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最後まではじけないウディ・アレン映画 『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

1月19日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 モート・リフキンは自称小説家。書き上げた小説は文学史に名を残す傑作になるはずだが、問題は彼がまだ1作も書き上げていないことだ。

 小説家でありたいと願いつつ、彼はニューヨークの大学で映画を教えている。映画評論家が彼のもうひとつの顔であり、むしろ世間ではその方で良く知られているのだ。妻のスーは業界では良く知られた映画パブリシスト。モートは妻と一緒に、スペインのサンセバスチャンで開催される国際映画祭にやってきた。

 スーはフランス人監督フィリップの新作プロモーションのため、連日外出している。モートは妻が監督と浮気していることを疑うが、それを強くとがめだてするようなこともない。夫婦仲は冷えてはいないが、当初の熱い時期は過ぎ去り、もう戻ってくることはないだろう。とは言え、もちろんこれは愉快な話ではない。

 だが体調不調を感じて知人に医者を紹介して貰ったモートは、女性医師のジョーに恋をしてしまった……。

■感想・レビュー

 ウディ・アレンの2020年作品。少し前の作品だが、監督のセクハラ問題なども影響してか、アメリカでの公開も2022年になって限定公開されただけだった。

 現在アレンはアメリカで冷遇され、作品への出演を拒否するハリウッドスターも多い。そのせいか昨年の新作『Coup de chance』は、フランスで撮影したフランス語映画だった。本人の年齢もあるが(1935年生まれ)、ひょっとすると本作が、アレンにとって最後の英語作品になってしまったりして……。

 僕は最近のアレン作品をあまり観ていないのだが、これは『ブルージャスミン』(2013)と同系統のブラックコメディだと思う。主人公がどんどん狂っていくのだが、本人にその自覚はなく、映画も主人公に寄り添う一人称視点だから、観客もなかなかそれに気付かない。

 『ブルージャスミン』は主人公の行動が周囲に迷惑を掛けることで、彼女の狂気を観客に察知させることができた。しかし『サン・セバスチャンへ、ようこそ』の主人公は行動がずっと控え目なので、狂っていても本人にその自覚はなく、周囲もそれに気付かない。映画を観ている観客も、気付かない人が多いのではないだろうか。

 だが映画は最初から最後まで、主人公が精神科医の前で自分の体験を語るという形式になっている。主人公モートのロマンチックな一夏の体験は、彼の視点のフィルターを通して我々に届けられているだけだ。そこで実際に何が起きていたのか、観客には決してわからない。

 原題は『リフキンの祭り』で、これは主人公モート・リフキンが映画祭に行ったという意味であり、リフキンの心の中が勝手にお祭り状態になっているという意味でもある。恋とはお祭りであり、独りよがりで身勝手な狂騒状態だ。

 アレンは男性の恋の空回りをしばしば作品のモチーフにしているが、今回の映画はそれが行き過ぎ、全てが観客の心にも引っかからず空回りしているように思う。

(原題:Rifkin's Festival)

ユナイテッド・シネマ豊洲(12スクリーン)にて 
配給:  ロングライド
2020年|1時間32分|スペイン、アメリカ、イタリア|カラー 
公式HP:https://longride.jp/rifkin/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt8593904/

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