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変なシズオカ

2022年のゴールデンウィークに伊豆を旅行して、特に印象に残った二つのスポットについて。静岡の不思議な魅力に迫る。

憧れの地、「まぼろし博覧会」へ

 まず初めに向かったのは、伊東市にある「まぼろし博覧会」。館長であるセーラちゃんが「誰もが元気になれる」をコンセプトに作った施設である。なんと東京ドームくらいの敷地面積があり、セーラちゃんが作った展示室が日々増殖し続けているらしい(ちなみにセーラちゃんはメディアでもよく取り上げられており、2021年12月にはNHK総合「ドキュメント72時間」でもセーラちゃんが密着取材されていた)。まぼろし博覧会に行ったことがある友人から、「怖いけどすごく魅力的だった。まるで空間をコラージュしているようだった」という口コミを聞き、ずっと気になっていたのである。
 入り口からすでに、たくさんの不思議なオブジェやマネキンが並んでいる。見上げると大きなガラス張りの植物園のような建物も見えた。圧倒されていると、入り口のアーチの奥にある小部屋から、セーラー服姿の人物が水色の髪をなびかせながらこちらへ駆け寄ってきた。噂のセーラちゃんである。いきなり会えるとは思わず驚いていると「いらっしゃいませ。どうぞ楽しんでってくださいね。今日は人が少ないのでゆっくり見られますよ」と優しく声をかけてくださった。感激して、ぜひ一緒に写真を撮ってくれないかというと、さっと私の足下にしゃがみ込み、ポーズをキメてくれる。この施設の設計や運営はほぼすべてセーラちゃんが担っているとは聞いていたが、毎日メインキャラクターとしての業務にも務めているとは。ホスピタリティにあふれた、物腰の柔らかい方だった。

屋外展示のマネキン達。
「まぼろし神社~祭礼の夕べ~」ゾーンの展示。サーカスのイメージだろうか。

 最初に入った「昭和の町を通り抜け」コーナーや、「ほろ酔い横丁」「メルヘンランド」も面白かったのだが、「まぼろし神社~祭礼の夕べ~」ゾーンは印象的だった。入るとなぜか、最初に動物が取っ組み合いをしている様子が目に入ってきた。ギョッとするが、この施設では展示の意味を深く考えるのはやめにして先に進む。秘宝館のような生々しい展示や、お化け屋敷のような音声が絶えず流れている暗い部屋「怨霊寺」など、どれも一人で見るにはかなり勇気がいる。

「大仏殿」ゾーン。

 最後に入った「大仏殿」ゾーンは、はじめに見えた植物園のような建物の中にあった。なぜか、ガラス張りの施設の、その高い天井と同じくらい大きい「聖徳太子像」や「仁王像」がそびえ立っている。南国っぽい雰囲気の植物が生い茂る中に、古代遺跡を模したアーチや神社など、いろんな物がごちゃごちゃと設置されている。にも関わらず、なぜか統一感がある。たしかに、これは「空間のコラージュ」であるといわれると納得感があるような気がした。
 夢から醒めたような心地で元の入り口まで戻ってくると、いつの間にかまたセーラちゃんが来てくれていて、植え込みの上に登って大きく手を振ってくれていた。「変」は人を元気にする。そう実感できる施設だ。

バブルを感じる「ホテルニューアカオ」

ニューアカオの印象的なロゴタイプ。

 次に訪れたのは、昨年末に閉館した熱海の「ホテルニューアカオ」だ。(※2023年8月現在、営業が再開されています)1970年に建てられ、バブル期は社員旅行などでよく使われていた高級ホテルだ。なぜか錦ヶ浦の断崖絶壁に、海へせりだすようにして建てられていて、遠目から見ても不安定な形をしている。コロナで休業を余儀なくされたことや、建物の老朽化などの問題もあり閉館してしまったのだが、今でもアートの展示スペースなどとして活用されている。今日も「ACAOdesART」というアートイベントがここで行われるというのでやってきたのである。

アートの展示の一環でホテルニューアカオのいろんな椅子が展示されていた。

 中に入った途端、床や壁の装飾や豪華なシャンデリアに迎えられた。なんだかこの空間には自分が場違いな気がする。だが、ここで驚いていてはまだ早い。広い最上階に上がると、一段ときらびやかなシャンデリアの中に、猫足の豪華な椅子や調度品が並べられていた。そして壁には大きなレリーフがかかっている。

「巣婚式」とか「陶器婚式」って聞いたことがないなあ。

 レリーフには「記念旅行 1年紙婚式 2年藁婚式……」と書いてあった。銀婚式でも還暦祝いでも、このホテルで変わらずお祝いしましょうということなのだろうか。結婚記念日を細かく設定して祝う風習は、バブル真っ最中の1980年代に生まれたとされる。こんなに祝っていては毎日パーティーではないか。いや、毎日パーティだったのか。そう思うと、この大広間で談笑している人の幻影が見えるような気がした。令和を生きる私たちがもう経験することはないだろう、バブルの浮かれた空気が染み込んでいる空間で、なぜか胸がぎゅっとなった。

ロイヤルルームの内部。高所恐怖症ではないが、窓から見える景色にくらくらした。

 アートの展示は客室にもあった。ROYALROOM1471。そのレトロな木製のドアを開けると和室であった。窓の外からはいつでも海が見えて下を見るともう崖である。高所恐怖症でなくてもちょっと怖くなる。あえて客室の電気をつけず展示されていたのだが、客室は特に床のシミなどもそのままで、「ここに人がいたんだな」というじっとりとした空気を感じることができた。廃ホテルにはやはり独特の凄みがある。

ダンスホール。点々と置かれている椅子はアートの展示の一つ。

 その他、広いダンスホールや食事会場を生かしたインスタレーションを存分に楽しんだ。ここをアートの展示会場として使ったのは大正解だ。このホテルの空間とアートがお互いの良さを引き立てあっているように感じられた。ちなみにホテルニューアカオはKingGnuやSixTONES、櫻坂46などいろんなアーティストがPV撮影で使用していることでも有名だ。どこを切り取っても映える空間なので納得である。
 静岡の異空間をめぐってその雰囲気に呑まれたあとには、日頃の悩みがなんだかちっぽけに感じられた。癒されたい人はぜひ、静岡で羽を伸ばしてみてはいかがだろうか。(文・クサナギ)


まぼろし博覧会の公式ホームページはこちら

ホテルニューアカオの公式ホームページはこちら(現在は営業が再開されています)


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