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宮崎駿10年ぶりの新作映画 『君たちはどう生きるか』

@7月14日(金)公開 全国ロードショー

宮崎駿10年ぶりの新作映画


7月14日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 戦争がはじまって3年目、眞人の母が病院の火事で亡くなった。その翌年、眞人は軍需工場を営む父と一緒に、母の実家がある田舎町に疎開する。父は母の妹ナツコと再婚し、彼女のお腹には既に子供もいるという。戦争は日本劣勢となっていたが、戦争のおかげで父の羽振りはいいようだ。

 疎開先の母の実家は、和洋折衷形式の広大な屋敷だ。庭には大きな池があり、そこを一羽の大きなアオサギが悠然と飛び回っている。眞人は地元の学校に通い始めるが、そこで田舎の子供たちからからかいや挑発を受けて取っ組み合いのケンカになる。ケンカに負けての帰り道、眞人は路傍の石で自分の頭にわざと大きな傷を付けて家族を心配させる。

 眞人はアオサギの声を聞く。「あなたのお母さんは生きてます。私に付いてくれば会わせてあげますよ」。その直後、屋敷から身重のナツコが忽然と姿を消した。彼女を連れ戻そうと、眞人は母屋から離れた古い洋館に向かうのだった……。

■感想・レビュー

 2013年公開の『風立ちぬ』以来、10年ぶりとなる宮崎駿監督の新作中編アニメーション映画。「広告宣伝ゼロ」という思い切った宣伝戦略を採ったことで、タイトルとキービジュアル以外はすべて非公開になっていた。映画を観て初めて、なるほどこういう物語であったか、こういう映画であったか、とようやくわかった次第。

 映画に描かれた時代だが、眞人の母が亡くなったのは「戦争がはじまって3年目」で、田舎に引っ越したのはその翌年だという。劇中でサイパン陥落の話題が出ていたので、ここから逆算すると「戦争」は太平洋戦争のこと。眞人の母が亡くなった火災は、戦争とは直接関係ない火災だろう。眞人の大冒険は1944年の出来事で、映画はその3年後の1947年で幕を閉じる。

 戦争末期から終戦・戦後にかけての時代は、日本の現代史にとって特別な日々として、多くのテレビドラマや映画に取り上げられている。しかし本作ではその時代を取り上げながら、これまでの作品群とはまったく違った「戦争末期から戦後」の姿を描いている。

 ここには戦時の窮屈な社会情勢がなく、統制経済もなければ、物資不足もない。赤紙召集も空襲のサイレンもなく、玉音放送にむせび泣く人たちも、食糧難も、戦後のヤミ市も登場しない。この映画が1944年前後の日本を舞台にしているのは間違いないにせよ、そこに我々が映像作品を通してよく知っていた「戦争末期の暗い世相」はひとつも描かれない。

 映画は徹底したリアリズムではじまる。全編を通して観客を圧倒する、アニメーションの密度。しかし物語はリアルな日本社会の姿に背を向けて、ファンタジーの世界に突っ走る。

 宮崎監督の集大成と評する人も多いが、僕はこれを、故・高畑勲監督の『火垂るの墓』(1988)に対するアンサームービーだと解釈する。どちらも太平洋戦争末期を舞台に、家族を守るため奮闘する少年の冒険物語。よく似た正反対の映画なのだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(1スクリーン)にて 
配給:東宝 
2023年|2時間4分|日本|カラー 
公式HP: https://www.ghibli.jp/info/013702/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt6587046/

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