本棚の中の聖書(番外編:英訳聖書)
「本棚の中の聖書」の番外編として、手持ちの英訳聖書を紹介しようと思います。
日本語訳聖書は同じ訳文の聖書を何種類も持っていたりしますが、英訳聖書についてはそうしたことがないようで、今回棚卸しして少しホッとしました。
KJV (King James Version)
KJV (King James Version)、またはAV (Authorized Version)と呼ばれる、古くて伝統的な英訳聖書です。日本では「ジェームズ王欽定訳」とか「欽定訳」と呼ばれることもあります。
もともと1611年に出版された聖書ですが、現在の訳文は1769年に改訂されたもののようです(Wikipediaの情報による)。ただし1611年版も、歴史的な英語訳聖書として今でも出版されています。
長く英訳聖書の規範とされてきた聖書なので、これが手もとに1冊ないとはじまらない部分があります。使われている古い英語を現代英語に改めたNKJV (New King James Version / Revised Authorized Version / 新欽定訳聖書)というものが1980年代に出版されていますが(旧新約合本の発行年)、引用するならKJVからでしょうかね……。
古い英語訳聖書は英語の成句の引用元になっていることも多く、さながら日本の文語訳聖書のような位置づけの聖書だと思います。
その日本の文語訳聖書も、旧約聖書の底本はこのKJVですし、新約聖書も明治元訳はKJVが元になっています。ただし現在広く用いられている文語訳の新約聖書は、1895年の改訂訳(RV、Revised Version)がもとになっているそうです……。
僕が持っているKJVは聖書出版大手のThomas Nelsonから出ていたThe King James Study Bibleの1988年版。聖書本文の他に、解説がどっさり盛り込まれていて、ハードカバーで、大きくて重たいです。
KJVはイギリスで作られた聖書なので、もともとは英国教会の伝統で外典が付いていたはずです。しかし僕が持っている聖書には外典が付いていません。
今でもKJVを有り難がっているのが、アメリカの保守的なプロテスタント信者だからかもしれませんが、僕が探した範囲では、外典付きのKJV版スタディバイブルが存在しなかったのです。
本文だけなら外典付きのKJVも販売されていますし、KJVは著作権がとっくに切れているので、外典付きの本文がKindle版などが安価に入手できます。何ならフリーのテキストが、いくらでもネットに転がっているでしょう。必要があればそうしたものを利用すればいいと思っています。
REB (Revised English Bible)
イギリス現代英語訳の聖書です。1989年出版。この聖書は、イギリス英語圏の聖公会で今も使用されているようです。
僕が持っているのは外典付きのThe Oxford Study Bible: Revised English Bible With the Apocryphaというもの。日本語の新共同訳聖書や聖書協会共同訳と同じように、外典(旧約聖書続編)が旧約聖書と新約聖書の間に配置されています。
解説たっぷりのスタディ版です。
NRSV (New Revised Standard Version)
英語版の共同訳で、上記のREBがイギリス英語だとすれば、こちらはアメリカ英語なのでしょう。REBと同じく1989年に出版されています。
最新の英訳聖書として、訳文の正確さに定評があるようです。といってももう四半世紀ぐらい前の聖書なので、そろそろ新しい翻訳が出てくるのかもしれませんが……。
僕が持っているのは、The New Oxford Annotated Bible: New Revised Standard Version with Apocryphaで、表紙の下に小さくAn Ecumenical Study Bibleと入っています。
これも続編付きのスタディバイブルです。
NJB (New Jerusalem Bible)
カトリック系の英訳聖書で、日本では新エルサレム聖書と呼ばれています。
もともとはヘブライ語やギリシャ語の原典から訳された新しいフランス語の聖書として1956年に旧新約全巻が合本発行されたものですが、この評価が高かったため、1966年にフランス語版をもとにした英語版が出版されました。これが英語版のエルサレム聖書(Jerusalem Bible)です。
その後フランス語版が1973年に改訂されたのを受けて、1985年に英語版も改訂され、新エルサレム聖書(New Jerusalem Bible)になりました。
僕が持っているのは1985年版ですが、ハードカバーでごつくて重いです。引照や訳註のたぐいは入っていますが、スタディ版というわけではありません。文書配列が伝統的なカトリック聖書になっているのが、特徴と言えば特徴かもしれません。(日本だとバルバロ訳やフランシスコ会訳が同様の配列になっています。)
エルサレム聖書はその後改訂されて、2019年にThe Revised New Jerusalem Bible(改訂新エルサレム聖書)というものが出ています。持ってませんけど……。
エルサレム聖書という名前は、フランス語版の翻訳を行ったのがエルサレム・フランス聖書考古学学院(エルサレム聖書学院)だったことによります。ドミニコ会系の高等教育機関だそうです。
このエルサレム聖書に影響を受けて日本で作られたのが、フランシスコ会聖書研究所訳の日本語聖書です。
ESV (English Standard Version)
2001年、21世紀になって登場した、新しい英訳聖書です。日本では標準英語訳聖書と呼ばれます。
登場以来本文をちょっとずつ改訂しているようですが、僕が持っているのは2007年版のテキストで、出版社はCrosswayです。英訳聖書はスタディバイブルを買うことが多いのですが、これは本文だけのものを購入しました。
NIV (New International Version)
1973年に出た英語版聖書で、持っているのは新約聖書+詩篇というもの。文庫本サイズより一回り小さなポケット版です。イミテーションレザー装。本文は1984年版のようです。
なんでこんなものを買ったのかすら覚えていません。なぜか持ってます。
AMPLIFIED BIBLE
日本では「詳訳聖書」として、いのちのことば社から新約聖書のみが翻訳出版されたことがあるようですが、その底本である英語版の旧新約合本版を持っています。
Amplifiedは「増幅された」とか「増補された」という意味。聖書原典であるヘブライ語やギリシャ語を英語に訳す際、原語が持っている幅を英語に上手く置き換えにくいとき、複数の訳語を併記するというのがこの訳の特徴です。そのあたりが「増幅」なのでしょう。
日本版の「詳訳聖書」は今でも一部に復刊待望論があるようなのですが、ヘブライ語・ギリシャ語の訳語の幅を英語で併記したとしても、英語と日本語の間にもまた訳語の幅があるわけですから、どんどん正確な意味からぼやけていくような気がするのですけれど……。
この聖書は訳語の幅を、本文中に括弧書きで入れています。しかしこれは欄外に訳註として記入しておくこともできるはずですし、最近のほとんどの聖書はそうした方法をとっていると思います。
日本語版待望論者には申し訳ないのですが、「詳訳聖書」の新しい日本語版が出ることはないと思います。(古い日本語版は機会があれば入手してみたい聖書のひとつですが、古書市場ではちょっと高い値段が付いています。)
英語版が最初に出たのは1954年。たびたび改訂されているようですが、僕が持っているのは1987年版本文のペーパーバックです。
以下はちょっと毛色が違った英訳聖書です。
The Five Gospels: What Did Jesus Really Say? The Search for the Authentic Words of Jesus
「史的イエス」について論じるのが流行った時期があって、その時にしばしば引き合いに出されたのが、このThe Five Gospels(五つの福音書)です。新約聖書の正典になっている四福音書に、20世紀になってから発見されたトマス福音書を加えて「五つ」としています。
トマスを比較対象にするのは新約聖書学ではわりとポピュラーな手法になっているようで、岩波書店から出ていた岩波訳による福音書対観表も、トマスを入れた五福音書対観表になっていました。
本書は新約聖書学者たちによる有志組織「イエス・セミナー」が、それぞれの研究成果をもとにして、新約聖書の中のイエスの言葉を評価して、4種類に塗り分けているのが特徴です。
イエスの言葉を赤インクで刷った「レッドレターエディション」という聖書がありますが、この聖書はイエスの言葉を以下の4色に塗り分けます。
赤:間違いなくイエス本人の言葉に基づいている
ピンク:イエス本人の言葉に基づく可能性が高い
グレー:イエスの言葉である可能性は薄いが考え方はイエスに近い
黒:イエスの言葉ではない
これは「聖書はすべて歴史的な記述そのもの」という保守的なクリスチャンには当然評判が悪いのですが、現代聖書学が何をやっているのかというサンプルとしてはわかりやすいと思います。
1993年に出た本なので、もう30年も前ですね。日本語版が出てもよかったような気がしますが、結局参考になるのは英語版だけですが、その英語版もだいぶ古くなってしまっています。
The Complete Gospels
上記に関連しているのかもしれませんが、1994年に出ている本です。
新約聖書の正典福音書に加えて、トマス福音書、マリアの福音書、ペトロの福音書、エジプト人福音書など、初期キリスト教の周辺に成立したさまざまな「福音書系文書」を集大成した本になっています。
ただし、21世紀になってから発表された「ユダの福音書」は含まれていません。
こういう本を持っていることで何か便利なことがあるかというと、特に何もないんですけどね……。少なくとも現時点で役に立ったことはひとつもありません。
この本に収録されている文書の多くは日本語訳が出版されていますが、それなりに高価だったり今では入手しにくくなっていたりするものもあるため、気軽に全貌を俯瞰できるという点では便利な本かもしれません。
とはいえ、この本も30年前の本なのですけれど……。
英語版の聖書は日本語聖書に比べるとすごく安いので、一時はAmazonなどでついつい買ってしまうことがありました。しかし日本語訳聖書以上に読む機会は少ないので、今後はあまり増えることもないと思います。
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