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2021.11.6 - J1 : 横浜M×東京

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introduction

11/3に行われたリーグ戦の第34節から僅か中2日、東京はアウェイ・日産スタジアムに乗り込み、横浜Mとの一戦に臨む。日程的には過密で、コンディション調整は難しいところだが、次節からは週末開催のみでフィニッシュを迎えることになるので、まずはここを乗り切りたい。

昨季の横浜とのアウェイ戦はビジターサポーターの来場自粛が要請されていた関係で、日産スタジアムを訪れるのはおよそ2年ぶり。前回の訪問は忘れもしない2019年のリーグ戦最終節、目の前で横浜にリーグタイトル獲得を許したあの一戦だ。あの日の満員のスタンドとは異なり、今日のスタンドは時節柄どうしても空席が目立つシチュエーションになってしまったが、このスタジアムで行う試合はいつも等しく、ちょっとした高揚感がある。

現在2位につけているホームの横浜は、前節のG大阪戦で0-1と敗戦。かたや首位・川崎がドローで勝点を積み上げたことにより、リーグ戦4試合を残して川崎のリーグ優勝が決定。横浜のリーグタイトルの可能性は完全に潰えたばかりだ。タイトルを逃したショックからいかに立ち直っているか、マインドセットが問われる試合だ。

一方の東京は、前節の清水戦で4-0と大勝し、自信をつけて臨む一戦。中2日の日程ということもあり、スタメンは入れ替えが発生している。特に品田は久々のスタメン出場であり、どの程度試合にフィットできるかがポイントになりそうだ。残りのリーグ戦でACL出場権を争っている上位チームとの対戦は今節が最後となるだけに、試金石の一戦でもある。

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1st half

試合が始まるやいなや、横浜の猛攻が始まる。2分、喜田のスルーパスに前田が易々と抜け出して決定的なクロスを送り込むが、これは中のエウベルに合わず。7分にはエウベルが左サイドで起点を作り、内側のレーンに入ってボールを受けた扇原のクロスに逆サイドのマルコスが合わせるが東京がブロック。東京は失点だけはどうにか防ぐが、ピンチの連続だ。

10分、横浜は自陣でのボール回収から仲川へ楔のパスを入れると、仲川がキープしたボールを前田が引き取り、DFラインの裏に大きく持ち出して得意のスプリントでDFラインを引きちぎり独走。ゴールマウスを捨てて飛び出した波多野が一旦は止めたかに見えたが、そのこぼれ球が不運にも再び前田の足元にこぼれ、悠々とゴールに押し込まれて1-0。ここまで決定機を2回防いだ東京だが、結局早い時間帯に先制点を許してしまう。

横浜の攻撃は止まらない。17分にはPA内でのこぼれ球の競り合いで森重が仲川を倒してしまい、一度はプレー続行となるものの、VARが介入。オンフィールドレビューの末、西村主審が横浜にPKの判定を下す。これをマルコスがゴール左隅に決めて2-0

更に24分、扇原の左サイドからのクロスに波多野が飛び出すものの、ボールが伸びたのか満足に弾ききれず、ボールがこぼれた先に待っていた右SBの小池がダイレクトでゴールに押し込み3-0。これはおそらく中途半端な飛び出しになった波多野の判断ミスだ。

東京は崩される場面の多い右サイドに東を配置変更し、ディエゴとレアンドロを前線に残した4-4-2のシステムに変化。戦術的意図のある変更ではなく、単に「これ以上傷口が広げるのを防ぐための一時的措置」でしかない。更に飲水タイム後、2枚替えで青木・渡邊が入り、拓海・品田がアウト。品田は全く攻撃で目立てていなかったし、拓海はエウベルや扇原への守備対応で完全に後手を踏んでいた。拓海はピッチアウト後もベンチに戻らず、そのままロッカールームに直行。とにかく空気が良くない。

38分、今度は横浜の右CKにPA内での競り合いで森重がチアゴに対して手を使ったファウルでPKの判定。これが2枚目の警告となった森重は退場。更にPKを前田が豪快にど真ん中に沈めて4-0。これで東京はただでさえ数的不利の中、4点もの差を追うことになり前半を終える。残念だが、勝点奪取の可能性はほぼゼロだろう。ここからは「矜持」の問題だ。

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2nd half

後半に入っても横浜は攻勢を緩めない。48分、横浜は左サイドを崩してティーラトンが入れたクロスに、中央の前田が頭で合わせて5-0。東京は後半の入りでまたしても出鼻を挫かれる。東京は後半から東を最終ラインの中央に下げる3-3-2-1のようなシステムに変更。どうにか立て直したいという意図は感じるが、劣勢を覆すほどの劇的な改善は無い。

62分、横浜は3人を同時に交代。通常ならばバランスを失うリスクを伴う采配だが、この点差ならば何の問題も無いだろう。そしてこの交代で投入された水沼が輝く。69分、東京の陣内でのパスカットからショートカウンターが発動し、右サイドからPA内に侵入して中央のレオセアラからパスを引き出した水沼が、後方から走り込んだ小池に落とす。小池がダイレクトで強烈なシュートをゴール左隅へ叩き込み6-0。この時間帯になってもなお横浜の前への圧力は衰えず、東京がミスを誘発させられる形だった。

83分、再び右サイドを攻め上がった水沼のアーリー気味のクロスに前田が飛び込む構えを見せる。東が懸命に足を延ばして先に触るが、これでクロスのコースが変わり、そのままゴールに突き刺さって7-0。必死にプレーしたが故のオウンゴールというのは、見ていて辛いものがある。

更に86分、横浜は自陣からカウンターを仕掛け、またしても右サイドでフリーでパスを受けた水沼がドリブルで独走。最後はエリア外から強烈なミドルシュートをゴール右隅に突き刺して8-0。東京は公式戦でクラブ史上最多となる8失点目だ。終盤の横浜の猛攻は凄まじく、もしかしてクラブ記録を狙っているのか?と思わせるほどの勢いだったが、圧巻の「ゴールショー」はここまで。8-0で試合終了となった。

試合後、呆然とした佇まいで力なく挨拶に向かう東京の選手たちに、ビジタースタンドからは疎らな拍手だけが贈られた。選手から少し遅れて、長谷川監督がスタンドに向かい、深々と頭を下げる光景が印象に残った。

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impressions

FC東京のクラブ史に残る、記録的な大敗だった。マインドセットの面ではリーグタイトルを逃した直後の横浜も難しかったはずだが、逆に失うものが無くなったことで、むしろチームのスタイルを全面に押し出し、強気に前へ出てきた。そこで耐えられれば別の展開もありえたかもしれないが、前田の個人能力で最終ラインをブレイクされて先制を許し、更にその後、VAR介入によるPKでの2点目、ミスによって与えた3点目、退場者を伴うPKでの4点目と、ことごとく悪い形の失点が続いた。このような展開で平常心を保ちながらプレーするのは、簡単なことではないと思う。

後半は東を最終ラインに下げるという思い切った采配。森重の退場により、思わぬ形でJ1リーグ戦デビューを飾ることになった大森をサポートする目的で隣にキャプテンを置いた、という旨をDAZNのインタビューで長谷川監督が説明していたが、ただでさえ数的不利の状況で、味方のサポートもままならない中、全てを対応するのには無理がある。途中出場の水沼に大森のサイドを蹂躙され、失点を重ねたのは必然だった。せめて1点でも返そうとリスクを負い、その結果としてカウンターを食らっているので、仕方ない結末ではあるが、大森には可哀相な試合になってしまった。

上に記した事柄以外にも、大敗の要因はあるはずだ。2019年シーズンにリーグタイトルをあと一歩のところで逃し、ここ2年間は課題であったオフェンス強化に取り組んできたが、その反面、ディフェンスへの負荷は間違いなく上がっていた。今季、特に後半戦に入ってからDFの負傷者が相次いでいるのも決して無関係ではないはずだ。そして今日、不運な失点や退場者がトリガーとなり、持ちこたえていたバランスが遂に崩れてしまった。そのように見るのが妥当ではないだろうか。今の攻守のバランスでは、リーグ優勝はおろか上位進出も難しい。その現実を突きつけられた90分間だった。

ベンチワークも、自分たちの傷口をこれ以上広げないための采配に終始して全てが後手に回った。この展開では最早手の打ちようが無いというのも充分に理解できるが、メンタルとフィジカルがなかなか連動せず、長谷川監督が発破をかけても効果が出なくなってきているように感じる。長期政権の難しいところだ。まだシーズンは1ヶ月残っているが、チームがひとつのサイクルの終焉を迎えつつあることを窺わせる試合だった。

個人的には、この大敗に接して、怒りや悲しみといったようなマイナスの感情は特に湧いてこなかった。こういう試合に立ち会うたび、チケット代を払ってまで酷い試合を見せられて嫌じゃないのか?と聞かれそうだが、こんなに分かりやすい形でチームの崩壊が観られる機会というのも、そう滅多にあることではない。成功だったのか、失敗だったのか、よく分からないまま総括もできずに次のシーズンを迎えるよりは遥かにマシで、清々しさすら覚える。負け惜しみでも強がりでもなく、この現場に立ち会うことができて本当に良かった。そして、奇しくもその舞台が2年前に辛酸を舐めた時と同じ日産スタジアムであることにも、運命めいたものを感じた。

試合翌日の11/7、長谷川健太監督が自身の申し出により辞任したことがクラブから発表された。長谷川監督の4年間の功績に深く感謝したい。

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