見出し画像

自分自身の存在証明

一年に一日、

自分がこの世界で存在していていいんだ

と証明されるような嬉しい日がある


仕事をすること

それだけを
この世界に自分がいるって
この世界に自分がいてもいいって

理由にしている自分に
あの時気付いた


数年前
新卒で入社して約4年勤務した職場を退職
それから再就職するまでのたったの2週間
そんなわずかな空白の期間で


 生きている意味がわからなくなった


退職した理由にも繋がるけど
職場での人間関係で問題があり
なかなかメンタル的に追い詰められていて
体調も崩していて

誰とも連絡を取ろうと思えなかった


内容が内容なだけに
親にも友人にも相談したいと思えなかったし
誰のことも信じることができなかったし

自分自身で何とか気持ちの落とし所を
見つけないといけないことだと思っていて

あの人のせいだ、あの人が悪い、
自分があの時こうしていたら、


考えて考えて
誰かのせいにしようとしても
自分のせいにしても
納得できる答えは出なくて

どうしようもなくて
泣いて泣いて
それでもどうにもならなくて
自分がどうしたいのかもわからなくて


今思えばあの頃はドロ沼にハマっていた


とにかく一回忘れて再就職先を探さなきゃ

そんな気持ちでスマホを手に取った


ソファに寝転がってスマホを触ること以外
何をする気にもなれなかったけどお腹はすく
簡単なものを食べて空腹を紛らわす

買っておいたパンを食べながらふと思う

このパンを作った人たちは
こんな引きこもりで
社会の何の役にも立たない自分の為に
作った訳じゃないよな

自分がこのパンを食べることは
このパンを作った人たちの頑張りが
報われないことだと思えた

それでもおいしかった
だから許してと心の底から祈りながら食べた

その2.3日後には空腹すら感じなくなった



一日中パジャマ姿で
ひたすらスマホでネットサーフィンをして
眠たくなったら寝る日々

ネットで調べるキーワードは
「転職」だったはずが
いつの間にか
 「何もしたくない 食べたくない」
を主に検索するようになっていた

検索して出てくるのはいつも同じ
"鬱状態"
"鬱病"


それでも自分には当てはまらないと
検索してはスルーする
矛盾しかない日々だった

"引きこもり"状態になり
まもなく1週間が経とうとしていた頃
ふと

世界から
社会から
"自分の存在が消えている感覚"
を覚えた

この時の社会との繋がりといえば
スマホに届くメルマガと
光熱費の請求書とお役所からの郵便物が
届くくらいだった

でも
これらは社会との繋がりと言えるのだろうか

自分が今この世界から消えても誰も困らない

何の為に生きているのかわからない

かと言って
簡単に生きることをやめることも許されない


今まで育ててくれた親を悲しませることになる

生きたくても生きられない人もいる


こんな時でさえ
そんなありきたりのことしか
思い浮かばない自分が余計嫌になった


そんなドロ沼のドン底にいた時期に
大学時代の親しい友人の結婚式が
予定通り行われた

時期が悪いと思ってしまったけど
半年くらい前から予定されていたし
自分の気持ちの問題で急遽欠席するのは
新婦である友人に申し訳ないと思い
重たい体にムチ打って
どうにかこうにか準備をして会場に向かった

いつもなら
豪華なフルコースを美味しくいただきながら
新郎新婦のプロフィールムービーを
隣の席の友人とおもしろおかしく見て
幸せそうな2人の話で盛り上がって
夜には頬がピリピリするくらい
たくさん笑う一日になる
はずだった

会場に向かう時に大学時代の友人に
"珍しくそんな顔してどうしたの?"と
言われてしまった

二次会の席では
この日の主役である新婦からも
同じことを言われてしまった

その時初めて気付いた
笑顔を繕うこともできなくなっていた

でもこんな華々しい日に
自分のドロ沼話をする気にはなれず
自分以外の人に話題が向くように
なんとかごまかしながら
大勢で過ごすおめでたい一日を耐えた


思い返すと非常に申し訳ない気持ちで
いっぱいになる
新婦に一瞬でも心配をかけてしまうなんて
笑顔いっぱいでお祝いしてあげたかった

本当に祝福の気持ちでいっぱいだったんだよ


そんなおめでたい日だから
ドン底から復活するきっかけになるのでは
と自分で勝手に期待したけど

表面的に大勢の人たちと会っても
自分が世界に存在している実感はなくて
あっけなくまた
"引きこもり"生活に戻ってしまった


ソファに寝転がって
何も食べずに
スマホでネットサーフィン

友人の結婚式に出席できたのだから
病気な訳がない

そう自分に言い聞かせつつ検索するのは
「食べない 生きる 期間」
「何もしたくない 笑えない 消えたい」
「鬱病 診断 テスト」
また矛盾だらけの日々


それも3日ほど続けると
充電したままスマホを触る体勢がキツくなり
充電器から外して使っていたが
あっという間にスマホの元気もなくなった

スマホも触らない
テレビもつけない
お腹もすかない
何もしたくない


ただソファに寝転がって
天井を眺めて
目が開いているだけ
息をしているだけ

そのうち真っ暗になって
自分が起きているのか
眠っているのかもはっきりわからず

そんなただ生きているだけの時間

とても長く感じたけど
丸一日しか経っていなかった

このままじゃダメだ
という思いが芽生え始め
時間が経つにつれ徐々に大きくなっていった

きっとこの時
この思いが芽生えなかったら
帰ってこられなかったかもしれない


バッテリーが切れたまま
放置していたスマホが目に入り
何も考えずとりあえず充電を始めた


社会と繋がるための一番近い"扉"
その"扉"を開いても何もないかもしれない
それでも"開かずの扉"のままではいけない
ただその一心で


何も食べていないせいか
しばらく寝転がっていたせいか
久しぶりに体を起こすと
貧血の時のように頭がクラクラした

それでも体が歩き方を覚えている
人間はすごい


スマホが充電され始めると
「メッセージ受信のお知らせ」
を知らせるべく画面が光った

どうせメルマガだろうと
期待しないで確認してみる

すると
ある友人からの久しぶりのメッセージだった

"扉"が開いた音がした



 元気?久しぶりに遊びに行こう!

届いたメッセージと今の自分の状態とでは
ハワイと南極ほどの温度差を感じた

そのメッセージが送られてから
一日経って既読にもならなかった為か
心配させてしまっていた言葉も続いていた

 生きてる?大丈夫?何かあった?


心配させてしまって申し訳ない気持ちもあり
誰かと繋がらなきゃというような気持ちもあり
それでも何も発したくない気持ちを抑え
最小限の言葉を打ち込んだ


 ごめんね、生きてるよ

ということと

 ちょっと今は遊びに行けない

ということ

絵文字や顔文字をどんな風に送っていたか
忘れてしまっていたくらい
久しぶりに発したメッセージだった

とりあえず安心させることができればと
送ったメッセージだったが
逆に異変を感じさせてしまったようだった

 え⁉︎何⁉︎どうしたの⁉︎

いつも遊ぶことに前のめりだった人間とは
思えない返信にとても驚いたらしい

その友人は社会人になってから
新しくできた唯一の友人で
共通の友人もいなかったし
誰かに話が広がる心配もなかったし
何かあると相談に乗ってくれていたので

もう自分だけでどうにかすることを諦めて
遊びに行けない理由
コトの成り行きを軽くざっくり話した

頭が回らない中
慎重に言葉を選びながら
1つ1つのメッセージを送るのに
とても時間がかかっていたが
友人はゆっくり聞いてくれた

全部ではなくとも
やっと誰かに話すことができた

一通りのことを送り終わると
"辛かったんだね"
の言葉をくれて
"なんでもっと早く話してくれないの"
と優しく叱ってくれた


この時の言葉が心を救ってくれた

その後も毎日安否確認のように
冗談混じりのメッセージを送ってくれた

そうやって気にかけてくれる人がいることが
素直に嬉しくて
気がついたら
この世界の自分に帰ってきていた

誰かと繋がることができて

社会と繋がることができて


少しずつ前を向くことができて

外に出られるようになり

運良く再就職先が決まり

運良く職場環境にも恵まれて


なんとかまた仕事を通して
自分の存在を自分で確認できるようになるまで
帰ってこられた


予定が合う時に一緒に遊びに行く友人
だった人は
それ以来
自分をドロ沼のドン底から救ってくれた恩人
になった

知られると重たいと思われるかもしれないから
本人には言わないけど
感謝しかなく
一生頭が上がらない

自分の存在証明をするのは仕事だけではない
むしろ仕事よりも人との繋がり
そう教えてくれた気がする

数年経った今では
運良く
自分の存在を毎日証明してくれる旦那がいる
たまに食事を共にする友人がいる
帰省を楽しみにしてくれている両親がいる


それから
一年に一日、

いつもよりちょっとだけ多く
メッセージが届くたびに

自分が
今この世界に存在していていいんだ
ということを証明してくれることへの感謝


自分と
繋がりを持ってくれている人たちへの感謝

もしかすると
メッセージを送っている側としては
慣習的に送っているだけの人も
中にはいるかもしれないが

それでも
あのドン底の時期があったからこそ
自分にメッセージを送ってくれること自体に
心から感謝が溢れてくる




だから
自分からも伝え続けていきたい

今この世界に存在していてくれてありがとう
自分と繋がりを持ってくれてありがとう
の意味を込めて


お誕生日おめでとう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?