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第41回絵本まるごと研究会

毎年恒例の新刊絵本を振り返る会。2023年に刊行された推しの絵本を紹介しました。

『ほうきぼしのまほう』

作:ジョー・トッド=スタントン  訳:まつかわまゆみ
/評論社2023年

パパの転勤で自然豊かな地域から都会へと引っ越した主人公は、新しい環境に馴染めずもどかしい毎日を過ごします。ある晩、窓から見えたほうきぼしが、主人公にかけた魔法とは?新しい環境を受け入れるのは、必ずしも簡単なことではありません。大人にも勇気をくれる一冊だと思います。色鮮やかで、最終画面に驚きもあり、お話し会にもお薦めです。(やさか)

『ぼくはなんのほん?』

『ぼくはなんのほん?』
カロリーナ・ラベイ:作 はせがわけい:訳 /光文社 2023年

人がいなくなった夜の図書館では、本たちが棚からおりて、どんな人が自分を読んでくれたかをおしゃべりしています。その中でダスティーと呼ばれている本は「誰もぼくを読んでくれない」とさびしそう。本好きの子に読んでもらおうと作戦をたてる仲間たち。 1冊の本に夢中になる子どもから周囲へと広がっていくお話は、図書館や学校での読み聞かせにおすすめと思います。 「なんのほん?」のヒントはすでに出ているけれど、私は読み終わって表紙を見返してから気が付きました。(こんどう)

『ゆうやけにとけていく』

『ゆうやけにとけていく』
作:ザ・キャビンカンパニー  /  小学館  2023年

見開きページのまんなかでだんだん沈んでいく大きな太陽。日常の様々な風景や季節の変化と人々の営みが夕焼けに照らされて色合いを深めていく。昭和を思わせる人々や風景が多色使いで描かれ、選び抜かれた詩的な言葉と共にノスタルジックな雰囲気を漂わせる。
虫の鳴き声、子どもたちの歓声、鳥のはばたき。さまざまな光を放ちながら沈んでいく太陽とその景色と音に自分が包まれているような錯覚さえ起こし、今までの人生の様々なシーンを思い出させてくれる。
子どもにはゆっくり絵を眺めたり、太陽や夕焼けなどの科学的なことに注目するきっかけにも。また、描かれた情景や人々の営みについて話し合ったり、実際に親子で一緒に夕焼けを見てみるのもいい。大人にはじっくり絵を楽しみ、読んで味わい深く。
子どもから高齢者までさまざまな楽しみ方ができる絵本。(よこた)

植田 歩子:作
Gakken/2023年9月

お風呂からあがったゆうちゃんは,もう寝る時間。でもまだまだ眠くないの。うさぎさんやまくらさんが「おふとんさんがまってるよ」と誘います。
そして最後はおふとんさん自らが,ゆうちゃんを眠りに誘います。
優しい絵,3回のくり返し,最後は大切なうさぎさんと一緒にあたたかな布団にくるまれて眠る様子に,子どもたちはほっと安心することでしょう。
眠くないの,となかなか布団に入らない子どもの気持ちが,よく表れています。
また,主人公のゆうちゃんは,青いパジャマを着て車のおもちゃで遊んでいる様子から,男の子に思えますが,女の子にも見えます。「ゆうくん」ではなく「ゆうちゃん」としたところが,いいなと思いました。
親子でぜひ読んでいただきたい1冊です。(しみず)

あかえだ いづみ:作
日本標準 あのねブックス/2024年1月

たくさんのネコと暮らしているミコばあちゃん。得意な編み物で,ある日ネコになっちゃった。
夜になるとネコたちは次々と外に出かけていき,ミコばあちゃんも外へ行きたくなり,一人公園へ…。そこでなんと,思いがけない出会いが訪れます。予想外の展開にびっくり!ですが,作者はミコばあちゃんに,この出会いをさせたかったそうです。「いくつになっても自分の好きなことを思い切りして,お互いの好きなものを認め合う…そんなふうに歳を重ねていけたら素敵だし,そんなおばあちゃんにならなってみたい」とのことです。
「好きがある」という生き方が子どもたちに伝わると嬉しいです。
子どもにも大人にも読んでほしいお話です。(しみず)


コリーン・ペフ:文 ナンシー・カーペンター:絵 金原瑞人:訳
あかつき教育図書/2023年3月

「こんな人がいたんだ!」シリーズの1冊。19世紀初頭、ロンドンは劣悪な衛生状態が原因のコレラで6,500人あまりが犠牲となった。今、アフリカやアジアの一部で問題となっているSDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、当時、現在の先進国の大きな課題だったのだ。ひとりの土木技師が、様々な苦難を乗り越えて完成させた下水道は、200年近く経った現在も、ロンドンの人たちの生活を守っている。
巻末には、きれいな水を守るために世界中で行われている取組みや、現代の排泄物問題がまとめられています。(たけだ)

作:ダビデ・カリ 絵:レジーナ・ルック-トゥーンベレ
訳:ヤマザキマリ
green seed books/2023年2月

森に住む誇り高いクマの兵士は,自慢の剣のすごさを試したくて,手あたり次第なんでもかんでも切り刻み,森中の木も切り倒しました。
そんなある日,クマの住む砦が,流れ込んできた水で壊されてしまいます。「俺様の砦を壊したのはだれだ?」。腹を立てたクマは犯人探しを始めます。ダムの門番たちか?バビルサか?きつねか?それとも鳥たちか?
犯人探しの果てに,思いがけない真実にたどり着いたクマは……。
最初に目にしたとき,絵に惹かれました。そして何より,その内容に心をもっていかれました。自分や今の世の中と照らし合わせて,様々考えてしまう内容でした。子どもにも大人にも読んでほしいと思います。
今この瞬間も戦争が起こっている世の中ですが,皆がこのクマのような行動ができたら平和になるのに,この結末のように優しい世界が訪れるのにと思わずにはいられません。
小学校5年生に読む機会がありましたが,9分超という長さにも真剣に聞いてくれました。次世代を担うこの子たちが,何かを感じて受け取ってくれたとしたら嬉しいと思いました。(しみず)





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