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ベトコンラーメンのこと

 2週間続いた在宅勤務も最終日なので、今日の昼食はベトコンラーメンにした。名古屋にはこの地域でしか食べられないご当地グルメが多く、それらは「名古屋めし」と総称されている。ベトコンラーメンもそのひとつだ。素揚げしたニンニクが丸ごといくつも入ったピリ辛のもやし炒めが、麺の上にどっさり載っている。ニンニクはしっかり火が通してあるせいか、あまりにおいは感じない。ホクホクした食感と甘みがあって美味しい。それでもニンニクだ。仕事がある日に、ランチで食べるには気が引ける。人に会わない在宅勤務なればこそ、安心して食べられるのがラーメンなのだ。

 名古屋めしの多くがそうであるように、ベトコンラーメンも発祥は名古屋市ではないらしい。近くの一宮市だという説もあれば、隣県の岐阜だという説もある。一宮説でルーツとされているのが「新京」という中華料理店で、今ではベトコンラーメンが名物の店として、愛知や岐阜を中心にあちこちに系列店を構えている。本店と支店の関係なのか、フランチャイズなのか、のれん分けなのか、詳細はよく知らないが、僕が今日行ってきたのも、そんな「ベトコンラーメン新京」のひとつだ。

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 ベトコンラーメンが生まれたのは、昭和40年代のことらしい。「ベトコン」は、ベトナム戦争(1955〜1975)でアメリカを相手に戦っていた南ベトナム解放民族戦線のこと。ただし新京では現在、「ベトコンはベストコンディションの略である」と説明している。

 ニンニクたっぷりでスタミナが付き、トウガラシで新陳代謝が活発になって、野菜もたっぷりとれる。だからベストコンディションラーメン。名前が長いから、常連客が「ベトコンラーメン」と呼び出して定着したのが名前の由来だとか。でもこれは嘘だと思う。ベストコンディションの略なら、「ベスコン」になりそうなものだ。でもまあ、今さら南ベトナム解放民族戦線でもなかろうし、ベストコンディションの略でも構わないのだけれど……。

 ベトコンラーメンではないが、ニンニクがごろごろ入ったラーメンと言えば、かつて東京銀座の裏通り、伊東屋の裏手にあったヤマモト(八眞茂登)の「ベトナム麺」が有名だった。ただし共通しているのはベトナムとニンニクだけで、内容はまるで違う。ヤマモトのベトナム麺は酢醤油に浸けたニンニクが入っていたが、ベトコンラーメンは素揚げしたニンニクのようだ。ベトコンラーメンとベトナム麺は、まったく別々に生まれて独自進化したもののようだ。(僕はじつはヤマモトのベトナム麺を食べたことがない。すぐ近くの会社に通い、住まいも遠くなかったのに残念なことをした。)

 ベトコンラーメンの新京は一度東京に出店したが、数年で撤退してしまった。新京だけではない。名古屋のご当地ラーメンチェーンで、名古屋人のソウルフードと呼ばれる「スガキヤ」も、一度東京に出店した後に撤退しているという。同じく名古屋のラーメンチェーン「藤一番」は、グアムに2店舗もあるのに東京にはない。全国各地の名物が何でも揃っているように思える東京だが、じつは東京で食べられない名古屋めしは多いのだ。(台湾ラーメンの「味仙」はがんばっている。)

 ちなみに僕が好きな名古屋のラーメンチェーンは、もやし大盛り無料の「ラーメン福」なのだが、近くに店舗がないのは少し不便。当然東京にも店はないので、名古屋にお越しの際はぜひどうぞ。(でもまあ、最初は台湾ラーメンに行くだろうけどね。)

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