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#34【インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦】ep.2「ヴィラン音楽の考え方と裏メインテーマについて」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#34にあたる内容を再編集したものです。

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【インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦について】

1989年公開
監督:スティーブン・スピルバーグ
音楽:ジョン・ウィリアムズ

登場人物

インディアナ・ジョーンズ(ヘンリー・ジョーンズ Jr.):
考古学者で冒険家。

ヘンリー・ジョーンズ・シニア:
インディの父。聖杯研究をおこなう考古学者。

エルザ・シュナイダー:
オーストリア人の考古学者。裏でナチスに協力している。

マーカス・ブロディ:
大学の副学部長でインディの古い友人。1作目に引き続き出演。

ウォルター・ドノバン:
大富豪。ナチス党員であることを隠し、インディに調査の依頼をする。

エルンスト・フォーゲル:
ナチス親衛隊大佐。聖杯探索の指揮をとる。

サラー:
インディの友人。1作目に引き続き、インディに協力する。

カジム:
聖杯の秘密を守る一団のメンバー。


【前回の振り返り】

 前回はメインテーマの使われ方と音楽がないシーンをみてきました。
 メインテーマが演奏されるのは、インディーさんに関連することはもちろん、ポジティブな感情、言い方を変えると有利にことが運んだ時に演奏されることがわかります。
 映画冒頭ではルーツについて演奏され、中盤では物理的な優位性に対しての演奏、そして最後に内面性の演奏がされていました。
(演奏)
 音楽がないシーンでは、音楽が演奏されないシーンをみていくことで、映画内の優先度をみることができました。
 重要人物の登場であったり、銃火器による戦闘など、そのシーンが一番大事にしている事をよりみやすくするための工夫として、音楽を削除していました。

【ヴィランのテーマ】

 今作のメインテーマが主人公であるインディージョーンズさんのテーマだとすると、もちろんヴィランのテーマも用意されています。
 ヴィランのテーマは特定の人物を指すわけではなく、敵の組織全体として使われます。
 今回の敵組織はドノバンさんとドイツ軍です。
 ですので、ドノバンさんやドイツ軍を指揮するエルンスト・フォーゲルさん、あとはドイツ軍兵士となります。
 アップルミュージック インディー ジョーンズ & ザ ラスト クルセード(オリジナル モーション ピクチャー サウンドトラック)10曲目に収録されている「アラーム」という楽曲の0:15あたりから演奏されるのが今回のヴィランのテーマとなります。
(演奏)
 非常に力強いですが、暗くマイナー調で書かれているのが印象的な楽曲です。
 短いフレーズで敵である事を理解させる作りはとても合理的ですね。
 そのため状況に合わせて使いやすいのも特徴的です。
 劇中に何度か演奏されますが、テンポを変えたり和声を変える事で状況に合わせていました。
 今回もいくつかのシーンを抜粋して、どの状況で演奏されていたかを見ていきましょう。

ヴィランのテーマ シーン1

59:42
 ドノバンさんが敵軍に加担している事が明らかになり、インディさん親子を消すように指示を出すシーンです。
 このシーンではインディさんたちに直接言うのではなく、車で去り際に兵士に指示を出すところが、非常に悪役ポイントが高いと言いますか、自ら手をくださない感じが悪さを助長していますよね。
 加えてこの悪そうな音楽で、準備は万端と言った感じです。

ヴィランのテーマ シーン2

1:03:34
 
次にバイクで逃げたインディさん親子を兵士が追いかけてくるシーンです。
 このシーンではうまく出し抜いたと思っていたけれども、早々に追い付かれてしまうシーンです。
 状況の裏切りとして使っていますね。
 うまくいったと思ったら、まだまだダメだったというような、視聴者の気持ちを逆撫でする作りになっています。
 ですので、ヴィランのテーマがとてもハラハラさせるイメージを与えています。

ヴィランのテーマ シーン3

1:16:11
 うまいこと敵軍の網を潜り抜け、飛行船でドイツ国外への逃亡を図ろうとした矢先、その飛行船がドイツへと引き返していることに気づくシーンです。
 また状況の裏切りですね。
 平和になったと思ったらまたなにか障害が生まれる、一難去ってまた一難のパターンです。
 この時にヴィランのテーマが演奏されるというは、飛行船のトラブルでも悪天候による引き返しでもなく、相手の勢力によるものである事が示されています。

ヴィランのテーマ シーン4

1:23:31
 
敵軍が聖杯のある遺跡に向かうために装甲車と軍兵を率いているシーンです。
 明らかにインディーさんたちとの戦力差を感じる絶望的シーンです。
 このシーンにヴィランのテーマが演奏されることで、より強力な敵に直面していることがわかりますね。

ヴィランのテーマ シーン5

1:31:31
 
いざ敵軍との戦闘になり、指揮官であるエルンスト・フォーゲルさんと戦闘が始まるシーンです。
 装甲車のハッチからのそりと顔を出す時に演奏されます。
 非常に強者の風格があります。

ヴィランのテーマ まとめ

 ざっとみてきたのですが、ヴィランのテーマは全てが全て登場に合わせて演奏されるわけではなく、ヴィランがヴィランらしい行動をとった時に演奏されています。
 例えば、ドノバンさんが自らの手を下さずに指示を出すシーンであったり、逃げきれたと思わせておいて、すぐに追いつかれそうになってみたりと、ヴィランが優勢に立っているようなシーンでの演奏が目立ちます。
登場シーンでの演奏は、敵を強大に見せる仕掛けとして演奏されていました。
 軍隊の登場時に演奏する事で、それらは敵であるということと、武力も強く見えるように感じる仕掛けになっています。
 エルンストさんの登場時も同じ仕掛けですね。
 敵である事、強そうに見える事、この二つがすぐにわかるような構造になっています。
 そのために、重くて暗い、さらにいうと意表を突くような音を入れることで、恐怖感も与える作曲になっています。
 ヴィラン音楽はヒーロー音楽と一緒で、ある程度作り方のテンプレートがあります。
 その方法はメロディの場合、マイナー調、特にダイアトニック・マイナーというスケールを用いて作曲されます。
 さらにトライトーンであったり、不協和音も用いられるという特徴も持っています。
 激しいアクションシーンや、ホラーの作曲に少し似た側面を持っています。
 これらの手法が使われる理由はやはり敵だからです。
 一種の不快感を与える事で敵という共通認識を抱かせて、勢力図をはっきりさせます。
 もちろん全てがというわけではありませんが、多くの作品に用いられている手法です。
 これらのことをまとめると、今回のヴィランにはヴィランらしい作曲がされ、ヴィランを強く見せる効果と、ヴィランがヴィランらしい行動をとる時に演奏されていました。
 非常にストレートな表現が生きる作品ですので、みていても誰が誰だかわからなくなったりせず、敵味方の判断がつきやすい構図になっていたのもこの映画が長年愛されている理由かもしれません。


【聖杯にまつわる音楽】

 この作品はざっくりいうと永遠の命が手に入るという聖杯をめぐる小競り合いというか、戦いをするという話なんですけれども、その聖杯にはもちろん音楽が用意されています。
 いわゆる目的である聖杯のライトモチーフですね。
 アップルミュージック インディー ジョーンズ & ザ ラスト クルセード(オリジナル モーション ピクチャー サウンドトラック)4曲目に収録されている「アー、ラッツ!」という楽曲の1:46あたりから演奏されます。
(演奏)
 このメロディが聖杯のライトモチーフとなるということは、どの程度聖杯に関わった時、演奏されるのかが気になるところです。
 例えば、聖杯に関わる全てのことに対して演奏していたら、この映画は聖杯の曲ばかりになってしまいます。
 ですのでシーンを見ていって、どのような関わりで演奏されているかを調べることで、なるべく言語化してみようと思います。

 シーンはいくつかに分けることができます。
 今回は二つに分けていこうと思います。
 ひとつめは聖杯の謎に触れ始める場面と、ふたつめは聖杯の試練に挑み聖杯を手に入れるまでの場面のふたつに分けることができます。

聖杯の謎に触れ始める場面

 聖杯の謎に触れ始めるシーンでは映画の前半部分に当たります。
18:34
 ドノバンさんがインディーさんを招いて、半分崩れた石版から聖杯の存在を明らかにするシーンです。
 映画の始まりと言ってもいい冒険の目的が提示されるシーンです。
 聖杯自体の核心に触れるわけではないのですが、聖杯に関連する内容であることが演奏の動機になっています。
 ここは聖杯を探す始まりになります。

25:06
 次にベニスへの移動中を表現した飛行機と地図のシーンです。
 このシーンでは、父から送られてきた手帳に目を通しています。
 この手帳は聖杯に関する内容が書かれているようで、どんどん聖杯に近づいていることが演奏の動機になっています。
 ここは聖杯を探す途中になります。

34:45
 ここでは欠損のない石版を見つけ、聖杯について大きく前進したシーンです。
 映画としてはここで聖杯の核心に触れることになります。
 ここまでで聖杯の謎自体は解決しています。
 ですのでここは聖杯を探す終わりになります。

 わりと映画前半部分で聖杯を探す謎に関しては終わりになります。
 この後に演奏されるのは聖杯のある遺跡でのシーンになります。
 ですので、中盤からは父との逃走劇になるということですね。
 なので中盤は演奏されることなはく、1時間以上経ってから演奏されることになります。

聖杯の試練に挑み聖杯を手に入れるまでの場面

 次に演奏されるのは映画終盤の聖杯のある遺跡のシーンです。
1:43:49
 父のヘンリーさんが銃で撃たれ、助けたかったら遺跡を攻略するように言われるシーンです。
 この遺跡の攻略が=聖杯を手に入れる、ということになりますね。
 ここからは聖杯の本体に触れることが演奏の動機です。

1:44:18
 ここはインディーさんが1つめの罠に挑むシーンです。
 罠に挑むことが聖杯に近づくという意味を持っていますね。
 この後罠が3つ登場します。
 その度にライトモチーフが演奏されます。
 ですので、
1:46:00
が2つめの罠に挑むシーンです。
 次に
1:47:27
が3つめの罠に挑むシーンです。
 罠の内容に関わらず、罠に挑むことが演奏の動機になります。

 次は
1:54:15
 罠を終えた後、とうとう聖杯を手にするシーンです。
 初めは聖杯の守護者とドノバンさんとのやりとりがありますが、その後とうとう聖杯を手に入れます。
 ここで演奏されなければいつ演奏されるんだという、動機含め演奏されてしかるべきシーンです。

1:58:00
 聖杯を手に入れて父を救った後、聖杯は地割れの隙間に落ちてしまいます。
 聖杯を諦めて、崩れていく遺跡から逃げる途中、聖杯を守っていた守護者と出会います。
 父のヘンリーさんは、聖杯を40年も追い続けていたので、感慨深いように別れを告げます。
 守護者が手を挙げて挨拶した時に、カデンツがくるように作られていますね。

1:58:42
 ラスト遺跡から無事逃げ切って、インディーさんと父ヘンリーさんが、全体の締めに入るシーンです。
 ここでの演奏はこの映画全体が聖杯を追った冒険であった事を示しているように感じます。

聖杯にまつわる音楽 まとめ

 聖杯のライトモチーフが演奏されるシーンをみてきました。
 ちなみに番外編として、
40:44
 聖杯を守る十字剣兄弟団という勢力の存在を確認した時に演奏されます。
 シーンの前後は欠損のない石版から、聖杯の情報を手に入れて、その後この十字剣兄弟団という連中に襲われます。
 なんだかんだあって誤解が解けて、自らの存在を明かしてくれた時に演奏されます。
 ここは聖杯を守るための団体が登場するという、聖杯に関連していることが動機になっていますね。
 このシーン群をみてみると、前半後半に分けられることがわかります。
 前半は聖杯の謎に対して演奏されていて、後半は聖杯の核心に触れる事が演奏される動機になっていました。
 このことから、聖杯に関しては謎解きパートと遺跡挑戦パートに分かれていることがわかりました。
 これが聖杯のライトモチーフが演奏される動機でした。


【エンディング】

 2回に渡り、インディージョーンズ 最後の聖戦をみてきましたが、非常にシンプルな表現で、視聴者を混乱させないように敵対関係の構図が明確にされていました。
 そのおかげで、映画のアドベンチャーの要素とヒーローの要素をわかりやすく感じる事ができましたね。
 僕は裏切り者も出る映画は、あまりに複雑になると誰が誰だか分からなくなってしまいがちなので、とても助かる仕組みでした。
 次回は「マッドマックス~怒りのデスロード~」、様々な作品に影響を与えたマッドマックスの第4作目です。
 過去作全てを観ていなくても楽しめてしまうのはマッドマックスの魅力の一つとも言えますね。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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