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『すずめの戸締まり』は、物語の設定に根本的な違和感がある

ちらし
2022年11月11日(金)公開 全国ロードショー

あらすじ

 宮崎の高校生・岩戸鈴芽は幼い頃に東日本大震災で母を失ってから、叔母に引き取られて暮らしている。ある日彼女は、町の中の廃墟を探している青年・宗像草太に出会う。彼が向かったのは町外れにある廃墟化した温泉街だ。

 だが間もなくそこから、赤い煙のような物体が立ち上る。それはみるみる大きくなって町の上空を埋め尽くすが、鈴芽以外の目にはそれが見えていないようだ。鈴芽は学校を飛び出して廃墟に向かう。そこで見たのは、朽ちかけた扉から飛び出そうとしている赤い何者かと、その扉を必死に閉めようとしている草太だった。

 鈴芽は草太と協力して扉を閉めることに成功。しかしこの扉が開いたのは、草太より前に鈴芽が扉を見つけ、扉を封じた「要石」を抜いたのが原因だったらしい。

 要石はネコに姿を変えて、鈴芽と草太の前に現れる。要石は草太に呪いをかけて、小さな木の椅子の中に封じ込める。ここから鈴芽とイスになった草太の旅がはじまる。

感想・レビュー

 大ヒットした『君の名は。』(2016)や『天気の子』(2019)に続く、新海誠監督の長編アニメーション映画。

 監督は前2作でも東日本大震災を意識しながら作品を作ったようだが、今回はそれをより生々しい形で作品に取り込んでいる。ヒロインの鈴芽は東日本大震災で母親を失っており、その後は叔母に引き取られて宮崎で暮らしている。だが彼女は閉じ師の青年と出会ったことから、津波で多くの人の命が失われた故郷の町へと戻る旅をすることになるのだ。

 東日本大震災から10年たって、ここまで生々しく直接的に、震災そのものを描く長編アニメーション作品が出てきたという感慨はある。しかしその一方で、この作品の震災描写が直接的なものであればあるほど、腑に落ちない気持ちも拭えなくなる。

 映画の中では、古い時代から人知れず活動してきた「閉じ師」たちが、廃墟の扉を通って地上にはい出してくる「ミミズ」を封印し、大災害を未然に防ぐという設定になっている。それによって、鈴芽や草太はいくつかの災害を防いだ。映画のクライマックスは、東京中心部の地下深くから這い出てくる巨大なミミズを封じ込めるという、壮大なスケールの一大スペクタクルだ。

 だがこうしたシーンが臨場感たっぷりに描かれれば描かれるほど、僕は考えてしまうのだ。東日本大震災の時、閉じ師たちは何をしていたのだろうか? それに先だつ1995年の阪神淡路大震災の際、閉じ師たちはなぜ災害を防ぐことができなかったのだろう。

 もちろんこの映画はフィクションで、閉じ師なんてものはこの世に存在しない。それでもこの映画の描いた世界なら東日本大震災の際にも閉じ師たちは存在したはずだし、その同じ世界に阪神淡路大震災だってあったはずなのだ。そこで起きた大災害と亡くなった人たちの命を、世界の真相を知る閉じ師たちはどう考えているのだろうか?

 そんなことに、僕はちょっとひっかかりを感じてしまった。


TOHOシネマズ日比谷(別館シアター12)にて 
配給:東宝 
2022年|2時間2分|日本|カラー 
公式HP: https://suzume-tojimari-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt16428256/

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