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FERRARI / フェラーリ(2024年7月5日劇場公開)

身勝手な男により悲劇に突き落とされる女性を描かせたら天下一品のマイケル・マン監督にとってうってつけの題材です。完璧主義者として知られているフェラーリ社の創業者エンツォの半生を描く映画の柱として妻ラウラ(ペネロペ・クルス)の視点を存在させることで光と影がくっきり際立つ映画になりました。

ペネロペ・クルスの登場場面からフェラーリ夫妻、只事ではない状況に巻き込まれていることがわかります。ラウラは、トリノの裕福な資産家であるアレッサンドロ・ガレッロの娘でフェラーリ社の創業時に資金援助をしたことから共同経営社としてもエンツォを支えていたのです。しかし夫婦間には大きな亀裂が。その決定的な原因となったのは1957年、ラウラとエンツォの唯一の息子であるディーノが24歳の若さで筋ジストロフィーで亡くなったことです。

偉人の半生を描き始める場面として一人息子の墓参りを持ってくるあたり、マイケル・マン監督お得意の悲劇的トーンを決定づける選択。なので『フォードvsフェラーリ』のようにカーレースシーンでメチャクチャ盛り上がるという映画ではありません。事件は路上ではなくフェラーリ家の家庭内で起こっているのです。

もちろん、迫力のカーレースシーンもあります。1957年のイタリアの公道で行われるミッレミリアの場面です。ただそこに至るまで散々にエンツォの決して幸せではない半生を見せられてきた観客にはミッレミリアを思いっきり楽しむという気持ちには程遠いでしょう。それでも1957年当時のイタリアの郊外の様子を徹底的に史実に沿って描いてみせたマイケル・マンの完璧主義者としての演出はまるでエンツォが乗り移ったかのようです。「製作を決めた一番の理由は、エンツォ・フェラーリの類稀なる人生だ。彼の人生にはバランスや安定 というものがない。人生とは一貫性がなく、混乱に溢れたものだ。エンツォは工場やレースに関しては、 常に正確で論理的で合理的だった。だが私生活は衝動的で防衛的、扇情的で秩序のないものだった。この アンバランス感や矛盾こそが、エンツォや他の登場人物たちを人間味あふれる存在にしているんだ」とマイケル・マ ンは語っています。

マイケル・マンはそんなエンツォ・フェラーリの半生を静かに、しかし愛を持って描いていると思います。その代償としてラウラを含む多くの女性が悲劇に見舞われたとしても。

『フェラーリ』

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7月5日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー

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配給:キノフィルムズ

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監督:マイケル・マン(『ヒート』)

脚本:トロイ・ケネディ・マーティン

原作:ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」

出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー

2023 年|アメリカ|英語・イタリア語|カラー・モノクロ|スコープサイズ|原題:FERRARI|字幕翻訳:松崎広幸|PG12

www.ferrari-movie.jp

追記:日本公開版ポスターが解禁。

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