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第15話 正解がいくつもある問題!ー契約の準拠法(2/3)

準拠法候補は1つではないのですか?

契約書の中に準拠法に関する規定がなかったとしたら、契約の効力を考えるために、まず準拠法は何国法かを考えるところから始めなければなりません。ところが、この問題に答はありますが、唯一の正解というものはないのです。(☚これがポイント)

第14話で紹介した短い契約書の準拠法が A 国法でなければならないという理由もありませんし、絶対に B 国法になるという根拠もありません。ついでに言えば、C 国法だってなくはないのです。

もちろん、関係国が A 国と B 国の2カ国しかなければ、そのどちらかに落ち着く可能性は高いでしょう。それでもどちらかはすぐには分かりません。

候補が3つも4つもあることだってあります

それどころか、実際の国際取引というものはもっと複雑でありうるため、準拠法の候補がたくさんあるということもあるのです。こんなことを考えてみましょう。

日本の買主がスイスの商社(売主)と契約して、銅鉱石を買うことにした。売主はチリの鉱山会社から仕入れて、チリの港で、自社が手配した船に積んで買主に引渡す。商品を積んだ船は直接日本に向かう。一方、売買代金はドル建てで、売主のロンドンの口座に振り込まれる。

こうなると関係する国が、① 売主の所在地であるスイス、② 買主の所在地である日本、③ 商品の調達地、かつ引渡地であるチリ、④ 代金の支払地であるイギリス、⑤ 通貨はアメリカのそれといくつか出てきます。そのためこの契約の準拠法候補はいくつか考えられます。もちろん有力候補ばかりではなく、中には泡沫候補もあるでしょう。

準拠法を決めるのは誰ですか?

ここまでで:-
① 契約の効力は準拠法に基づいて考える
② 準拠法の内容は国によって異なりうる
ということは分かっていただけましたね。

では、第14話の売主と買主の間で、どこの国の法律が準拠法として適用されるかについて争いが起こったら、誰がそれを決めてくれるのでしょうか?自動的に決まらないのでしょうか?

決まらないのです。その理由は、どの国の法律(主に民法や商法などで、これを「私法」と呼びます)が適用されるのかを指さす法律(これを「国際私法」と呼んでいます。日本の国際私法は「法の適用に関する通則法」という法律がそれです。分かりにくい名前ですね?)が、これまた国ごとに違うからです。つまり2階建てになっているのです。(☚これがポイント)

ちょっと寄り道ですが、似た言葉に「国際法」というのがあります。でもこれは国家や国際的組織間の関係を律するもので、主に条約、その他に国際慣習法といわれるものからなっています。公的な関係を取り扱っている法です。

さて、「契約」に関しては大抵の国の国際私法では、まず「準拠法は自分達で選ぶことができる」となっており、加えて、もし当事者の選択がなかったらどこの国の法律にすべきかを指さす規定が含まれています。

そして、当事者の選択がないときに各国の国際私法が指し示す方向は、いつも同じではありません。甲国の国際私法の規定によれば乙国の法律が、乙国の国際私法によれば甲国の法律が準拠法になるということさえあるのです。

第14話の売主と買主は、それぞれ自分に都合のよい A 国、B 国の法律の適用を主張していました。こんなときに準拠法は何国法かを決めてくれるのは、最終的には裁判所です。なお、当事者による準拠法の選択のない契約が裁判所に持ち込まれた場合、裁判官は自国の国際私法に縛られます。

そんな面倒なことが起こらないように第14話で紹介したように、国際契約の中には「準拠法条項」というのが出てきて、当事者があらかじめ決めているというわけです。たとえば次のような条文です。

This Agreement shall be governed by the laws of Japan.
「本契約は日本法に準拠するものとする。」

やれやれ!何もかも国ごとに決まっているのですね?

なぜ国によって、私法の内容が違う上に、国際私法まで違うのでしょうか?それは法律というのは国ごとに制定されているからです。共通法というのは事実上、存在しないのです。

それでノーベル法律学賞がないのですね!?

経済理論は国に関係なく適用できます。科学も医学も、もちろん平和も国別にする意味はありません。ところが法律だけは国ごとに自己完結しているのです!確かに、日本人が日本の法律について立派な業績を上げて、ノーベル賞を授けられるというのは、他の国の人には納得がいかないでしょう!?

なぜこの現代にこれぐらいのことに「世界共通法」がないのでしょうか?

そう思ったのは私だけではありません。実際、第14話にふれた「ウィーン売買条約」は、売買契約に関する「私法」の主要な部分を条約化したものですし、国際私法に関しては、EU は共通の原則を持っています。しかしそれ以外にはあまりないようです。

法の世界はそこまで進化していないのです!!


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