメンバー交代が激しく、遂にはデイブを含むオリジナル・メンバーが一人も居なくなってしまう。だがそれでもバンドは存続。ヒット曲の持つ力は侮りがたいのかも知れない。


キース・ムーンの"プロデュース"って?

最後にWho's Nextのジャケットの、このクレジットの一節について。

Violin on 'Baba O’Riley' Produced by Keith Moon.

プロデュースと言うと大袈裟だけど、案外これって「ヴァイオリンを誰に頼もうか?」となった時に、キースが飲み友達のデイブ・アーバスを連れてきた、ぐらいの意味ではないだろうか(笑)

Fin

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