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第19話 定義の作り方 (1)

ちょうどよい機会ですから、英文契約書の中での「定義」の作り方について考えてみましょう。

「定義」とはある語句や概念をまとめて短い言葉(略称)にしたものだということは、既に第13話でお話ししました。たとえば Venditor Company Limited を  Venditor と短く呼ぶというわけです。

当事者間の約束ごとですから、何をどう呼んでも構いません。とは言え誤解を招くような語は避けるべきでしょう。「熊」を「猫」と呼ぶというのはよくありませんね。 

事実上、法律上の立場を表す定義

上の Venditor 社 のように、本来固有名詞であるものは、名前の一部を略称にすることはよくあることです。

 一方、定義はその語をみれば、その当事者、ことやモノの事実上法律上の立場、役割などが分かるように作るという考え方があります。Venditor Company Limited が「売主」であれば Seller と呼ぶことにしたり、ライセンス契約 で、「契約の条件に従って、ある技術の使用許諾を与えること」を Licence とするのはその例です。 

定義された事項をちょうどカバーする語

また定義はその概念をできるだけ包括的に、但し広すぎず、狭すぎないで表す言葉で行うべきです。「トマト、ニンジン、玉ねぎ、および大根」を「野菜」と定義するのはよいと思いますが、たとえその契約書ではトマトが大部分を占めるからといって、これを「トマト」と定義するのは感心しません。 

誰もが契約書を頭から全部読むわけではない!

定義はしばしば契約書の最初の方の定義条項に出てきますが、契約書を読む人が必ず最初にその条項を見てくれるわけではありません。忙しい人が契約書を読むときには、第1条から順に読むわけではないし、いちいち定義条項を見て確認してくれるかどうかも分からないのです。

そういう人は「トマト」はトマトとしか思わないでしょう。「トマト」と呼んだのでは全体を見誤らせてしまいます。(☚これがポイント)

そうかと言って、過ぎたるは及ばざるが如しで、「トマト、ニンジン、玉ねぎ、大根」を「植物」というのは、外れているとは言えませんが、特別な理由がない限り、大きすぎて不適切でしょう。もっとも、その契約書が植物全般の成長促進剤の開発契約で、「トマト、ニンジン……」はたまたま目先の研究対象を並べただけ、というなら構わないかもしれません。

定義は簡単に見つかる場所に

定義すべきことがたくさんあるときは、第1条や第2条あたりに定義条項をおくのが普通です。 

1.1       Definitions
 As used in this Agreement, the following terms have the meanings set forth below:
 和訳:
1.1 定義
本契約中では、以下の用語は以下に記した意味を持つものとする:

ところが、独立した条項をおくほど定義すべき事項の数がないようなときに、はじめてその概念が出てきたときにその場所で定義する、という方法をとることがあります。 

第5話で最初に Sales Agreement を Agreement と呼びました。Seller も Buyer も頭書で定義されていました。大体の人は契約書を読むときに、頭書の部分ぐらいは見るでしょうから、それで構わないでしょう。

しかし、たとえば第5条になってはじめてある概念が出てきたので、そこでそれを「売上高」と定義する、というのは不親切です。なぜでしょう? 

必要があったのでまず第17条を読んでいたら、「売上高」という言葉が出てきたとします。もしその人が最初から順に読んでいたら、「あぁ、何ページか前のどこかにあったな」と思い出すでしょうが、いきなり17条から読んだ人は、どこに定義を探せばよいのでしょう?最初に戻って順に読むことを強いられます。 

定義条項を設けるほかに、これといった簡単な解決方法はないのですが、17条で売上高が出てきたときに売上高(第5条で定義したとおり)、the Sales Amount (as defined in Article 5) とするのは1つのやり方です。

アルファベット順に並べる

付け加えれば、定義をまとめて1つの条項に書き出すときは、アルファベット順にしてください。時々契約書に登場する順に並べてあるものがありますが、参照する人にはとても使い勝手の悪いものです。(☚これがポイント)

定義された語句の代わりに、その内容を代入すれば、元に戻せること

実例をあげた方が簡単でしょう。例えば「機械、及びその部品」を「商品」と定義したとします。そしてある条項で「機械と部品は一緒に船積みしなければならない」と規定するとします。そこで 

「売主は商品とその部品を同時に船積みしなければならない」

 と書いたとします。ここに定義を代入すると

「売主は機械、及びその部品とその部品を同時に船積みしなければならない」

となってしまって、「部品」が重複します。定義を見直すか、条文を見直すかは場合によりけりですが、定義した言葉が正しく使われているかどうか、使うたびに確認しておきたいものです。(☚これがポイント)


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