『未踏峰』
笹本稜平、著。祥伝社、刊。 2009年11月5日 初版第一刷発行。
【ここで逃げたら、死ぬまで人生から逃げ続けることになる――。ハンデを背負った三人の若者と、未来を手放した伝説の登山家。運命の出会いが、祈りの峰への扉を開く。ヒマラヤを舞台に、人間の希望を描く感動長編】
感動した。
ことに、前半部分。全編十章で。
笹本稜平も、最近警察小説の書き手としての存在感を示しているが、ともかく、『未踏峰』
伝説の登山家、蒔本康平、通称パウロさんが営む北八ケ岳の山小屋で働いた三人の若者たちが、ヒマラヤの未踏峰に挑む物語だが。
みな、それぞれにいわくありの過去を背負っていた。
そんな彼らが、三人でヒマラヤの未踏峰に登ろうとするのだ。 その訳は……彼らのいわくありの過去にあり、その描写にほぼ前半部分が充てられている。
笹本稜平には『天空への回廊』という山岳小説がすでにあるが、こちらは一人の超人的なクライマーの活躍だった。
他、夢枕獏や谷甲州などの山岳もの(冒険)小説を読んでいないから詳しいことは書けないけれど、
これはまったく新たな山岳小説といえるだろう。 いや、これは山岳を舞台にした、人生のドラマだ。
アクションものではけしてない。
三人の若者。
一人は図体はでかいがいささか知恵遅れ、そして絵がうまい。
一人はちょっとした過ちで会社を首になり、以後職を転々として世間の辛酸?を舐めた元システムエンジニア。
そしてもう一人は、調理師で栄養士でバツグンの料理の腕をもつ女性、だが、彼女はアスペルガー症候群。
パウロさんは、数々の輝かしい登山歴を誇るクライマーだったのだが……
そんな彼らが、パウロさんに出会い、生きる意味を見いだしていくのだ。
ヒマラヤの未踏峰へはその四人で行くはずだったのだが…
私は、ことに、アスペルガー症候群に反応してしまった。
他人とのコミュニケーションが不得手、そして、他人の感情を理解する能力に問題がある。
周りの人には頑固で融通の利かない変人と写る、納得いかないことにはトコトン突っ込み反発をかい、周りからうきあがってしまう、ために、自分が生きてる意味を否定してしまいがち、言葉の裏が読めない、云々・・
これはよく解る、と思う。 私にも充分当てはまるのだ。
【人は生きているだけで意味がある】
そんな言葉の重みを改めて考えさせられた。
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