見出し画像

【スクリーンで輝くお笑い芸人】一人の芸人の悲哀に満ちた人生 「本坊元児と申します」

 皆さんこんにちは。そろそろお笑いの賞レースが本格化する時期になり、お笑いファンとしてソワソワする日々を過ごすことが多くなりました。

 ここでは、お笑いというより、むしろお笑いに真摯に向き合っている芸人さんが好きな編集部員の佐藤レモナが、彼らの携わった映画を通して、芸人で見せる顔とは違う新たな一面をご紹介します。

佐藤さん

 今回取り上げるのは、2012年から2年間に渡ってお笑いコンビ「ソラシド」の本坊元児さんを追ったドキュメンタリー「本坊元児と申します」(33分)です。YouTubeで特別公開され、約36万回再生されています(8月17日時点)。過去には「第6回沖縄国際映画祭」でも上映され、話題を呼んだ“映画”です。

 「麒麟」が同期になる「ソラシド」は、撮影の3年前に上京したものの芸人としては全く売れず。過酷な肉体労働のアルバイトで生活し、東京で負のオーラを増していく本坊さんの人生に迫ります。

■「ほんまおもんない。もう死の」 飛び出し続ける負のパワーワード

 監督・撮影・編集は、M-1王者「とろサーモン」の村田秀亮さんが務めています。冒頭に登場し、本作について説明する村田さんによると、芸人として売れず、貧乏な生活をしていた先輩の本坊さんから出てくる悲しみのパワーワードを聞いて、これは撮影しなければと思ったそうです。

 本坊さんがTwitterなどで発信する言葉は、昔からお笑いファンの間で話題になっていました。本作でも、Twitterで返信をしてくるファンについて「そいつらは笑っているけれど、(自分が)死んだら一番笑うんだろうなって思う」「頑張ってくださいとか、何か食べましたかって連絡くるけれど、この人は俺に餓死してほしいっていう気持ちも持っているんだなって思ってしまう」と、ネガティブなワードを淡々と発しています。

 貧乏な生活をしているのに、なぜかエイサーを習い始める本坊さん。

 給料を借金の返済にあてずに、なぜか高価な舞台衣装を買いに行く本坊さん。

 シャワーを浴びながら「ほんまおもんない。もう死の」と心配するような発言をしたかと思えば、シャワー後には生きるために食事をする本坊さん。

 「彼女はいらんなぁ。信用できへん」とかっこよく否定してから、「ごめん、やっぱり欲しい」と本音を漏らす本坊さん。

 鑑賞を進めるほど、謎だけれど人間らしい本坊さんにどんどん惹かれていきます。ちなみに、この後本当に彼女ができることになるのですが、これまで泥人形のようだった本坊さんの生き生きとした表情と生活の変化が微笑ましいです。

 映像の後半、故郷の愛媛県松山市に帰る姿も収められているのですが、個人的には特にぐっときた場面でした。地元でぱっと顔が明るくなり、実家ではお母さんに熱烈に歓迎されます。

 「何にもないけれど」と温かいご飯を用意するお母さんの嬉しそうな顔。お笑いの世界はわからないけれど……と前置きしてから、お母さんは「とにかく心だけはいつも磨いとってほしい」という言葉をかけます。本坊さんの言葉のセンスは、きっとお母さん譲りです。

■まさかの締め方 そして、本坊さんの現在

 村田さんに未来のことを聞かれた本坊さんは「先のことを考えすぎているからしんどかった」「漫才やっていかなちゃんと」と、若干負のオーラを残しつつ、芸人として前を向き始めます。どうやって終わるのかなと思ったとき、過酷なアルバイト生活を生かしたまさかの締め方を迎えます。

 現在の本坊さんは「山形県住みます芸人」に就任し、西村山郡西川町に住みつつ、100円という破格の家賃で農業を始めています。YouTube(https://www.youtube.com/user/honbouganji)で西川町での生活を公開しているので、興味を持った方はぜひ見てください。撮影当時のどんよりした姿はなく、どこかすっきりしたように見えます。

 村田さんとは、以下の動画で撮影当時のことを語っていました。

 村田さん「いまだにあのドキュメンタリーのことを言われます。あれ以上追っかけないんですかって。でも、あの感情が生まれるのってあの時期しかないんですよ」

 本坊さん「わかる。俺も無理。次どうやって終わるんだろうって。死ぬしかない

 生活や表情は変わったけれど、負のパワーワードのセンスはずっと変わらない本坊さんに安心し、今後もっと売れたらどう変化していくのか、いちファンとして楽しみにしています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?