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歌と踊りと笑いを抜いた『雨に唄えば』のリメイク 『バビロン』

2月10日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 1926年のハリウッド郊外。映画業界人のバーティ会場で奴隷のように働かされていたマニー・トレスは、女優志願の若い女ネリー・ラロイに出会い、その自由奔放な振る舞いに魅了される。

 このパーティでマニーは大スターのジャック・コンラッドの付き人になり、晴れて映画スタジオに出入りする身分を手に入れる。一方ネリーは急死した若い女優の代役として、映画に出演するチャンスを手に入れる。

 ネリーはカメラの前で素晴らしい芝居を見せ、脇役出演したたった1本の映画でスターの仲間入りをする。マニーはジャックの撮影現場から故障したカメラの代品を取りに走り、フットワークの良さで現場スタッフからも一目置かれるようになる。

 1927年。ハリウッドに革命が起きる。トーキー映画『ジャズ・シンガー』が大ヒットし、映画会社がこぞってトーキー製作に乗り出したのだ。マニーは黒人ミュージシャン主演の音楽映画を企画して大好評を得るが……。

■感想・レビュー

 1927年のハリウッドを襲ったトーキー革命と、それに翻弄される人々の姿を描くドラマ作品。3時間を超える大作だが、正直僕はあまり好きになれない映画だった。

 この映画には元ネタがある。有名なミュージカル映画『雨に唄えば』(1952)だ。『バビロン』に出てくるエピゾードの多くは、ほとんどすべて『雨に唄えば』に出てくる。そればかりではない。『雨に唄えば』の名場面の多くが『バビロン』で引用され、最後は映画をそのままそっくり引用してしまう。

 僕は『雨に唄えば』が大好きで、特典がたくさん入ったDVDも持っていた。『バビロン』は『雨に唄えば』本編とこの映像特典を、劇映画として再構成したものなのだ。

 『バビロン』で引用されている『ジャズ・シンガー』(1927)も、台詞で登場する『ドン・ファン』(1926)も、そのさわりは『雨に唄えば』の映像特典に入っていた。ブラッド・ピット演じるジャック・コンラッドのモデルはジョン・ギルバートだと言われているが、その映像も映像特典に入っていたと思う。

 『雨に唄えば』の上映時間は1時間43分。『バビロン』はその倍近い時間をかけて、『雨に唄えば』とその映像特典をほぼ忠実になぞっていくだけではないのか? それが僕のこの映画に対する感想だ。

 それにしても、この映画の中で人々が懐かしむ「映画黄金時代のハリウッド」のなんと汚らしいことか。それは動物のクソと、若い女の小便と、ところ構わずまき散らかされる精液とドラッグ、さらに土埃と硝煙ニオイが充満している場所だ。

 こんなハリウッドに、僕は何の夢も感じない。同じ時代のハリウッドを描いた映画なら、『雨に唄えば』や『アーティスト』(2011)を繰り返し観た方がいい。日本映画なら、山田洋次の『キネマの天地』(1986)もいい映画だ。

 もちろん『バビロン』にも映画への愛はあるだろう。でも肝心のそれがわかりにくいのが残念でならない。

(原題:Babylon)

109シネマズ木場(シアター6)にて 
配給:東和ピクチャーズ 
2022年|3時間9分|アメリカ|カラー|2.39 : 1 
公式HP: https://babylon-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10640346/

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