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「最悪は塗り替えられる」人間味あふれる怪物対決を大画面で【次に観るなら、この映画】12月4日編

 毎週土曜日にオススメ映画をレビュー。今週は3本ご紹介します。

①マーベルコミックのダークヒーローを描き、世界的大ヒットを記録した「ヴェノム」の続編「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」(12月3日から映画館で公開)

②1人の弁護士が環境汚染問題をめぐり、十数年にもわたり巨大企業との闘いを繰り広げた実話を描いた「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(12月17日から映画館で公開)

③離婚と子育てを乗り越え、大人の青春を謳歌する女性の姿を描いたドラマ「グロリア 永遠の青春」(12月3日から映画館で公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!

◇シンプルだがけっこう奥が深い。人間味マックスの怪物対決!(文:映画ライター・清藤秀人)

「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」(12月3日から映画館で公開)

 仕事と恋人を同時に失い、腐り切っていたジャーナリストのエディに、凶暴な地球外生命体<シンビオート>が棲み付き、ヴェノムとして名乗りを上げた前作から3年。互いの欠点を補い合う形でバディとなった彼らは、その後、ひとまずは平穏な日々を送っていたのかと思いきや。

 勿論、そんなはずはなく、続編ではエディに「悪人の脳みそ以外は貪り食わない」と躾けられ、代わりにヘルシーなチキンやチョコレートで食欲を和らげる食事制限をかけられていたヴェノムが、遂にブチ切れ。大喧嘩の果てに家出してサンフランシスコを彷徨うことになる。

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 そう、続編はコミカルで切ないバディムービー感が満載である。話の主軸は、投獄中の刑務所でエディと再会し、いきなり彼の腕に噛み付いて共生体の一部を接種したシリアルキラーのクレタス、転じて最凶の<シンビオート>カーネイジvs、そのためによりを戻したエディ×ヴェノムの赤黒(双方のホディカラー)の決戦だ。

 本来は、スパイダーマンの宿敵でマーベル史上最凶のはずだったヴェノムが、さらに凶暴な相手と対峙した時に、俄然、ヒーローの役目を果たしてしまうのは、このジャンルではさほど目新しくはない。従って、キャッチコピーは「俺たちより、最悪」。

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 肝心なのは、エディを演じるトム・ハーディと、クレタス役のウディ・ハレルソンが、どちらも他のマーベルヒーローとは違って、どこか落ちこぼれで人間臭く、観客の鼻先まで汗の臭いを突きつけてくるところ。結果、本作はダークヒーローものの中でも人間味がマックスの怪物対決となった。

 そして、監督のアンディ・サーキスはエディとヴェノムの関係性について、現実主義と空想主義がせめぎ合うドン・キホーテとサンチョ・パンサのようだと表現している。確かに。両者はぶつかり合いながらも時に歩み寄り、いつしか、互いにとってなくてはならない存在になっていく。

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 これはバディムービーどころかほとんどラブロマンスではないか。シンプルだがけっこう奥が深い、「ヴェノム」その副題が「レット・ゼア・ビー・カーネイジ(大殺戮よ、起これ)」なのである。

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◇マーク・ラファロと主人公の弁護士の信念がリンクし深い感動を呼ぶ(文:映画.com 和田隆)

「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」(12月17日から映画館で公開)

 世界マーケット向けに娯楽超大作を生み出し続けているアメリカ・ハリウッドの映画産業。そんなハリウッド映画のスターであり、実力派俳優のひとりであるマーク・ラファロが主演とプロデューサーを兼任して、全米を震撼させた実話に基づく衝撃の物語を映画化した。

 巨大企業との闘いを描いた内容のため、場合によってはスターの地位を失う危険性もありそうなもの。しかし、主人公の弁護士と同様に、不屈の精神で本作を製作したラファロの熱い思いが見る者の胸を打ち、映画の持つ力を改めて感じさせてくれる。

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 もちろんこれまでにも「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」など、巨大企業のスキャンダルを描いたドキュメンタリー映画は数多くある。また、アメリカのタバコ産業の不正を描いた社会派ドラマ「インサイダー」なども製作されて高い評価を受けているが、この「ダーク・ウォーター 巨大企業が恐れた男」もよく映画化することができたなと、久々に感心させられた。

 環境汚染問題をめぐって、ひとりの弁護士が十数年にもわたって巨大企業との闘いを繰り広げてきた軌跡が綴られた記事を、環境活動家でもあるラファロが読んで心を動かされ、映画化を決意したという。しかし、その巨大企業とはテフロン加工のフライパンなどで有名な大手化学メーカーのデュポン社である。映画化すれば、主人公のように強大な権力と資金力によって法定闘争に巻き込まれる可能性もあったはずだ。

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 だが、ラファロの揺るぎない姿勢は、自ら演じた主人公の弁護士ロブとリンクしてくる。しかも、主人公の妻サラ役を演じた「プラダを着た悪魔」「インターステラー」のアン・ハサウェイをはじめ、「ショーシャンクの空に」「ミスティック・リバー」のティム・ロビンス、ビル・プルマン、ビル・キャンプら実力派キャストが集結。さらに「キャロル」「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督が、ラファロからのオファーを快諾しメガホンをとっているではないか。

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 本作のコピーに「真実に光をあてるためにどれだけのものを失う覚悟があるのか―」とある。自らの大切なものを失うかもしれないことを覚悟して、巨大企業の隠ぺいを暴き、弱き者を救おうとすることは並大抵の信念ではないだろう。

 ラファロは、そんな弁護士ロブをヒーローや聖人として演じるのではなく、プレッシャーやストレスとも闘いながら、真実をひたむきに追及する生身の人間として感動的に演じ切っている。新型コロナウィルスの感染拡大を経験した私たちにとって、水質汚染問題もまた明日自分たちにも起こり得る物語で深い共感を呼び起こすだろう。真実とは、正義とは何か、社会派の法廷ドラマとしても見応え充分である。

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◇グロリアの「たったひとりで踊る」という自由が、最高に輝いている(文:映画.com編集部 飛松優歩)

「グロリア 永遠の青春」(12月3日から映画館で公開)

 「グロリア、いつだって駆け足で誰かを追っかけて捕まえようとしてる」――主人公と同じ名前の女の子の恋を歌った1980年代のヒットナンバー「グロリア」。この楽曲のほかにも、劇中で流れるエモーショナルな音楽の数々は、彼女の心模様を映す鏡のような役割を果たしている。

 「グロリア 永遠の青春」は、「ナチュラルウーマン」などで知られるチリのセバスティアン・レリオ監督が、「グロリアの青春」(2013)をセルフリメイクした作品。主演のジュリアン・ムーアが演じることを熱望し、レリオ監督が時を経て再び向き合うのも納得できるほど、グロリアというヒロインの魅力は圧倒的だ。

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 グロリアは、離婚と子育てを経験し、いまは自立した自由な生活を謳歌しながらも、満ち足りない思いをくすぶらせるアラフィフ女性。ある日、紳士的かつ知的な、同じく離婚経験を持つアーノルド(ジョン・タトゥーロ)とクラブで出会い、付き合うことになる。

 クラブやヨガに通い、一夜の関係も楽しみつつ、アーノルドとの新たな恋の予感に胸を高鳴らせるグロリアは、全身で「いまが人生最高のとき」というメッセージを発しているかのように軽やかだ。しかし、眠れない夜、アパートの上階から聞こえる騒音に頭を抱えたり、出産のため、夫のいるスウェーデンに向かう娘のあとを追いかけたりと、例えようもない孤独や心細さがふと顔をのぞかせる。そんなグロリアの心の移ろいを繊細に表現するムーアは、やはり素晴らしい。

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 一方で、グロリアと似通った状況でありながらも、前妻とふたりの娘との複雑な関係に絡めとられるアーノルドからは、晩年期の男性が直面するリアルが垣間見える。新しい恋に踏み出そうとしながらも、グロリアの存在を家族に伝えられないアーノルド。自身の恋を娘たちには分かってもらえないと説明するが、グロリアはその心情を理解できない。誰もがグロリアのように前を向いて生きられたらと思うが、年齢を重ね、身軽ではいられなくなったアーノルドの生きづらさにも、見過ごせないものがある。

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 冒頭でグロリアは、クラブの片隅で、どこか浮かない表情で音楽に身を委ねている。そして理想の相手と出会うも、いくつになってもままならない恋に傷付く。終盤にはある決断を下した彼女が、たったひとりで踊るシーンがある。そこには寂しさや、恋への執着から解き放たれ、自分が自分らしくいられる選択をした彼女だけが手にできた、本当の自由が宿っているように見える。

 「いつか終わりはやってくる」「そのとき私は踊っていたい」――そんなグロリアの言葉が、脳裏に力強くよみがえる。

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