見出し画像

コンパクトカメラの終わり

 フィルムカメラの時代から、コンパクトカメラが好きだった。写真がデジタルになってもそれは変わらず、購入するカメラのほとんどはコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)だ。古くなって捨ててしまったコンデジも多いが、処分するに忍びなく、今でも手もとに置いて現役に近い形で使っているカメラもいくつかある。

 その中でも、購入以来、最も長く「現役」を続けたのが、Canon IXY Digitl L2(以下L2)だ。このカメラは大好きで、1台は新品で購入したが、その後、故障した場合の予備として同じ機種の中古品をネットオークションで落札している。こんなことをしたカメラは、後にも先にもこれだけだ。

 L2は2004年の発売だから、もう16年前のカメラだ。焦点距離6.4mm、35mm判換算で39mmという、豆粒のように小さなレンズが付いている。本体も大人の手の中にすっぽり隠れるほど小さい。重量はたった100g。金属の外装は高級感があり、僕の持っているプラチナシルバーの本体には、細かなヘアライン加工が施されている。小型軽量ではあっても作りはしっかりしているし、小型の単焦点レンズでシャープな写真が撮れる本格派だった。

 有効画素数が約500万画素というのは、今やオモチャのようなレベルだろう。しかしSNSやブログに画像を載せる程度なら、これでもまったく困らない。ISO感度が低く夕方以降は写真がボケたりブレたりするが、昼間なら、特に晴天下の屋外では、じつに気持ちのいい写真が撮れる。そのためつい最近まで、散歩カメラとしていつもL2を持ち歩いていた。

 カメラ好きからも評判の良かったカメラだが、単焦点レンズというのはどうも一般ウケしなかったらしい。デジカメは「光学○倍ズーム」というのを消費者向けのセールストークにしていた。その中で、L2の39mm単焦点レンズというのは、地味な存在だったのだろう。おしゃれな女性向けカメラというコンセプトなのに、これでは玄人向け、マニア向け商品だ。

 キヤノンはこのカメラの後継機となるIXY Digital L3に、35mm換算で38~90mm、光学2.4倍のズームレンズを付けた。開放F値はF3.2~5.4と暗くなり、本体サイズも大きくなっている。LとL2はデザインも瓜二つのカメラだが、L3はそれらと似ても似つかぬ、まったく別のカメラになってしまった。この方が売れたのかもしれないが、僕には魅力のないカメラだった。

↑Canon IXY Digital L3。

 コンデジはIXY Digital L2の後も、いろいろと買った。その中には、今でもすぐ使える状態で保管しているものが何台かある。L2ほどではないにせよ、それぞれに愛着があって処分しがたいのだ。

 しかし僕自身は、最近ほとんどコンデジを使わなくなっている。昨年購入したAndroidスマホ、Google Pixel 3aのカメラ機能に十分満足してしまったからだ。撮影した写真のクオリティも十分満足できるし、スマホさえ持っていればカメラを持ち歩く必要がない手軽さがある。スマホ搭載のカメラは、他のどんな小さなカメラよりも荷物にならない魔法のカメラだった。

 最近、新しくカメラを買った。コンデジも考えたが、結局はエントリークラスのミラーレス一眼機に落ち着いた。コンデジ以外のカメラを買ったのは、30年ぶりぐらいかもしれない。同時に、長年愛用してきたIXY Digital L2は、正式に現役引退させることに決めた。今後も少しずつ、使用頻度の低いコンデジを引退させていくことになると思う。

 改めてメーカーのウェブサイトを見てみると、現在どのカメラメーカーも、コンパクトサイズのデジタルカメラをほとんど作っていない。コンデジの中心は高倍率ズームの付きの大型機や、大型センサーを使った高級機ばかりになっている。スナップやメモとしての写真なら、今はみんなスマホで用が足りる。それで誰も困らない。何しろ長年コンデジ派の僕自身が、スマホのカメラで困っていないのだから。

 何を今さらと言われそうだが、僕がフィルム時代から愛した「コンパクトカメラ」の時代は、とっくの昔に終わっていたようだ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?