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#18【シザーハンズ】ep.2「終わり良ければすべてよし、始まり良ければ気分よし」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#18にあたる内容を再編集したものです。

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【シザーハンズについてについて】

1990年公開
監督:ティム・バートン
音楽:ダニー・エルフマン

登場人物

エドワード・シザーハンズ:
 発明家によって作られた人造人間。両手がハサミになっている。

キム:
 ペグとビルの娘。ジムの恋人。

ペグ:
 キムの母。化粧品会社の販売員。エドワードを家に招き入れる。

ビル:
 キムの父。

ケヴィン:
 キムの弟。

アレン巡査:
 エドワードを逮捕した黒人警官。

発明家:
 丘の上の屋敷で暮らす孤独な老人。エドワードを作り上げる。

ジム:
 キムの恋人。エドワードを利用して、自宅に盗みに入る。

【イントロダクションとストーリータイム】

 映画冒頭で演奏されるイントロダクションという楽曲と、老婆が孫に雪がなぜ降るかのお話をしてあげるシーンで演奏されるストーリータイム。
 この非常に似ていて全く逆のような二つの楽曲の話をしたいと思います。

 まずはアップルミュージック、エドワード・シザーハンズ(ミュージック・フロム・ザ・モーションピクチャーズ)1曲目に収録されている、「イントロダクション」という楽曲です。
(演奏)
 非常に物悲しく、どこか寂しげで寒く冷たい印象の楽曲です。

 次にアップルミュージック、エドワード・シザーハンズ(ミュージック・フロム・ザ・モーションピクチャーズ)2曲目に収録されている「ストーリータイム」という楽曲の冒頭です。
(演奏)
 どこか優しげで、温かみがあります。

 この2曲には非常に似たフレーズがあります。
 それは初めのフレーズです。
(違いを演奏)
 その後に出てくるメロディーもそうなのですが、この2曲はある意味で同じ目的で書かれています。
 イントロダクションではマイナー調で書かれているのに対し、ストーリータイムではメジャー調で書かれています。

 ではシーンを合わせて見ていくと、冒頭、
00:00:15
20 Century Foxのロゴ登場後、孤城の壁面、ドアから始まります。
 そこからスタッフの名前が登場する背景では、モノクロで城の内部や城に関連するもの、そして雪が映像で流れていきます。
 そして、
00:02:48
雪の降る城を遠くから眺めているような映像に変わり、その時にイントロダクションの演奏が終わります。
 そしてモノクロだった映像に色がつき、ストーリータイムの演奏が始まります。
 雪の降る寒い外からカメラが引いて、暖かそうな暖炉が印象的な室内に場面は移ります。
 そこには子供に雪のお話をしてあげる一人の老婆がいます。

 これには2つの音楽的な仕掛けが施されています。
 1つめの仕掛けは、この映画の大きな役割としてモノクロとカラー表現のイメージです。
 モノクロの表現にはイントロダクションを演奏し、カラーの表現にはストーリータイムが演奏されます。
 これは明確にモノクロには無機的、寂しさ、悲しさ、寒い、冷たい印象を与えています。
 反対にカラーには有機的、安心感、優しさ、暖かさなんかの印象を与えます。

 もう1つの仕掛けは、気温もしくは外と中です。
 セリフにもある通り、老婆は「暖かくして、外は寒いよ」というセリフが入ります。
 雪の降る寒い外ではイントロダクションが演奏され、暖炉で火が焚かれる暖かい室内では、ストーリータイムが演奏されます。
 この対極のイメージが一つのメロディ、もしくはハーモニーで演奏されているのがこの2曲です。
 このように続けて演奏される2曲は独立した楽曲でありながら、ひとつのイメージに対して演奏されています。
 それは主人公であるエドワード・シザーハンズさんの為の演奏だということす。
 この2種類のシザーハンズのイメージというのが、なぜ生まれるかというと、それはシザーハンズへのイメージの違いになります。
 それは映画を最後まで見ればわかるのですが、映画の冒頭、
00:04:38
までは現在の時間軸で、雪が止んでからは過去の話になります。
 ということは映画冒頭は、現在孤城に一人で暮らすエドワード・シザーハンズさんにイントロダクションが演奏され、それに対して老婆になったヒロインのキムさんのシーンではストーリータイムが演奏されるわけです。
 それだけキムさんはエドワード・シザーハンズさんの優しさや暖かさを知っているという泣かせる演出をいきなり入れてくるあたり、ティム・バートン節といいますか、それにしっかり答えちゃうあたりがダニーエルフマンさんのキレッキレの技で、この演出の効果を何倍にも増幅させています。

イントロダクションとストーリータイム まとめ

 イントロダクションとストーリータイムという2曲に秘められた仕掛けをみてきましたが、それには大きく2つのイメージの違いからくるものでした。
 1つは色に対する演出、もう1つは気温、外と中の違いからくる演出でした。
 そのどちらもエドワード・シザーハンズさんに向けられた楽曲で、彼のことをみている目線、言い方を変えると印象が、音楽に大きく影響を与える形になっていました。

【思い出の共通点】

 この映画にはかつてエドワード・シザーハンズさんを作った博士との思い出のシーンが出てきます。
 そのシーンは3つなのですが、思い出のシーンには音としての共通点がいくつかあります。
 それを紹介していきます。
 まずはシーンの紹介です。

思い出の共通点 シーン1

00:33:19
 主人公が自動缶詰開け機を見つめている特に回想シーンに移ります。
 ここでは博士がシザーハンズを生み出すことを思いつくシーンです。
 生まれる前のことだから思い出ではないのでは?という気もしないではないのですが、このシーンはシザーハンズの生まれる始まりとなった重要なシーンです。
 アップルミュージック、エドワード・シザーハンズ(ミュージック・フロム・ザ・モーションピクチャーズ)5曲目に収録されている「ザ・クッキー・ファクトリー」という楽曲です。
 細かいことは抜きにして、音楽を軽くさらってみると、楽曲の始まりは高音のストリングスから始まります。
 そこから低音の金管楽器が始まる、ナイトメア・ビフォー・クリスマス「ハロウィーンタウンへようこそ」を彷彿とさせる楽曲が始まります。
 これぞダニーエルフマンさんという感じで、人間以外のなにものかが陽気に動いている姿を楽曲で表現したかのような構成は、007の「ジェームズ・ボンドのテーマ」やパイレーツオブカリビアンの「彼こそが海賊」の様に、新たな発明の様な、テンプレートの様なものを作ってしまった様に思います。
 そしてそのテーマが終わると、そのままアイスダンスの一節に移行するのがシザーハンズを思いつくシーンと重なります。

思い出の共通点 シーン2

00:38:16
 パーティの夜、主人公が寝る前にエチケットについての講義を受けたことを回想するシーンです。
 アップルミュージック、エドワード・シザーハンズ(ミュージック・フロム・ザ・モーションピクチャーズ)8曲目に収録されている「エチケット・レッスン」という楽曲です。
 博士の作業部屋の様なところで、シザーハンズに対してエチケットについての話をするのですが、無反応で、退屈だよなと詩を読み聞かせシザーハンズはぎこちなく笑います。
 このシーンも導入は高音の弦楽器から始まります。
 楽曲としてはイントロダクションと同じ楽曲ですが、ここは会話のセクションですので、それに合わせた編曲がなされています。
 メロディは強調されずテンポも遅く楽器編成も非常に小さいです。
 そして大きく分けて前半後半に分けることができます。
 前半はコーラスがメロディを歌うセクション、そして後半はコーラスがいなくなりメロディもなくなり、最後のフレーズでコーラスが戻ってきます。
 ここはシザーハンズが無反応な表情が映る時に、合わせて後半に移行する様に作られています。
 おそらくは、無反応とぎこちなくですが反応をみせる二つのイメージを分離することが目的の様にみえます。

思い出の共通点 シーン3

01:24:56
 キムさんが抱きしめてというものの、断ることしかできないエドワード・シザーハンズさんを、キムさんから抱きしめにいく名シーンです。
 アップルミュージック、エドワード・シザーハンズ(ミュージック・フロム・ザ・モーションピクチャーズ)11曲目に収録されている「デス」という楽曲の一部です。
 2017年にウィーンで行われたコンサートでエドワード・シザーハンズの組曲が演奏された際に、ダンサーがこのシーンの再現をする演出がありました。たしかマックス・シュタイナー・アワードだったと思うけど...
 その際にキムさんを抱きしめながら回想シーンに移ります。
 ハサミではなく、本物のような手を用意してくれた博士がそのまま亡くなってしまうシーンです。
 ここも例に漏れなく、高音の弦楽器から入ります。
 エドワード・シザーハンズさんがハサミで手に触れる時に、メロディが演奏されます。
 優しい木管楽器の音色でメロディが演奏され、唇で指に触れる時はウィンドウ・チャイムが入るなど、非常にいい雰囲気なのですが、博士の顔が歪みそのまま倒れて亡くなってしまう時に演奏は編成が大きくなり、悲しいフレーズへと移行していきます。
 そして自分のハサミでボロボロにしてしまった手をみた時に、編成は一気に小さくなりアイスダンスの一節が演奏されます。
 この時に自分の手はハサミで人を傷つけてしまうことに気づきます。
 おそらく手の入っていた箱はクリスマスっぽい装丁でしたので、現状と時期も重なり、より一層思い出したのかもしれません。

 この3シーンには色々な共通点があります。
 楽曲自体はそれぞれ違いますが、まず高音の弦楽器から始まる共通点がありました。
 これはまさにといった感じですが、回想する、現在の話ではないといったニュアンスで使われています。
 そして全てにコーラスが用いられています。
 シーン2では特にコーラスを強く意識して使われていました。
 楽曲全体を通してコーラスが入っていない楽曲もあるので、回想シーンの共通点を探すと、城、思い出、博士、といったキーワードがでてきます。
 城は大きく関係していそうで、あとの二つは回想シーンでしか登場しないので、少し参考不足です。
 城が登場するシーンではもれなくコーラスが使われていました。
 グロッケンシュピールも全てに使われているかと思いきや、シーン1では使われていませんでした。
 もちろんストリングスやウッドウィンド、ブラス、ハープなど、劇中メインで使われている楽器はここでは置いておきます。

思い出の共通の点まとめ

 回想シーンは基本、前後のプロットが大きく影響しているので、楽曲もそれに合わせられたり、そのシーンの内容に着目していました。
 しかし高音域の弦楽器から始まったり、コーラスが用いられたりと回想である音の並びは意識されていました。
 これはエドワード・シザーハンズさんが自らのことを言葉であまり発さないのが、回想につながっているという仕組みが非常に面白いです。
 もし彼がよくしゃべるなら昔こんなことがあったと言葉にしてしまえば済みますが、それを映像で思い出すということがこの映画らしさともとれます。
 もし喋っていたら、その時に音楽を合わせていたかもしれません。
 映像的にもモノトーンのイメージがある、強い色のあまり出てこないのが、回想らしさでした。
 目立つ色は赤に限定していた様にも感じられるので、シーン3は余程気合が入っていたのかもしれません。

【エンディング】

 イントロダクションとストーリータイムという曲の親和性であったり、映像的な仕掛けやプロットとのリンクをみてきました。
 メジャーとマイナーや楽器編成で両極のイメージを一つのモチーフでやってのけるのは素晴らしいの一言です。
 次回にこの違いの理由に関しての話をします。
 回想シーンでは楽器編成やテンポを変えることで、他で演奏された内容を 回想の様に編曲し使用していたのがすばらしかったです。
 思い出は今とリンクしてるのかもしれませんね。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

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