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これは『リトル・マーメイド』の男の子バージョンだ 『あの夏のルカ(吹替版)』

3月29日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 北イタリアの小さな港町ポルトロッソ。恐れ知らずの島の漁師たちが唯一恐れているのは、海の魔物シー・モンスターだ。

 だがそのシー・モンスターたちは、人間を恐れていた。彼らは決められた縄張りの中だけで暮らし、海の上には決して出ない。人間の船が通れば、海の底深くまで身を隠す。

 そうやって長い間、両者は異なる世界に暮らしてきたのだ。

 シー・モンスターの少年ルカは、時々海の底に落ちている人間の道具に興味津々。そんな彼の前に現れたのは、同じシー・モンスターの少年アルベルトだった。

 彼に誘われるまま小さな島を訪れたルカは、今まで知ることのなかったシー・モンスターの秘密を知ってしまう。シー・モンスターは、陸に上がって身体が乾くと人間の姿になるのだ。

 陸で見た人間の道具類でも一番心引かれるのは、魔法のような乗り物ベスパだ。ルカの心には「人間の町に行って、本物のベスパを手に入れたい!」という気持ちが芽生える。

■感想・レビュー

 2021年に製作されたピクサーの長編アニメーション映画だが、新型コロナウィルスの世界的流行で劇場公開が行われず、配信での公開となっていた作品。今回同じ憂き目に遭った『ソウルフル・ワールド』や『私ときどきレッサーパンダ』と共に、劇場公開されることになった。

 おな本作の同時上映は『フォー・ザ・バーズ』で、これは2002年のアカデミー短編映画賞受賞作品。日本では2012年に『モンスターズ・インク 3D』の併映作品として公開しているようだ。

 劇場公開と配信が同時になることや、場合になっては配信が先行してしまうことを、僕は「映画史における映画の終わり」という大事件だと考えているのだけれど、それはそれとして、今回は作品の感想だ。

 この映画はディズニーの名作アニメ『リトル・マーメイド』(1989)へのオマージュだと思う。特に前半はそれがわかりやすい。

 ルカが海の底で拾った人間の道具を集めて人間の世界への憧れを募らせる場面は、人魚の少女アリエルが「パート・オブ・ユア・ワールド」を歌うシーンと同じだ。深海に住むウーゴおじさんの登場場面は、『リトル・マーメイド』に出で来る海の魔女アースラを連想させる。

 そもそも「海洋族の子供が地上に憧れて、両親の制止を振り切って地上に向かう」という筋立ては、『リトル・マーメイド』も『あの夏のルカ』もまったく同じ。大きな違いは『リトル・マーメイド』のヒロインが人間の王子への恋心のために、自分の声という代償と引き替えに地上に向かうのに対して、『あの夏のルカ』の主人公は漠然とした憧れを動機に、何の代償も払うことなく地上に向かうことだ。

 しかし僕は「少年の物語」としてはこれがリアルだと思うし、これが本作の作り手による『リトル・マーメイド』に対する批判なのだと思う。そんなわけで前半は面白かったが、後半はもうひとひねり欲しい。エンドロールの後日談は面白いのだけれど……。

(原題:Luca)

TOHOシネマズ日本橋(スクリーン1)にて 
配給:ディズニー 
2021年|1時間36分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://www.disney.co.jp/movie/pixar3
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt12801262/

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