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第32回絵本まるごと研究会

1月の研究会は、恒例の2022年新刊絵本をテーマとした選書会を開催しました。


『夜をあるく』(BL出版 2022)
ドルレアン・マリー:作 よしい かずみ:訳

現代は、自分の目や手足を使わなくても簡単に色々なことを知ることができます。自分もすっかり分かったような気になってしまいがち。自分の足で歩いて、自分の目で確かめて、からだ全部で感じて受け止める…そんな体験を大好きな家族とできたら、どんなに素敵なことでしょう。深い青と藍色の夜の風景、そして見開きいっぱいに描かれた「朝」…
とても美しい絵本です。
 この絵本を読んだ時、何十年も前の夏休みのある朝のことを思い出しました。当時1年生の娘の疑問「オジギソウは、いつ起きるの?」の答えを見つけようと、家族4人で朝日が昇るより前に起きて、娘が手づくりした鉢植えのオジギソウを見ていた朝のことを。オジギソウが起きるのを待っている間に、たくさんのお話をしたことを。「オジギソウがいつ起きたか」の答えよりも、4人で過ごしたあの時間こそが かけがえのない大切なものであることを、この絵本を読んで改めて感じることができました。(小学校教諭 村田さん)


『ぞぞぞ』(ポプラ社 2022)
森あさ子:作

本書では、「ぞぞぞ ぞぞぞ 〇〇ぞ」という呼びかけに対してページをめくると姿を現した答えがオノマトペとともに登場する、という2場面1完結が繰り返される。何が出てくるかな?という呼びかけ→答え、というあかちゃん絵本の定番の展開である。しかし、今回この絵本を読んで気になったのは単語(ことば)としてのオノマトペではなく、「ぞ」というひと文字、である。「ぞぞぞ ぞぞぞ」と声に出し読んでいるうちに、意味はないが確かに音が持つ力(印象?)がある、と気づき興味をそそられた。
 いろいろ調べる中で言語学、音声学などの分野で音象徴(おんしょうちょう)と言われることばがあることを知った。音象徴とは音そのものが特定のイメージを喚起する事象のことを指し、例えば濁音には大きい、固い、強いイメージがある。大小の石が転がる絵を見たとき、十中八九の人が小さいほうを「ころころ」大きいほうを「ごろごろ」だと認識するのだという。「ぞ」という音も、やはりなめらかというよりは角ばった印象が確かにあるし、それが3つ連なって「ぞぞぞ」になると「ぞっとする」などの表現に引っ張られるのかちょっとおどろおどろしく、背筋にすーっと何かが走るかのような感触を抱く。ことばとしての意味を超えた音の持つ面白さ、だ。
 これらのイメージは読み手の声の出し方や表現の仕方に子ども自身の体験も合わさって受け取られ、受け継がれていくのだろう。あかちゃん絵本ではあるが、日本語の面白さ、深さを感じさせられた絵本だった。(子育て支援室スタッフ 石坂さん)


『バンドゥーラ―“ジャングルの誇り”とよばれたゾウ』(評論社 2022)
グリル・ウィリアム:/作 佐藤 見果夢:訳

ミャンマーでは、昔から人とゾウが協力して林業が営まれていました。イギ
リスから貿易の仕事でミャンマーにやってきたウィリアムズは、ゾウ使いポトケを通じてバンドウーラに出会い、強い信頼関係で結ばれていきます。とても賢くて、勇気のあるオスのアジアゾウ、バンドウーラ(1897~1944)のおはなしです。
 ウィリアムズは、「ゾウの学校」作って愛情をもってゾウを訓練し、使役ゾウの環境は改善します。やがて第二次世界大戦が起こり、敵から逃れるためにウィリアムズたちはゾウを連れ、先頭にバンドウーラが歩いて、ジャングルや険しい山を越え、避難しますが、悲しい運命が待っていました。
ゾウの生態や使役ゾウの歴史、激減するアジアゾウ、ミャンマーの現状、森
林環境、密猟など様々なことを知り、考えさせられます。(図書館司書 野村さん)


『ちいさなハチドリのちいさないってき』(イマジネイション・プラス 2022)
ウサノケイスケ:絵 はしづめちよこ:企画

 米アンデス地方に伝わるお話をもとに創作された絵本で、デザイナーのウノサワケイスケさんのカラフルで洗練されたデザインが魅力的です。特に印象的な場面として、森の豊かな自然とそこに住むのどかな動物たちの様子から一変し、雷で森に炎が上がり広がっていくページは、森の熱気まで伝わるような色使いで表現されています。また、ハチドリの飛ぶ姿が連続するシルエットで描かれ、ハチドリが川と森を繰り返し行き来している様子がダイレクトに伝わってくる場面も印象に残ります。絵本まるごとのデザインと心に響くストーリーを親子で繰り返し楽しみたい絵本です。(小・中学校図書館司書 横田さん)

 

『そばにいるよ、わたしも』(化学同人 2022)
スムリティ・ホールズ:作 スティーブ・スモール:絵
青山南:訳 

クマとリスの友情を描いた『そばにいるよ』の続編。

クマとリスの最高のペアに入れてほしいニワトリ。認めてもらうようにニワトリがアピールするけれど、音楽性で合わないとのけものにされてしまう。 でも、ニワトリが危機に陥ったとき…二人はいいけど、三人だともっといい。 身近なところにもこういうことはあるのでは…人と人との関わりの不思議な感じが印象に残る。(大学教員 徳永さん)


『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』(福音館書店 2022)
松岡 享子:原案・文 降矢 なな:文・絵 

働き者のおじいさんとおばあさんは、毎日朝から晩までくるくるとまめまめしく働いています。ただひとつ困ったことは、何かしていても他にやりたいことが見つかるとすぐに始めなければ気が済まない…。お昼ごはんを食べた後の2人の働く姿は、確かに、目の前にやりたいことが見つかるとすぐ始める…。そのまめまめしい様子が、細かい部分まで丁寧に書き込まれたイラストと共に、読み手にも聞き手にも楽しく伝わってくる絵本です。
表紙の見返しに描かれている絵と裏表紙に描かれている絵が、1日の時間の経過を見事に表しているのも、この絵本の魅力のひとつです。
JRAC第4回「親子で読んでほしい絵本大賞 入賞」にも選出されました。(保育者養成校 教員 相沢さん)


『きみのことがだいすき』(パイ・インターナショナル 2022)
いぬいさえこ:作・絵

昨年の2月に刊行されました。小動物が暮らす森を舞台に、動物の親子が話しているのを覗いているという設定で、相手を思いやる優しいことばがあふれ、癒される内容の「メッセージ」絵本です。読者層は、幼児というより、つらさや心細さ、悲しみを十分知っている小学校高学年からYA年代、大人が対象だと思われます。「親子で読んでほしい」というキャッチですが、他者に対するというより、日々一生懸命生きている自分の心を癒してくれる絵本だといえるでしょう。
版元のパイ・インターナショナルは、もともとクリエーターを対象としたビジュアル本の出版社でしたが、最近は独特の児童書や絵本が出ています。「国内で10万部をめざす」ということで、社内で研究会を発足し、10万部の絵本にするするために、営業を交えての意見交換がなされているそうです。
ちなみにこの絵本は「発行1年で累計20万部突破」だそうです。「ふわふわ」で「小さい動物」「大切な人と読む」「たくさんの愛」「やさしさ」「メッセージを書いで贈れる」などなど、売れそうなキャッチコピーが、帯やカバーにふんだんに盛り込まれています。売れなければ絶版になってしまう書籍業界。なりふり構わず「売る」ということも大事な要因だと気づかされた昨年の1冊です。(出版社 波賀さん)


絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。

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