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#14【ハムナプトラ / 失われた砂漠の都】ep.1「B級ホラーからの見事な転生。これぞリメイクの醍醐味」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#14にあたる内容を再編集したものです。

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【ハムナプトラ / 失われた砂漠の都について】

1999 年公開
監督:スティーヴン・ソマーズ
音楽:ジェリー・ゴールドスミス

作曲家作品

猿の惑星
オーメン(アカデミー作曲賞受賞)
エイリアン
スター・トレック
ランボー
グレムリン
トータル・リコール
ムーラン

登場人物

リック・オコーネル:
 元フランス外人部隊のアメリカ人。エヴリンらとハムナプトラを目指す。

エヴリン・カナハン:
 カイロ博物館に勤務する女性。

ジョナサン・カナハン:
 エヴリンの兄。財宝目当てにハムナプトラを目指す。

アーデス・ベイ:
 古代からイムホテップ復活を防ぐため活動していた集団「メジャイ」の一員。

テレンス・ベイ博士:
 エヴリンの務めるカイロ博物館館長であり、「メジャイ」の一員。

イムホテップ:
 復活した古代エジプトの大神官。恐ろしい妖術を操る。

アナクスナムン:
 古代ファラオの愛人。イムホテップと道ならぬ恋に落ちる。

ベニー・ガーバー:
 かつてのリックの部下。復活したイムホテップの手下になる。

あらすじ

 1923 年のカイロ。
 カイロ博物館で働くエヴリンさんの元へ、ある日兄のジョナサンさんが奇妙な地図を持って訪れます。
 ジョナサンさんによると、地図には財宝が眠る古代の都市「ハムナプトラ」の場所が記されているといいます。
 2 人は地図の真相を確かめるべく、地図の持ち主であったリックさんとともにハムナプトラを目指します。
 道中謎の集団からの妨害を受けながらもハムナプトラへと辿り着き、念願の「死者の書」と謎のミイラを発見した一行。
 しかし死者の書を読んだことで、古代エジプトの大神官イムホテップさんのミイラが動き出してしまいます。
 現代に蘇ったイムホテップさんは、完全復活のため次々に人を殺し、生気を吸い尽くしていきます。
 そしてついには、恋人であるアナクスナムンさん復活のための生贄として、エヴリンさんまでもさらわれてしまいます。

【アラビア音楽】

 今回はエジプトを舞台にしている映画ですので、アラビア音楽、アラブ音楽という民俗音楽に、ハリウッド映画の映画音楽というのが共存している世界観の話をしていきます。
 ここでは便宜上アラビア音楽に統一します。

The Sand Volcano

1:45:42
 アムン・ラーの書を見つけ、ミイラを操れるのか、操れないのか、ハラハラの戦闘シーンです。
 Apple Music ハムナプトラ/失われた砂漠の都(オリジナル・サウンドトラック)の15曲目に収録されているThe Sand Volcanoというタイトルの楽曲です。
(演奏)
 このようにエジプトっぽいといいますか、アラビアっぽいといいますか、風土が見えてくる音階が随所に使われています。
 これはアラビア音楽に属する民俗音楽の一種の音階です。
 アラビア音楽とは主にアラビア語圏の人々の音楽とされています。
 エジプトもそのひとつで、そこにはマカームと呼ばれる音階が存在します。
 ここで多く使われているのは、ヒジャーズやナワサルというマカームです。
 一応ここで断りをいれておきますと、このマカームは非常に難しく、150以上あると言われていますし、組み合わせによってはもっとあるそうです。
 アラブ音楽は非常に奥が深く、そして難しいので、あくまでも映画音楽で使いやすい、今回でいうとハムナプトラで使われている音階のみを紹介します。
 ですので、もし興味が湧いた方は各々で勉強されると面白いと思います。
 僕自身も民俗音楽家ではありませんので、あまり踏み入ったお話はできませんので、あくまでも映画音楽として楽曲に組み込んだことを想定してお話します。

 話は戻って、この後♭が使われるのですが、ここではいわゆる西洋音楽での♭を使います。
 アラビア音楽に登場するのは、♭の棒に斜線を引いた中立音程というかなり絶妙な音程を用いています。
 例えば、E♭より高いけどEより低いという、ギターでいうところのクォーターチョーキングのような音程を使用します。
 ただここでは便宜上♭は♭として扱います。

マカーム・ヒジャーズ

 マカーム・ヒジャーズ(ジプシー・メジャー・スケール)という音階は日本人からすると非常に聴き覚えのある、聴くとエジプトの香りを感じられそうな音階です。
C/D♭/E/F/G/A♭/B/C
(演奏)
 メジャースケールから2度と6度を♭させるとこの音階に酷似した音階を得ることができます。
 こうした風土を感じる音階というのは多数存在していて、日本では47抜きや沖縄らしい27抜きなどが存在します。
(演奏)
 他にも雅楽の呂旋法(りょせんぽう)や律旋法(りつせんぽう)などがあり、俗楽では陽旋法や陰旋法などがあります。
 海外にも有名なものですとスコットランドの音階などがありますが、ここでは割愛します。

マカーム・ナワサル

 次にお話する音階もジプシーの音階として有名です。
 マカーム・ナワサルという音階は細かくいうと、C/D/E♭/F#/Gまでらしいのですが、そのままだと映画音楽では使いづらいので、その後を組み合わせるとこのような音階が出来上がります。
C/D/E♭/F#/G/A♭/B/C
(演奏)
 非常に風土を感じるイケてる音階です。
 今回のハムナプトラは、この二つを掛け合わせたような音階が多く使われています。
 もちろん映画音楽は西洋音楽に基づいているものなので、この掛け合わせを非常にうまく用い、作曲している点はやはり希代の大作曲家です。
 そしてこれらを作曲に組み合わせることで、映画音楽として昇華させ、どの場所で起きている出来事かを音で説明することができます。
 このシーズンで紹介する楽曲もこの音階を踏まえた作曲が非常に多いので、はじめに紹介しました。

【アクション映画にホラー音楽の絶妙な要素】

 映画全体はアラビア音楽の影響を多分に受けています。
 そしてその音楽的影響を映画音楽、ハリウッド映画サウンドというフィルタを通すことで、映画に落とし込んでいます。

 この映画「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」は、もともと1932年公開カール・フロイント監督「ミイラ再生」と1959年に制作されたテレンス・フィッシャー監督「ミイラの幽霊」に続き2度目のリメイク作品だそうです。この2つの映画はホラー映画として描かれています。
 今回の「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」ではアクション・アドベンチャー映画として描かれています。ですので、映画全体はアクション、もしくはアドベンチャーの映画音楽が多く使われています。
 しかし、この作品はホラー映画のリメイクという側面も持ち合わせています。ですので、アクション・アドベンチャー・ホラーの3要素が、アラビア音楽を基に、ハリウッド映画サウンドとして作られているわけです。

Discoveries

0:54:39
 死者の本が入った箱を開ける時に演奏される楽曲です。
 Apple Music ハムナプトラ/失われた砂漠の都(オリジナル・サウンドトラック)の10曲目に収録されているDiscoveriesという楽曲の一部です。
(演奏)

 冒頭は、4つのメロディラインからなる4部対位法を用いています。
 それぞれのラインは異なるリズム構造を持ち、異なる音域に配置されています。
 リズムと音域で4つのアイデアを分離することで、各ラインを別々のアイデアとして聴き手に聴かせるようにしています。
 特に、セリフは非常に断片的で、休符や一時停止が組み込まれていて、短いセグメントに分割された素材となっています。
 ホラー系では、メロディが存在する場合、非常に断片化された短いメロディが使用されることが一般的です。

 4つのラインをみてみると、低音部はEとF#の間で揺れ動くゆっくりとしたパターンです。
(演奏)

 次は、ベースラインの上の三音(Eの上のB♭とF#の上のC音)を弾くもので、B♭とCの間で揺れています。
(演奏)

 高音域では、G-F#-E-D#を使った断片的な旋律を加えます。
(演奏)

 中音域では、G-F#-E-D#をリズミカルに変化させ、第4のラインを追加しています。
(演奏)

 面白いのは、上声部と下声部が逆の動きをすることです。
 低音部ではEからF#へ、B♭からCへと上昇し、高音部はGからF#へと下降していきます。
 そしてメロディをつなぎ合わせることで、オクタトニックスケールという音階を使用していることがわかります。
E-F#-G-A-B♭-C-C#-D#
(演奏)
 ではオクタトニック・スケールとはなにかというと、通常スケールは7つの音で一回りするように作られています。
 しかしオクタトニックスケールは1オクターブあたり8つの音程を持ち、マイナー2ndとメジャー2ndの音程を交互に繰り返します。
 特にホラーやサスペンス音楽では、マイナーサードの関係が多く、これを積み重ねてトライトーン、ディミニッシュトライアド、ディミニッシュセブンスコードを作ることができ、怖いホラー音楽には非常に有効です。

 最後の方では、4部構成の対位法が止まり、和声による出番が多くなっています。
 この楽曲で使用された和音をいくつか見てみると。
 楽曲のクライマックスで、低音域に置かれた0-1-6-7の和音を使っています。
 この場合、C、D♭、F#、Gの4つの音程が使われています。
 Cは低音域でもオクターブで使われており、コードのベース音としてクリアで強い音を作り出しています。
(演奏)

 その後、高音域で不協和音の和音が持続します。
 F#、G、A♭、B、C、D♭の6音で、0-1-2-5-6-7という和音になります。
 F#とBが1オクターブ上がっているので、完全なクローズド・ヴォイシングにはなっていません。
 この0-1-2-5-6-7という数字は音階を0から11までで一周するセットセオリーという考え方で、20世紀音楽の分析などに用いられる音階です。
(演奏)

 次のオクターブまで半音階で構成された音階ということですね。
(演奏)

 これらのコードは、マイナー・セカンドという組み合わせを積み重ねることで作り上げています。
 非常に不協和音で不気味な居心地の悪い雰囲気を作り出します。

 あまり詳しくなりすぎると眠たくなってしまいそうですから、この辺りにしておきます。
 このようなホラー音楽を作る手法がたくさんあり、これらもほんの一部となります。
 このように本作では、アクション・アドベンチャー映画にホラー音楽の要素が多分に取り入れられています。
 しかしこの映画以外にも、ホラー音楽とバラードというのは映画の本筋とは別の要素として用意されることがよく見られます。
 その要素は映画にさらなる栄養を与えて、オーディエンスに色彩豊かな感情を呼び起こすことのできる要素だと思います。
 この映画ではそのホラー要素を非常に色濃く残し、アクション・アドベンチャー映画でありながらホラー映画の側面を持っていました。

【エンディング】

 今回は「ハムナプトラ / 失われた砂漠の都」から、アラビア音楽に特有のマカームという音階と、映画に含まれるホラー音楽の要素を見てきました。
 次回もハムナプトラから、本作のヴィランであるイムホテップさんのライトモチーフと、英雄的なテーマの様々な使われ方を取り上げる予定です。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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