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第10話 当事者の表示ー会社の名前はどう書けばよいのでしょうか?

まず実例を見てください。

THIS PERFORMANCE GUARANTEE AGREEMENT, dated as of … (this “Agreement”), is by and among: BLUE SPHERE BRABANT B.V., a private company …, incorporated under the laws of the Netherlands …, and its registered office at … (the “Client”); …

この契約書に出てくる BLUE SPHERE BRABANT社の正式名は BLUE SPHERE BRABANT B.V. です。

別の例を見てみましょう。 

This SECOND AMENDMENT TO AMENDED AND RESTATED CREDIT AGREEMENT, dated as of … (this “Amendment”), is entered into among …, CRAWFORD & COMPANY RISK SERVICES INVESTMENTS LIMITED, a limited company incorporated under the laws of England and Wales with registered number … (the “UK Borrower”),

CRAWFORD & COMPANY RISK SERVICES INVESTMENTS 社には Limited が付いています。 

B.V. や Limited を付ける必要があるのですか?

B.V.はオランダの、Limitedは英国の、株式会社の一種を表す語です。つまりB.V. や Limited は、日本の会社でいう「株式会社」などと同じことです。

このように、各国の会社法に従って名前の後、ときには前に、Limited、Incorporated、SA、KG、AB、PT、Pte Ltd、Sdn Bhd、など色々な言葉が来ます。これらは飾りではなく、法律の要請によるものであり、正式な名前の一部ですので、会社の名前にはこれらを正しく書き添えなければいけません。(☚これがポイント)

     株式会社は英語では Corporation というのですか?
参考ですが、英語圏であるニューヨーク州の会社法は会社の名前の後にcorporation、incorporated、もしくはlimited、またはそのどれかの短縮形をつけることを要求しています。

一方、英国の会社法は株式を公開出来る会社は public limited company、公開が出来ない会社は limited、またはそれぞれの短縮形をつけるよう定めています。public limited company は長いので、ほとんど PLC(なぜか小文字でplcと書かれているのをよく見ます)としています。

ところで最近の英語の用法では、短縮形を作ったときに、各文字の後にピリオド< . >をつけないことの方が多いようです。

なおcorporationという語は、英国では、会話の中なら「会社」の意味で使うこともありますが、正式には Corporation of the City of London のように、公共団体に使われます。

日本の会社名を英文契約書の中で、どう書き表せばよいのでしょうか?

現在の法律では、会社の名前(商号)の全部、又は一部をローマ字で書いて、登記することが可能です。新聞の株価の欄を見ると、ローマ字の会社がたくさんありますね。

ホームページを見てみました
例えばDOWA の正式な会社名は「DOWAホールディングス株式会社」となっています。もっとも医療機器メーカーのJMSのように、正式の会社名は「株式会社ジェイ・エム・エス」とカタカナ表記にしている会社もあります。Panasonicも「パナソニック株式会社」というのが正式名称のようです。

ローマ字で書いてよいのですか?

では英文契約書では会社名をどう書けばよいのでしょうか。2つの流れがあります。
1.会社の正式名称どおりを、ローマ字に直して書く
2.会社で定めた英文呼称を使う
というものです。2の英文呼称は定款の中で定めることが出来ます(定款は公証人の認証を受ける必要があります)。 

日本郵船株式会社の英文名称はNippon Yusen Kabushiki Kaishaで1の例です。なおKabushiki Kaisha を略してK.K. としてあるものもみかけます(上の写真も見て下さい)。

でもこれで行くと、DOWA Horudingusu Kabushiki Kaisha、Kabushiki Kaisha Jei Emu Esu、Panasonikku Kabushiki Kaishaとなって、なんだかかえって読みにくいですね。 

現実には、DOWA以下の3社の英文呼称はそれぞれ、DOWA HOLDINGS CO., LTD.、JMS Co., Ltd.、Panasonic Corporationということになっています。契約書ではこれを使うのでしょう。このように2つ目の方法をとる場合の方が多いのではないかという感じがします。 

これで完璧なのでしょうか?

実はもう1つ大きな検討点があります。固有の会社名をローマ字で定めたとしても、「株式会社」、「合同会社」などの会社の種類を表す部分を K.K.、Co., Ltd.、 Corporation などと書いて登記することは、法律上できないということです(会社法 第6条第2項)。 「京樽」、 回転寿司の「スシロー」などの親会社は、株式会社 Food & Life Companies といいます(英文呼称はFood & Life Companies Ltd. です)。

そうすると、こだわって会社の名前は「戸籍(登記簿)から一歩も踏み外さずに書かなければならない」と考えてしまうと、固有の名前の部分はどうあれ、会社の種類の部分は登記上は日本語なのですから、本当はそれをローマ字にすることすら、許されないということにもなりそうです。

考えてみれば、ローマ字を使わない国の会社(例えば、ロシア、中国、アラビア語圏の会社)についても同じことが言えそうですね。

もっとも中国の会社には英文契約書の中といえども、当事者欄では英語と中国語の両方で会社名を書いているものもあります。でもこれは世界的に見れば例外です。

困りましたね!? そうです、英語で会社の名前を書くには、妥協がいるのです!

結論から言えば、英文契約書を作るときはローマ字のアルファベット、及び記号で表記せざるをえないということです。英文呼称があればそれを使うのがよいでしょうし(認証された定款に書かれた英文呼称は、それなりの市民権を持っています)、なければ胸を張って会社名をローマ字表記してください。ほかの非ローマ字国の会社についても、多かれ少なかれ同じことだと思います。

最終的にはその記載が、できる限りで当事者を正しく表している、ということが大切なのです。(☚これがポイント)

外国の会社については、現地の弁護士などに依頼して調査してもらえば更に確実でしょうが、相手の名前についてそこまですることは、あまりないのではないでしょうか。

言われたとおりに書いたのに、後になって「それは我が社のことにあらず!」と言って責任を逃れるようだったら、契約相手を間違ったということです。

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