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【映画と、生活と。】永遠のティーンの憧れ 卒業シーズンにぴったりの青春・プロムのすすめ

 「映画.com」が立ち上げたnote「映画.com Style」のコンセプトは、「映画のある人生を応援するメディア」。映画とは、作品を見ている数時間だけではなく、見終わった後の余韻に浸る帰り道、友人と感想を語り合うカフェでのひととき、日常のなかでふと思いを馳せてしまう瞬間など、豊かな“時間”を与えてくれるもの。それだけにはとどまらず、ついつい登場人物のセリフや仕草を真似たり、劇中に出てきた食べ物を作って味わってみたり、素敵なシチュエーションを妄想してみたり……。映画への“憧れ”は、人生や生活を変えてしまうほどのパワーを持っているのです。

 本コラム「映画と、生活と。」では、妄想体質で映画愛を暴走させがちな編集部員・ドーナッツかじりが、カルチャー、食、アイテム、ファッション、シチュエーションなど様々な観点から、映画のなかで見つけた“憧れ”を、時には日常生活に生かすアイディアとともに紹介していきます。

 卒業シーズンに取り上げたい第1回目のテーマは、「プロム」。そもそもプロムとは、「promenade(プロムナード)」の略称。アメリカの高校生活における最大のイベントで、卒業を控えた高校生のために開かれるフォーマルなダンスパーティのことです。女性はドレスにガウン、男性はタキシードやスーツなど、とびきりのおしゃれをして、パートナーとともに参加します。

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 Netflix映画「ザ・プロム」12月11日(金)より独占配信開始

 学校の体育館(ホテルを貸し切る場合も)が飾り付けられた会場で、ドリンクや軽食を挟みながら、生徒たちはダンスを楽しみます。フィナーレは、投票によるプロムキングとクイーンの選出。最後にふたりがペアダンスを披露して、エンディングを迎えます。プロム前後には、ポストプロムやアフタープロムと呼ばれる、二次会のようなカジュアルなパーティが開かれる場合もあるようです。

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Capital Pictures/amanaimages 

 この通りプロムは、アメリカの高校生にとって特別なものであり、卒業前に意中の人との関係を一歩進められるチャンスでもあります。一方で、必ずパートナーを誘わなければならないという非リアつぶしの高過ぎるハードルが設けられており、スクールカーストや人間関係が複雑に絡み合い、悲惨な結果になることも想像に難くありません(日本にプロム文化がなくて、がっかり半分、安堵半分と言ったところ……。もし高校にプロムがあっても、筆者は怖過ぎて参加できず、家で映画見てそうです)。そこで今回は、恋の成就や失恋、優越感や劣等感、友情や絶交、そして殺戮(!?)など様々なドラマが渦巻くプロム映画4本をご紹介します。

(※ここから一部ネタバレとなる表現が含まれます。作品を未見の方は、十分にご注意ください)

▽映画ファンの人生初プロムのほとんどは「魅惑の深海パーティ」説


「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)

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 (C)1985 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

 筆者が初めてプロムの存在を知ったのは、恐らく人生初の洋画だった「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。同作をきっかけにプロムに憧れた人が、日本にはかなりたくさんいるのではないでしょうか。言わずと知れたタイムスリップSFアドベンチャーシリーズの第1弾。高校生のマーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)と科学者のエメット・ブラウン博士(クリストファー・ロイド)が、タイムマシン「デロリアン」で時空を超える冒険を描きました。

 改めて復習すると、「現代(1985年)でテロリストに撃たれるドクを助けるため、マーティは過去(1955年)へとタイムスリップ → 母ロレインが父ジョージではなく、自分に一目惚れ → 過去を変えたことで、現代の自分が消えてしまう絶体絶命の状況に → 両親の仲を取り持ち、良い雰囲気にしないと!」という流れ。そこでマーティが思いついたのが、ふたりをプロムに行かせること。「プロムに誘う」というのは、「バレンタインにチョコを渡す」ことに相当する、愛の告白手前の行動なんでしょうね。

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 Capital Pictures/amanaimages

 本作に登場するプロム「魅惑の深海パーティ」では、海底をイメージしているのでしょうか、ディズニーシーのマーメイドラグーンばりに珊瑚や貝殻のようなディスプレイが並べられ、シャボン玉が漂っています。しっかりとコンセプトがあるプロムも、ロマンティックで素敵ですよね。セクシーなピンクのドレスの上に、白いジャケットをはおり、ばっちりきめたロレイン。車のなかで家から持ち出した酒を飲み、煙草を吸う母の思わぬワルぶりに慌てふためくマーティが、毎回ツボです。

 そしてこのプロムは、続編「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」にも登場。このプロムの夜は、ロレインとジョージのロマンスの行方、果てはマクフライ家の命運を握る大事な一夜に――とりあえず未来のことは忘れて、今はただただマーティが演奏する「ジョニー・B.グッド」に身を預けましょう。

▽シアーシャ・ローナン&ビーニー・フェルドスタイン、親友同士のプロムは最強!

「レディ・バード」(2018年)

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(C)2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

 続いては、「フランシス・ハ」「20センチュリー・ウーマン」などで知られる女優グレタ・ガーウィグがメガホンをとり、カリフォルニア・サクラメントを舞台に、自伝的要素を盛り込みながら描いた青春映画。後に「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」でもガーウィグ監督とタッグを組むシアーシャ・ローナンが、閉塞感漂う片田舎の町でカトリック系の女子高に通い、自らを「レディ・バード」と呼ぶ17歳のクリスティンを演じ、揺れ動く思春期の思いをみずみずしく表現しました。

 本作の見どころのひとつは、クリスティンの親友ジュリー役のビーニー・フェルドスタイン(「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」)、クリスティンと最初に付き合うダニー役のルーカス・ヘッジズ(「WAVES ウェイブス」)、クリスティンが憧れるクールな男の子カイル役のティモシー・シャラメ(「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」)ら今をときめく若手俳優陣の豪華共演。こんな高校に通いたかった……!

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 (C)2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

 ダニーと別れ、ジュリーとも喧嘩をしたクリスティン。さらにはあることでカイルに激怒し、別れを決意しますが、「でも一緒にプロムへ?」と確認する姿に、ほろ苦く、いたたまれない思いがこみあげます。プロム直前に、一緒に行く相手がいなくなるという悲劇は避けたい。そう考え、当日も無理をして出かけようとするクリスティンに、父は「クラクションで男の車に乗るな」と、さらりと名言を発します(本当にその通り、家のなかまで迎えに来てくれないような不届き者は許せません!)。それでもクリスティンはカイルの車に乗りますが、心に浮かんだモヤモヤは消えず……。車を降り、自分にとって本当に大切なジュリーのもとへと向かいます。

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(C)2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24 

 しばらく距離を置いていたクリスティンとジュリーは、すぐに仲直りをして一途プロムへ。母と選んだピンクのキラキラのドレスを着たクリスティンと、パープルのドレスにコサージュをあわせたジュリー。目を閉じ、寄り添いながら踊るダンスホール、初体験や将来のことを語る明け方までの時間――大学進学を機に離ればなれになってしまうふたりの、一生忘れることのできない時間が、ゆったりと流れていきます。

▽誘い方も衣装準備もこれでばっちり! プロム映画の決定版

「ザ・プロム」(2020年)

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 Netflix映画「ザ・プロム」12月11日(金)より独占配信開始

 タイトルが示している通り、これぞプロム映画の決定版! 青春ミュージカルの人気テレビシリーズ「glee グリー」のライアン・マーフィが監督を務め、メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデンらハリウッドのスターたちが共演し、2018年にブロードウェイで開幕したミュージカルを映画化しました。

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 Netflix映画「ザ・プロム」12月11日(金)より独占配信開始

 ブロードウェイの元人気舞台俳優ディーディー(ストリープ)とバリー(コーデン)は、新作ミュージカルが失敗し、役者生命の危機に立たされます。そんなとき、インディアナ州の田舎町にある高校で、恋人同士のエマ(ジョー・エレン・ペルマン)とアリッサ(アリアナ・デボース)が、女性カップルでプロムに参加することを禁止されたというニュースを聞きつけたふたり。「この機会を利用すれば、自分たちのイメージが挽回できるかも……?」と考えたふたりは、同じくキャリアアップを狙うダンサーのアンジー(キッドマン)とともに、渦中の高校へと乗りこみます。

 「愛する人と、プロムに行きたい」――これだけの願いが、なぜ叶わないのか。悲しみに暮れ、LGBTQへの誤解や偏見と闘うことを決意するエマの姿からは、怒りや切なさだけではなく、プロムに寄せる特別な思いが伝わってきます。そんなエマを軸に、学校のPTA会長を務める厳しい母にカミングアウトできないアリッサ、ゲイであることが理由で、家族と疎遠になってしまったバリーら、それぞれの悩みが交錯し、皆の思いはフィナーレのプロムへと向かっていきます。

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 Netflix映画「ザ・プロム」12月11日(金)より独占配信開始

 プロムが主役の本作では、一緒に行く相手を誘ったり、衣装を買いに行ったりと、準備さえも特別なプロムまでの日々が細やかに描かれます。学生たちが意中の相手をプロムに誘う、アクロバティック過ぎるミュージカルシーンは必見。「PROM Yes? No?」というチェック欄が描かれたTシャツや、(ミュージカルあるあるの)なぜか一緒に踊って盛り上げてくれる友人たちなど、衝撃の要素が満載です。実際に、プロムまでの数カ月、学生たちの噂は「誰が誰を誘うのか」というテーマで持ちきりになるようです。またバリーがエマを連れ出し、アップテンポなナンバー「Tonight Belongs to You」にのせ、プロムの衣装を選ぶモールのショッピングシーンは最高! バリーがチョイスしたシンデレラのような淡い水色のドレスが、エマによく似合っています。

 しかし、アリッサの母や友人たちの策略により、学校の公式プロムに参加できなかったエマ。ですが、そんな妨害には負けず、自分たちの手でプロムを実現させ、インターネットでつながったLGBTQのカップルたちをゲストに招くことに。遂に夢が叶ったエマは光沢のある水色のスーツ、アリッサは煌びやかなピンクのドレスで登場。ブロードウェイスターたちの資金援助のおかげ(!?)か、見たこともないほどリッチなプロムを、是非見届けてください。

▽超能力少女が、プロムを血の海に変える… アンチプロム派に捧げる1作

「キャリー」(1976年)

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 SNAP Photo/amanaimages

 最後は、ブライアン・デ・パルマ監督が、“ホラーの帝王”スティーブン・キングの小説を原作に、超能力をもった少女キャリーが引き起こす惨劇を描いたオカルトホラー。キャリー役のシシー・スペイセク、狂信的な母親を演じたパイパー・ローリーが、それぞれ第49回アカデミー主演女優賞、助演女優賞にノミネートされており、ふたりの熱演に圧倒されます。

 狂信的な母親のもとで育てられ、学校でも日常的にいじめを受けている少女キャリー。ある日、学校で初潮を迎えたキャリーは、生理現象は汚れの象徴だと母親に罵られます。しかし、その日を境に念じることで物を動かせる超能力に目覚めていくキャリー。一方、キャリーをいじめた罰として、プロムへの参加を禁じられたいじめっ子・クリスは、キャリーへの陰惨な仕返しを思いつきます。

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 写真:Album/アフロ

 ことの発端は、キャリーのクラスメイト・スーがいじめを反省し、ボーイフレンドのトミーに頼みこみ、キャリーをプロムに誘わせたこと。ずっと暗い表情だったキャリーが、トミーにもらったコサージュにあわせて、ピンクの衣装を自分で作ったり、メークをしてみたりと、うきうきと準備する姿が本当に無邪気でかわいらしい。男性はコサージュ、女性はブートニアを用意して交換するのも、プロムのルール。そういえば筆者の高校生時代にも、体育祭でカップル同士がハチマキやタスキを交換するという文化がありました。イベントの日に思い出に残るアイテムを交換するのは、世界共通のようです。

 そして迎えたプロム当日。緊張気味ですが、これまでにないほど美しく輝くキャリーを、トミーが優しくエスコート。ふたりの表情を下からとらえた長尺のダンスシーンは、目が回りそうになりますが、まるで「ふたりだけの世界」を表現しているようで、デ・パルマ監督の演出が光ります。プロムも終盤に近付き、クリスたちの策略で、プロムクイーン&キングに選ばれたキャリー&トミー。キャリーの頭にティアラが載せられ、幸せの絶頂が訪れたその瞬間、頭上に豚の血が降り注ぎ――。怒りを爆発させ、超能力を解き放ったキャリーが、プロム会場を血の海へと化し、的確に(!?)人を惨殺していくさまを、しかと見届けてください。プロムに苦い思い出がある、もしくはアンチプロムの方は、血まみれでクールなキャリーに復讐を託しながら鑑賞すれば、殺伐とした気持ちもほぐれそう。

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 本作は、23年を経て製作された続編「キャリー2」(2000)や、クロエ・グレース・モレッツとジュリアン・ムーアの共演でリメイクされた「キャリー」(2013)など、関連作品も数多く作られています。また、血塗られたプロムが好みの方は、プロムの夜に連続殺人事件が発生する「プロムナイト」シリーズもチェックしてみてください。


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