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(サッカー)2023.11.24_地域CL_VONDS市原FC×栃木シティFC@栃木グ


introduction

11/9〜11の3日間で1次ラウンドを行った全国地域サッカーチャンピオンズリーグは、今週の11/22,24,26の3日間で決勝ラウンドを開催。JFL昇格の扉を開くチームがいよいよ決定する。今季のJFL昇格枠は「1.5」。地域CL優勝チームがJFLに昇格し、準優勝チームはJFL最下位チームとの入替戦に臨むことになる。いずれにせよ、この決勝ラウンドで2位以内に入ることがJFL昇格のための絶対条件である。今季の決勝ラウンドの開催地は栃木県グリーンスタジアム。ここ近年の決勝ラウンドは関東での開催が続いており、今回もご多分に漏れず、日帰り可能な範囲での開催となった。昨年に熊谷で行われた決勝ラウンドは第1日を観戦したが、今年は第2日の試合を観ることに決定。仕事を休みにして朝の新幹線に乗り込み、一路宇都宮に向かった。

今回の宇都宮訪問にあたり密かに楽しみにしていたのは、今年8月に開業したばかりの宇都宮ライトレールへの初乗車である。今までのグリーンスタジアムへのアクセスは公共交通機関では少し苦労が伴ったが、LRTの開業でスタジアム至近に駅ができ、アクセスが圧倒的に楽になった。宇都宮駅東口の乗り場からさっそくLRTに乗車すると、車内は立ち客が出るほどの混雑。地域CL観戦客が多く乗車していたとはいえ、平日のラッシュ時間帯が過ぎている割には悪くない乗車率だ。この利用状況が続けば、当面の間は採算がとれるのかもしれない。30分ほどの乗車でグリーンスタジアム前で下車し、歩いてグリーンスタジアムに到着した。

今年の決勝ラウンド進出チームは、Aグループ1位の栃木シティFC、Bグループ1位の福山シティFC、Cグループ1位のジョイフル本田つくばFC、そしてAグループからワイルドカードに入ったVONDS市原FCの4チーム。なんと関東1部リーグから3チームが決勝ラウンドに進出している。10:45から行われる本日の第1試合は、市原と栃木の対戦。この2チームは1次ラウンドでも既に一度対戦しており、その際には栃木が1-0で勝利している。

VONDS市原FCは、関東1部リーグを15勝1分2敗で制しての地域CL出場。2位の栃木に勝点で10ポイントの大差をつけての優勝だった。市原の地域CL出場は、2019年大会以来4年ぶり。この間、クリアソン新宿が関東からJFLへ昇格するなど、後発のチームに追い抜かれるシーズンもあっただけに、この大会に賭ける意気込みは強いはずだ。1次ラウンドではAグループで同じ関東1部から出場した栃木と同居。栃木との直接対決では敗れたが、グループ2位に入り、ワイルドカードで決勝ラウンドに進出している。2日前に行われた初戦は、つくばを相手に1-0で勝利。あと1勝で入替戦以上を確定させられるところまでたどり着いた。

対する栃木シティFCは、前述のとおり関東1部リーグは11勝3分4敗で2位フィニッシュ。「全社枠」を賭けて臨んだ10月の全国社会人サッカー選手権もまさかの1回戦敗退に終わり、地域CL出場の望みはついえたかに思われたが、全社枠で最大3チームが入れるところに2チームまでしか入らず(全社枠を獲得できるのは、全社ベスト4に勝ち残ったチームのうち、地域CL出場権を持っていない各地域の最上位カテゴリのリーグに所属するチームのみ)、余った1枠にいわゆる「百年構想枠」で滑り込んだ(全社枠で地域CL出場チームが埋まらなかった場合、Jリーグ百年構想クラブ登録チームは、希望すれば地域CL出場枠を1回に限り獲得できる)。実にややこしい地域CL出場チーム決定レギュレーションでどうにかJFL昇格の望みを繋いだ栃木だが、昨年は地域CL決勝ラウンドで3位に終わり、あと一歩のところでJFL出場の望みを絶たれているだけに、今年こそはという思いがあるはずだ。市原と同居した1次ラウンドで首位通過を果たした栃木だが、この決勝ラウンドの初戦は、福山相手に1-2の敗戦。残り2試合は連勝するしかない瀬戸際に追い込まれている。クラブにとって移動の負担が少ない地元での決勝ラウンド開催なだけに、ここは絶対に勝利が欲しいはずだ。

1st half

立ち上がりからゲームを支配したのは、勝利がほぼ必須条件の栃木。その中心となるのは左サイドアタッカーの田中。今季、松本山雅FCから加わった選手だ。ドリブルで局面を打開するテクニックは地域リーグレベルでは抜きんでており、その甲斐あってハーフスペース近くまではいとも簡単に進出してくる。全体のシステムは4-2-3-1で、トップ下には昨季からチームに所属している表原が入り、比較的フリーマンに近い形。1トップの平岡と右サイドアタッカーの藤原はいずれも今季からの新戦力で、平岡はBTOPサンクくりやま(現・BTOP北海道)、藤原はFC刈谷と、いずれも昨季の地域CL1次ラウンドで同じグループだったライバルチームからの補強だ。

そんな栃木は攻め込みながらも決定機を作れない状況が続くが、21分に直接FKの流れからゴール正面で関野が上げたクロスにDFの増田がヘディングシュート。枠内を捉えたこのフィニッシュを市原のGK・今川がセーブし、スタンドがどよめくが、このプレーはオフサイドの判定。しかしこれは今川にとって良い「練習」になったようだ。25分、栃木はCKの流れから左サイドでボールを受けた表原がクロスを入れ、中央に入った平岡がヘディング。するとこれを今川が先ほど以上の反応でスーパーセーブ。チームのピンチを救う。

守勢に回る市原はバランスを重視した4-4-2の布陣。前半は長いこと押し込まれる時間が続くものの、前述の決定機を除けば失点を覚悟するようなピンチを作らせていない。36分、市原は右サイドを押し込む流れから川田がハーフスペースまで侵入し、速い折り返しを中に送り込むと、ニアに入った谷尾の鼻先を掠めたボールがGK・原田を強襲。原田が咄嗟に弾いたボールがあわやゴールラインを割りそうになるが、どうにかボールを押さえてヒヤリとした場面を凌ぐ。市原はこういったワンチャンスを生かしていきたい。

この市原の思いがけないチャンスが呼び水となったか、前半の終盤にかけては市原が攻勢。何度かラフなボールを何度かゴール前に入れる。すると原田が何度か飛び出しながらもボールに触ることができず、ゴールマウスが空く状況に。このピンチは栃木の守備がどうにか掻き出して防ぎきり、0-0のまま前半終了。栃木の支配する時間が長かった分、スコアレスというのは栃木にとっては物足りない状況だ。このまま時計だけが進むとますますやりにくさが増すだけに、早く1点が欲しいところだろう。

2nd half

後半に入っても栃木のゲーム支配は続く。50分、右サイドに流れてボールを受けた平岡を起点にしてアタッキングゾーンへ攻め込み、最後は後半の頭から登場した伊藤がフリーでフィニッシュへ持ち込むが、DFがカット。58分には田中の右CKにファーサイドの増田が頭で合わせるが、これもGKの今川が素早い反応で距離を詰めてセーブ。61分には表原が左サイドでボールを受けてから単独のドリブルでカットインし、ボックス付近まで侵入するが、シュートは僅かにゴールの右へ。前半以上に栃木がゴールを脅かす場面が増えるものの、市原の守備がやはり堅い。

71分、栃木は右CKのこぼれ球をエドゥアルドがミドルシュートで狙い、これが枠内を捉えるが、これもゴールマウスのカバーに入っていた市原の選手がクリア。78分には中央でボールを運んだ岡庭がそのままミドルシュートへ持ち込むが、これもクロスバーを直撃してゴールならず。攻めても攻めても市原のゴールをこじ開けられない。一方の市原は75分に2枚替えで清原と渡辺を投入し、3バックにシステム変更。2人ともJリーグを経験している大ベテランだ。渡辺は3バックの中央、清原はシャドーのポジションに入る。

残り時間が徐々に減っていく中で迎えた81分、栃木は自陣での速攻から右サイドの田中へ展開し、田中がドリブルでアタッキングゾーン、そしてボックス内へ侵入。田中がドリブルで横にずらしながらシュートコースを窺う中、切り返したところを垣根が足に引っ掛けてしまい、田中が倒れてPKの判定。遂にやってきた先制のチャンスにスタンドからは早くも大歓声。クラブの命運を分けるといっても過言ではない重圧の掛かるPKだが、これを田中がゴール左隅に冷静に決めて0-1。栃木が遂に市原のゴールをこじ開ける。ガッツポーズを繰り出す田中のもとには控えメンバーの選手も駆け寄り、歓喜の輪ができる。それだけ価値の大きな1点だ。

終盤で先制を許した市原は、85分に2枚替えの交代カードを切り、前線にボールを集めるが、撤収に転じた栃木がゴール前を固めてシュートを撃たせない。CBの増田がセットプレーでの競り合いで頭を打ってしまい、交代を余儀なくされるアクシデントもあったものの、前線の選手がボールキープして巧みに時間を使い、そのままタイムアップのホイッスル。栃木が根くらべの一戦をどうにか0-1で制し、明後日の最終戦に望みを繋ぐ大きな勝点「3」を手にしている。

impressions

決勝ラウンドの初戦で敗れ、絶体絶命の窮地に追い込まれていた栃木にとって、起死回生のきっかけとなるかもしれない重要な勝利だった。関東リーグではホームとアウェイで共に敗れ、シーズンダブルを許している市原を相手に、地域CLの1次ラウンドでは勝利。ただ、決勝ラウンドでシーズン4度目の対戦ともなると、互いに手の内を知り尽くしている分のやりにくさというものはあったはずだ。しかし、90分間の大半に渡って主導権を握り、終盤にPKながら押し切る勝ち方は間違いなく「本物」だ。

栃木は前線に強力な「個」を並べて、パンチを当て続けたのが最後の最後に実ったといえる。中でもトップ下の表原と、決勝点のPKを獲得して自ら決めた田中の存在感は大きかった。表原は左右両サイドに幅広く顔を出し、チャンスメイクとフィニッシュの両方に絡む働きぶり。市原からすれば地味に消耗を強いられる嫌な存在だったはずだ。田中も得意のドリブルで前半から繰り返しアタッキングゾーンの攻略を狙っていた。PK獲得の場面に関しては上手く相手のファウルを誘った感もあったが、それも含めてこの選手の強みといえる。チーム全体としても、違いを見せられる選手へ積極的にボールを集めていこうという意図が感じられた。地域CLのような短期決戦ではそのような割り切った戦い方も重要で、今日に関しては吉と転んだといえる。

市原は、戦い方自体は間違っていなかったと思う。今季の関東1部リーグでは「30得点8失点」というロースコアでクローズする戦い方で優勝を果たしている市原にとって、今更戦い方を変える必要性は全く無い。実際、栃木にはアタッキングゾーンまで明け渡すことはあっても、中央を引き締めてクリアする戦い方で終盤までは問題なく守れていた。ただ、試合を通じて市原のシュート数が僅か「3」に終わった事実が象徴しているように、さすがに攻撃の迫力を欠きすぎた。またこの3本も全て前半に記録されたもので、後半のシュート数はゼロ。栃木の総シュート数が「14」だったのと比較すると雲泥の差だった。また、75分の選手交代でシステムを4バックから3バックに変更したのも意図がよく分からなかった。初戦を獲っている市原にとって、この試合はドローでも悪い結果ではなかったはず。攻撃面での梃子入れを図りたかったのだろうが、75分まで守備が機能していたシステムを自ら棄ててしまったのは、少し勿体なかったかもしれない(結果論だが)。

今日の勝利で栃木は勝点を「3」に伸ばし、市原とは勝点と得失点差のいずれでも並んだが、総得点数で上回ることに成功。たった3試合のリーグ戦で結果が決まる以上、たとえ総得点数の違いであったとしても、1つ上の順位に立つことは極めて重要だ。5日間で3試合をこなす厳しい日程であり、試合をこなすにつれてコンディション調整が難しくなる中、地元開催という地の利があるのも大きい。第3戦は2日後の日曜日の開催ということもあり、サポーターの後押しも期待できる。これまで地域CLの舞台で何度も苦杯をなめてきた栃木だが、ここに来てJFL昇格を掴む「雰囲気」が一気に出来つつあるように感じた一戦だった。

第2日の結果次第では勝点の並びが「6-6-0-0」となり、早々に決着がついてしまう可能性もあった決勝ラウンドだが、この第1試合で栃木が勝ったことにより、決着は第3日の最終戦まで縺れ込むことが確定。どのチームがJFL昇格もしくは入替戦に臨むのか、更に興味深い展開となってきた。

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