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第11話 当事者の表示ー会社はちゃんと存在していますか?

日本の契約書には見られない、会社に関する記述

国内の契約書には、太字にした部分のようなことが書かれていることはありません。

COMPANIA PANAMENA DE AVIACION, S.A., a corporation (sociedad anonima) duly organized and validly existing under the laws of the Republic of Panama ...

なぜ相手についてそんなにこだわるのでしょうか?

取引を始めたものの、設立手続きなどに瑕疵かし(問題)があって、相手は会社として有効に成立していなかったとか、成立してはいたものの、何らの事情で有効に存続していなかった、というようなことにでもなったら大変なことです。何かあっても責任を追及する相手がいないということになってしまいます。

そこで相手がきちんと設立され、現に存在していることを確認しておくために、契約書の中に特別なことを書くのです。(☚これがポイント)

書いてあることの意味を教えて下さい?

上の例で正式会社名に続いて書いてあることの意味を見てみましょう。

a corporation (sociedad anonima) duly organized and validly existing under the laws of the Republic of Panama

① 会社である、つまりその国の会社法で人格を与えられた存在、「法人」(a corporation)であるということです。なお「会社」を英語でどういうかについては、第10話を見て下さい。ここでは sociedad anonima と、スペイン語ではどう呼ばれているかを注記しています。 
② どの国の法律に基づいているかということ(under the laws of the Republic of Panama)。時にはアメリカのように国ではなく、州のこともあります。
③ 適法に設立されたということ(duly organized)。
④ 今もきちんと存続しているということ(validly existing)(訴訟の当事者になれるということも意味します)。

国によっては会社を維持するために、定期的に何らかの手続きを取ることが要求され、それを怠ると会社の登記が維持されなかったりする場合があるようです。そのため③だけではなく、④を確認しておくことが意味を持ってきます。 

このほかに当事者の記載に、会社の登記、又は登録番号を加える国もあります。そうなっていれば相手方について客観的な情報が得やすいですね。例を見てみましょう。

インドの会社

準拠法令の詳細の他に、会社番号の記載があります。
DR. REDDY’S LABORATORIES LIMITED, a company incorporated under the Companies Act, 1956 and an existing company under the Companies Act, 2013, bearing corporate identification number L85195AP1984PLC004507 and having its registered office situated at … 

オーストラリアの会社

会社の番号が記されています。
Kazia Therapeutics Limited (ACN 063 259 754), a company existing under the laws of Australia, having a place of business at …

サウジアラビアの会社

商業登記番号の記載があります。
SAUDI ARABIAN MINING COMPANY (MA’ADEN), a company organised under the laws and regulations of the Kingdom of Saudi Arabia with commercial registration No.1010164391, having its head office and address at …

どこまでが必要な記載事項かは、それぞれの国の法令によります。

これらは自社についての宣言です

これらのことを書いた契約書にサインしたとなれば、少なくともその会社は「自分自身について、そのことは正しい」と言っていることと同じだと考えてよいでしょう。(☚これがポイント)

加えて、これらの情報を契約書に書いておくことは、当事者がきちんと存在していることを、記録に残す役割も持っていると言えます。

ここまで書いてあれば一応は安心なのですが、時には相手が言っていることの裏付けをきちんと、戸籍謄本に当たる書類を取って確認した方がよい場合もあります。

これらのことは絶対に書かなければならないのでしょうか?

これは実は微妙な問題です。署名の段階で相手の会社の存在自体について相手の確言をとり付けておく必要のない場合なら、法令で要求される事項は別として、何もかも書くことはありません。だから日本国内では、まずこんな記述は見かけないのです。

次に、契約書の書式、スタイルによっては、このようなことを書かないこともあります。例えば次に示す傭船契約(船舶を雇う契約。画像は一部分です)などは、業界で使われている書式に、必要事項を穴埋めする形で契約が行われるので(3番、4番の箱を見て下さい。Owners は船主、Charterers は傭船者を意味します。複数形で書くのが普通です)、相手の「身上調査」が必要ならば別途おこなわれ、ここには複雑なことは書かれないのが普通です。保険証券、倉荷証券、船荷証券、手形・小切手なども同様です。

BIMCOより使用許可取得済み

いずれにしても国際取引では相手方のことをよく調べておく、ということが本当に大切なことが、お分かりいただけるでしょう。(☚これがポイント)

最後に参考ですが、とても変わった例をあげておきます。最初の例はその会社の設立だけのために、特別の法律が作られている会社、もう一つは非営利活動法人(NPO)についての記載です。

UNIVERSITY HEALTH NETWORK, an Ontario corporation incorporated by special statute under the University Health Network Act,1997, having a principal office at …, Toronto, Ontario M5G 2C4 (“UHN”) …

THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN, an Ontario not-for profit corporation having an address at …, Toronto, Ontario, M5G 1X8 (“HSC”) …


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