#94【DUNE / デューン 砂の惑星】ep.2「聴いたこともない音の真相」
※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#94にあたる内容を再編集したものです。
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【DUNE/デューン 砂の惑星について】
2021年公開(デューン 砂の惑星 PART2が日本で2024年3月15日より公開)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
音楽:ハンス・ジマー
登場人物
ポール・アトレイデス:
アトレイデス家の後継者。
レト・アトレイデス公爵:
ポールの父でアトレイデス家の当主。
レディ・ジェシカ・アトレイデス:
ポールの母。
ダンカン・アイダホ:
アトレイデス家の武術指南役。
チャニ:
ポールの夢に出てくるフレメン族の戦士。
ウラディミール・ハルコンネン男爵:
ハルコンネン家の当主。デューンの資源を狙う。
【前回の振り返り】
前回はバグパイプとコーラスについての話をしました。
ソロでなっていたバグパイプの音がギターの音だった、というのは衝撃でしたね。
他にもバグパイプ30人での演奏が使われていたり、主人公の家系であるアトレイデス家のライトモチーフのような、家柄の格式の高さが見えたのも面白い点でしたね。
それともう一つがコーラスですね。
声の迫力を増すために強めにコンプをかけていたり、そのコンプ感を強調するために音節を短くしたり、創意工夫が力強さのための表現として非常によく機能していました。
他にもとにかく多種多様なコーラスが使われていて、シーンに彩りを与えていました。
とここまでが前回見てきたところで、昔なにかでみたインタビューで、クリストファー・ノーラン監督のテネットの制作を断ってまで、こちらの作品に入れ込んでいたそうです。
クリストファー・ノーラン監督とハンスジマーさんといえば、2005年に公開したバットマン ビギンズからよくコンビで制作していたのですが、テネットではDUNEと制作の時期が被っていたらしく、ハンスジマーさんは断ったそうですね。
そんな、相方と言っても過言では無いクリストファー・ノーラン監督の依頼を断ってまでDUNEでやりたかった理由はなんだったのかですよね。
それは自分のイメージした音が、DUNEで再現できると思ったからかもしれません。
ハンスジマーさんはDUNEの小説を14歳の時に読んで大好きだったそうです。
しかしデビッドリンチ監督のDUNEやテレビシリーズのDUNEは観たことないと語っています。
それは頭の中に音とビジョンがあったからだそうです。
インタビューでは、たくさんの映画音楽を作ってきた音楽家になるのではなく、ある種13歳のティーンエイジャーのように制作することが目的だと語っています。
【聴いたこともない音】
ということで、そんな13歳のハンスジマーさんが求めた、聴いたこともない音についてみていこうと思います。
この映画の音楽の音はとにかく変わっています。
例えば、映画音楽でよく耳にするのは、弦楽器(ストリングス)、金管楽器(ブラス)、木管楽器(ウッドウィンド)、打楽器(パーカッション)からなる、いわゆるフルオーケストラです。
今までこのポッドキャストで取り上げたものの多くはこの編成でしたね。
このフルオーケストラから、金管楽器とパーカッションを抜けば、小編成のオーケストラになりますし、弦楽器だけになればずっと演奏されていても、耳を疲れさせません。
このように映画とフルオーケストラとの相性はよく、今でも使われています。
その中で、ジャズの登場により映画音楽にもジャズが取り入れられるようになりました。
ジャズの登場により、ドラムやベースやギターといったバンド編成の音が取り入れられるようになり、映画音楽はさらに発展していきました。
手に汗握るスパイ映画や、現代の若者のロマンスを描いたフランス映画、まるでヒーローのような西部劇など、様々な映画ジャンルでこのバンド編成は使われていました。
電気楽器である、エレキギターやエレキベースもそうですね。
次に電子楽器の登場です。
電子楽器が使われることでの、近未来の表現や心情を映し出すような内面的表現が可能になりました。
まさに映画音楽に電子楽器を革新的に用いた一人として、ハンスジマーさんも挙げられますね。
ドローンのようなジワーーっと伸びる音から、トトトトトトトトといった反復する音など、電子楽器の音の再現性は非常に高いです。
そのため、さまざまなシチュエーションに合わせた音が作れる電子楽器と、映画音楽の相性はまた良かったわけですね。
そして、民族楽器を用いることで、世界観を表現することもしています。
アフリカンな打楽器や日本らしい雅楽の楽器、オリエンタルなガムラン、バグパイプもそうですね。
このような楽器を用いることで、映画の世界観の表現に一役買っていました。
聴いたこともない音1 オーケストラ楽器
話は戻ると、今回はそのどれにも当てはまらないのですが、どれも当てはまる。
そんな映画音楽なんです。
オーケストラ楽器は使われています。
例えばチェロです。
ティナ・ゲオさんというチェロ奏者が今回演奏しているのですが、ハンスジマーさんはチベットの軍の笛のような音で演奏してほしいと要望したそうです。
これもインタービューでおっしゃっていましたね。
ただチベットの軍の笛みたいになったかはよくわからないけど、満足のゆく音が録れたそうです。
とにかく、チェロはチェロらしい音で演奏するなということですよね。
そんなバカなという気もしますが、これが映画では非常にうまく機能しています。
まあバグパイプの音もギター弾いてますしね。
ただエレキギターで、ギターの音っぽくない音を出せるのはわかりますが ー 電気楽器ですしね。
電気信号さえいじってしまえば色々な音が出せるので。
しかしチェロは生楽器、アコースティック楽器なのでそのまま演奏すれば、その楽器らしい音が出るわけです。
これは倍音の関係で ー とか色々あるのですが、ここでは割愛します。
そのアコースティック楽器から別の楽器の音、のような音を出そうとするのはもはや実験ですよね。
そしてその試みは他の楽器でもやっています。
インタビューで語っていたのは、フルート奏者のペドロ・ユスタシュさんです。
フルートはいにしえでは笛全般のことを指しましたが、近年のフルートはコンサートフルートといわれ、金属製で出来ています。
しかし今回は木製のフルートで、これまたフルートらしく吹くなと指示が飛んだそうです。
さらには、PVC(ポリ塩化ビニル)の長いチューブに木製のフルートを入れて演奏したそうです。
これは今までにない楽器ですね。
完全にオリジナル楽器を作っちゃってます。
このようにオーケストラ楽器は使われています。
しかし、そのどれも聴き馴染んだ楽器のそれとは違います。
ただ、もちろん普通にオーケストラ楽器としての音が出ている時もあるので、すべてがオーケストラっぽくならないように、していたわけではないようですね。
あくまでも印象に残る音のチョイスには、その楽器らしい音をあえて捨てて、新たな表現に挑戦しています。
聴いたこともない音2 電気楽器
次に電気楽器などのバンド編成の音ですね。
これにはエレキギターが使われています。
まさにバグパイプの音がそうでしたが、それ以外にも歪んだギターの音が登場しています。
これはハンスジマーさんの手がけた映画音楽には意外とよく登場するので、気にして聴くとコーラスにユニゾンしていたり、メロディの補強に使われていたりしますね。
聴いたこともない音3 電子楽器
そして電子楽器です。
ハンスジマーさんといえばといった印象ですが、まさに印象通りシンセサイザーの音が登場しています。
DUNEのライブ映像を観ても、登場しているのを観ることができますね。
これらの音は一つの電子楽器から出ているわけではなく、いくつもシンセサイザーを重ねて音を作っています。
これはモジュラーシンセサイザーというやつですね。
いくつものモジュラーシンセサイザーの音を重ねて音を作っています。
イメージ的にシンセサイザーといえば、鍵盤があってその人と鍵盤を隔てたところに、たくさんツマミやらボタンやらが付いている感じですが、モジュラーシンセには鍵盤が付いていません。
ではどういったものかというと、シンセサイザーはいくつかの機能が複合することで音を作っています。
ひとつひとつの説明はここでは割愛しますが、シーケンサー、LFO、VCO(オシレータ)、EG、VCF(フィルタ)、VCA、FX(エフェクタ)などなどが複合してシンセサイザーの真価が発揮されます。
これらがモジュールといわれるものです。
鍵盤の付いているシンセサイザーはこれらが一体型になっているということですね。
なら一体型の方が一つ一つ集めなくてもいいからお得でしょ?という話なのですが、自分の出したい音を突き詰めるために、ひとつひとつモジュールを買い漁っては、音を出して正解を見つけていく途方も無いことをやっているわけですね。
しかもひとつが、うん十万するものが、何十機も繋がれて音が出ているのですから、相当リッチなサウンドですよね。
まあ僕はモジュラーシンセにそこまで明るくないのですが、いずれその境地まで到達してみたいものですね。
とシンセの説明はこのあたりにして、それらの複合して作られた音がハンスジマーさんの映画音楽にはよく登場しています。
トップガンマーヴェリックにもダークナイトにも、インターステラーにもですね。
DUNEにももちろん登場していますし、ハンスジマーさんのまさに真骨頂といえる音です。
非常にわかりやすいのが、アップルミュージック DUNE OMPST 20曲目に収録されている「サンドストーム(Sandstorm)」で聴くことができます。
とくに1:12あたりからの音がとてもいいですね。
ハンスジマーさんのシンセサイザーの音はキンキンと高音が鳴りすぎない、とても上品な音がするのでいいですね。
聴いたこともない音4 民族楽器
そして民族楽器ですね。
こちらも使われています。
特に目立つのが、ドゥドゥクという小さな木管楽器ですね。
ドゥドゥクはアルメニアという国の民族楽器です。
表に8つ、裏に2つ、計10のフィンガーホールが設けられています。
形はリコーダーに似てはいますが、音は全然違います。
中音域がふくよかで、口を揺らす演奏方法で音をビブラートさせると、中東っぽい雰囲気が出ます。
聴いたこともない音 まとめ
ということで、オーケストラ、電気楽器、ギターやドラムですね。
それに電子楽器、民族楽器と現在までに映画音楽で非常にポピュラーな楽器が使われていました。
しかし今回はそれだけじゃないのが、DUNEですね。
チャス・スミスさんという方がいます。
音楽家でもあり、彫刻家でもあるとハンスジマーさんは形容していましたね。
チャス・スミスさんは自家製で楽器を作ってしまうとんでもない人です。
フルートの話でも出てきた、ポリ塩化ビニルを使った楽器もそうですが、量産的に作られた楽器以外の音もこの映画には使われています。
正直どの音がと言われると難しいんですよね。
今までに作られてきている楽器なら、その音の特性がわかるのですが、もはやどんな形かもわからない未知の楽器の音がどれかなんてわからないです。
しかし言えるのは、未知の楽器の特性は聴いたことのない音ということになります。
逆説的?に、聴いたことのある音を排除していけば到達するはずですね。
しかしそこにはシンセの音もあるので、本当に一概にどれがその音かはわかりません。
本当に難儀な映画音楽ですよね。
しかし、その未知の楽器がDUNEの映画音楽の雰囲気を作るのに一役買っているわけです。
なので、風のようななにかが通り抜けるような音や、なにかの動物の遠吠えのような音など、聴いているとなぞの音がとにかくたくさんなっています。
これらの集合体が、地球には存在しないような、DUNEという星を感じさせる音の表現として、使われているということですね。
この羨ましいくらいに自由な楽曲制作が13歳のティーンエイジャーのハンスジマーさんなんでしょうね。
それはテネットを断ってまでやりたい理由もわかります。
とにかく楽しかったでしょうね。
【エンディング】
今回は聴いたこともない音についてやってきました。
従来の映画音楽としての楽器構成、オーケストラ楽器、電気楽器、電子楽器、民族楽器などの使用はみられましたが、その使い方はとても独特で、楽器本来の音から逸脱するように使われていました。
さらには量産されない一品楽器といいますか、世界に一つしかない楽器も登場していて、DUNEという世界観の表現を地球上に存在しないような音で構成していました。
本当にやっていて楽しかったでしょうね。
羨ましい限りです。
様々な音を用いているのに、統一感のある音が出せるというのは一朝一夕では成し得ない、ハンスジマーさんの生涯を音楽に捧げた人の特権とも言えるそんな映画音楽でした。
すばらしいです。
ということでサブスクリプションではDUNEから1曲と「ライオンキング」から1曲やろうと思います。
そして来週はゲットアウトですね。
音楽はマイケル・アーベルス(Michael Abels)さんです。
こちらも楽しみにしていてください。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
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