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第39回絵本まるごと研究会

2023年10月28日(土)の絵本専門士による「絵本まるごと研究会第39回」では、「子どもとお母さんを支える絵本~学童期編~」をテーマに、第5期絵本専門士のAkadaが担当させて頂きました。

Akada
(東京都在住。病院勤務の言語聴覚士を経て現在は地域のフリースペース勤務。都内で乳幼児から高齢者までのおはなし会を実施している『おはなしポッポ』所属。絵本の読み聞かせや手遊びで活動しています。)

今回の発表は、2019年に私が担当しました「子どもとお母さんを支える絵本」の続編ということで、学童期の発達ゆっくりな子どもや発達に凸凹がある子どもと絵本の関わりについてや、発達ゆっくりな子どもが学校に入ってから直面する問題について、私自身の育児を通して感じたことをシェアしました。
なお、当日は複数の事例を紹介致しましたが、本レポートではその一部を記録したいと思います。

1.幼児期の「子どもとお母さんを支える絵本」
 前回2019年の講座では、主に、幼児期(幼稚園や保育園)の発達ゆっくりの子どもと絵本について、お話ししました。
 定型発達の子どもの言葉と心の発達について、また発達障害児の特性を発達障害の分類(DSM-Ⅳ)に基づき説明しました。
 そして、障害(ハンディキャップ)をテーマにした絵本を以下の分類でいくつかご紹介致しました。
(ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)、その他(吃音、聴覚障害、口唇口蓋裂など))。
 そして、発達ゆっくりの子どもにおすすめの絵本(=導入しやすい絵本)ということで以下の特徴を踏まえて、いくつか絵本を紹介させて頂きました。
①「かわいい」より「リアル」
② はっきりした色。わかりやすい絵。
③ 画面がすっきりしている。
④ 物語(ストーリー)の最初で、主人公がはっきりわかる。
⑤ 納得のいく結末。

「くだもの」 平山和子作 福音館書店
「おおきなかぶ」 A. トルストイ作 佐藤忠良絵 福音館書店

2.学童期と絵本(定型発達の子ども)
<低学年(小学1~2年生)>
児童向け文学を読むようになりますが、絵本もまだまだ読んでいる時期です。(エルマーやゾロリ、おしり探偵などのシリーズや図鑑など)。

<中学年以上(小学3~6年生)>
絵本はほぼ卒業し児童向け文学からジュニア小説、ライトノベルへと興味が広がっていきます。(サバイバルシリーズやホラー小説、長編小説など)。

●学童期の読書環境については個人差が大きく、家庭にそもそも本を置いているか、地域の図書館で借りる習慣があるかにも左右されます。
●令和の小学校では、学校の授業の中に「図書」の時間があり、一週間に一度好きな本を借りる機会がどの子どもにもあります。

3.学童期の発達障害児と絵本
〇発達障害児の就学(入学)後の環境について
 小学校に入る前は、発達グレーの子ども達もそれぞれ所属する保育園や幼稚園のクラスに加配の先生が付くくらいで、定型の子どもと同じような生活をしています。
 それが就学後は大きく変わり、地域による差はありますが、おおよそ以下の進路となります。
① 普通級:定型発達の大多数の子どもが所属します。
② 支援級(知的・情緒):固定級。所属は支援級で交流クラスに通います。
③ 通級:週に一度だけ指定の教室に通います。
※上記の判定は入学前の就学相談及び就学時健診で判定されることが多い。各クラスでの対応は地域差が大変大きいのが現状です。
※近年、通級(情緒)への希望者が増加し、原則1年で通級打切りとなる実態もあります。
●学校での読書環境について触れると、朝の読み聞かせは支援級でも普通級と同じように実施されています。

〇発達障害児の絵本と読書
 発達障害児の特徴として、年齢より情緒が幼い子どもが多い点が挙げられます。また、抽象的な概念が弱く、文脈を読むようなことが苦手な子どもが多い傾向があります。
 そうした発達障害児へ読書を促す場合は、やはり本人の興味のある本をすすめることが大切であると感じます。
 また、単に「読む」だけではなく、「体験」とセットで呈示することで記憶されやすく、心に残りやすいと思います。
<事例>
絵本「ゆきむすめ」 内田莉沙子作、佐藤忠良絵 福音館書店

雪の降った日に雪像を作ってみる。絵本とリンクする体験。

絵本「ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん」
エルサ・ベスコフ作、小野寺百合子訳 福音館書店

ブルーベリー摘みを体験。絵本と同じ実を実際に触れてみる。

 集団生活に慣れることや生活習慣を確立することがメインだった幼児期を過ぎ、就学後の学童期になると、発達グレーや凸凹がある子ども達は様々な問題を抱えることが多くなります。
 それは、「遊び」が中心だった園児時代とは異なり、学童期は学校生活の大半が「勉強」となり、より一層、集団に合わせた生活様式が求められるからです。
 45分間教室で着席すること自体が難しい子どもや、年々複雑になるお友達とのコミュニケーションについていけない子ども、抽象的な概念が入ってくる学習内容の理解が難しい子どももいます。
 俗にいう「9歳の壁」で躓く子ども達も出てくるのが中学年以降です。
 こうした多感な時期の発達障害がある子ども達に、絵本及び読書で支えることはとても難しいのが実感です。
 学校生活全体で見ると、担任教師との相性やお友達との関係で本人のメンタルが大きく左右されることも大きいと感じます。

4.学童期の子どものお母さんを支える絵本
 「9歳の壁」前後から、自己肯定感が下がる子どもが増えてきます。
親の愛情や見守り姿勢が変わらなくても、子ども本人の成長と共に、子どものメンタルが下がることはどうしても出てくることがあります。
そんな時期に「お母さん」におすすめする絵本をいくつかご紹介します。
子どもに寄り添うことをしながら、一歩引いた視点や全く異なる視点を味わう体験ができます。

〇個性の大切さを描いた絵本

「ダニエルのふしぎな絵」  バーバラ・マクリントック作、福本友美子 訳  ほるぷ出版

〇少し視点を変えてみる。俯瞰してみよう。

「うちゅうはきみのすぐそばに」  いわやけいすけ作、みねおみつ絵  福音館書店
「ちいさなあなたへ Someday」 アリスン・マギー作、ピーター・レイノルズ絵 主婦の友社

5.おわりに
 地域のおはなし会や自分自身の育児を通して、絵本は子どもの心に素晴らしい影響を沢山もたらすと思ってきた私ですが、学童期の発達ゆっくりや発達凸凹の子ども達には、「絵本」の読み聞かせは万能ではないと思うことも正直なところあります。
 また、定型発達の親御さんが「療育」というものを「魔法」のように効くものと捉えていることに違和感を覚えることもありました。
「絵本」を子ども達に読んでも、幼少期から専門機関の「療育」を行っても、その子どもの根本的な性質は変わるものではなく、「生きづらさ」を軽減する助けになる方法のひとつ、なのだと感じています。
「共生=共に生きていく」。
いつか自分達フツー(定型発達)の人間も年をとり、弱者になる日が来ることを心に留めて頂ければと思います。色々な特性を持ち様々な違いを持ったひとが社会にいて、共存していくことができれば、生きやすい世の中になるのではないかと考えています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。

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