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『倚りかからず』 茨木のり子

特に好きだったのは、114頁 「行方不明の時間」。

人間には
行方不明の時間が必要です
なぜかはわからないけれど
そんなふうに囁くものがあるのです

という書き出しから始まり、

三十分であれ 一時間であれ
ポワンと一人
なにものからも離れて
うたたねにしろ
瞑想にしろ
不埒なことをいたすにしろ

と続いていく。

「つながらない権利」について切実でありながら大らかに向き合っていて、詩の結びも凛としていながらチャーミング。

「つながらない権利」は、日本ではコロナ禍を機に議論が高まった印象だけれど、この詩集は2007年が初版で携帯電話についての言及もある。新たなテクノロジーとともにやってきた常時オンラインな世界の片鱗をいち早く感じとっていたんだと思う。

その限界点を突破していそうな今、たしかに私たちには行方不明の時間が必要そうだ。


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