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第36会絵本まるごと研究会

令和5年7月30日(日)絵本専門士による絵本まるごと研究会第36回では、「アイスブレイクの引き出しを増やそう」をテーマに、第五期絵本専門士の森景子と増田穂里が担当させていただきました。
はじめに、プロフィールをご紹介させていただきます。

森景子 北海道在住 元幼稚園教諭・幼児教室講師。NAKカルチャー教室を始め、親子向けのイベントから幼児教育従事者や政経セミナーまで、絵本を媒体にした活動をしています。

増田穂里 埼玉県在住 荒川区で一校専任の学校司書。公共施設や教育機関等で、読み聞かせや図書館サービス講座の支援をしています。

私たちは、絵本専門士であると共に、経験年数に差があるものの、絵本セラピスト🄬という共通点があります。絵本セラピーは、大人に絵本を楽しんでもらう場の提供をします。絵本は、子どもに分かりやすいように描かれている本ですが、私たちの師である柳田邦男先生は、「絵本は人生に3度読むべきであり、大人こそ絵本を読もう。」とおっしゃっています。大人の世界に絵本が広がり、心にゆとりや安らぎを持つことで、子どもたちに届く絵本も増えていくのではないでしょうか。
森は、子育て支援の現場で、笑わない女の子と出会いました。なぜ、この子は笑わないのだろう?と疑問に思っていたところ、お迎えに来た親御さんが笑わないことに気が付きました。子どもは、周りの大人に影響を受けて育ちます。この子を笑顔にするためにはどうしたらいいのか。そこで、森のミッションは、「子どもより先に、大人が笑顔になれる社会づくり。」だと気づきました。同様に、増田も、日々、多くの子どもたちと接する中で、その言動や様子から、大人の心も一緒に育む必要性を感じています。そのためにも、お腹の中の小さな命からご高齢の方まで、すべての世代の方に、絵本を読んでもらう心地よさを感じて欲しい、伝えたいと日々思っています。
多くの方に、絵本を楽しんでもらう活動の場の入り口に、絵本を使った「アイスブレイク」を活用する方法があります。人が集まったところで絵本を読む機会が多い私たちですが、ご参加いただいた方が、必ずしもみなさんがお知り合いだとは限りません。むしろ、はじめましての方が多いと思います。絵本を介した読み聞かせの会を進行し、その時間をゆったりと過ごしてもらうためには、主になる絵本を読む前に、参加者の緊張をほぐし、その場所が、安全・安心の場であるよう「場づくり」をしていく必要があります。絵本を媒体とした活動を行う私たちにとって、絵本の引き出しは広い方がいい。また、同じ本でも、人それぞれ使い方は違うこともあります。他の方の使い方を知ることも、使った後の効果を聞くことも、引き出しを広げることにつながるのではないかと話がまとまり、今回の発表に至りました。
テーマが決まった私たちは、話し合いを重ね、最初に、それぞれが、普段アイスブレイクに使っている絵本を出し合いました。それを、リストにまとめ、その中から、特にみなさんにおすすめしたい絵本の許諾申請を行いました。条件付きの物もありましたが、許諾が下りた絵本で、発表の構成を考えていきました。

さて、基本の「き」に戻って話を進めていきましょう。アイスブレイクとは、そもそもどんなことでしょうか。辞書を引いてみると、字のごとく、氷を壊すことですが、緊張を氷に見立て、氷を解かすという意味もあります。アイスブレイクは、人と人の関わりの中で、初対面の人同士が出会う時、その緊張を解きほぐすための手法であり、人を和ませ、コミュニケーションをとりやすい雰囲気を作り、更に、集まった目的の達成に積極的に関わってもらえるように働きかける技術です。別名では、アイスブレッキング、コミュニティビルディングとも呼ばれています。アイスブレイクの目的は、参加者全員が、和やかな雰囲気に包まれ、参加者同士のコミュニケーションが円滑に、豊かに広がるようにすることです。そして、参加者が、その場に自分がいても良いという安心感を持つことが大切です。このアイスブレイクを実践し指導する人を、アイスブレイカーと呼びます。アイスブレイカ―は、例えれば、ジグソウパズルの1ピースになって、その場にいる人々を繋げていく役割を果たします。アイスブレイクの効果は、一緒に声を出し、その声をそろえるなどといった手法を使い、みんなの息をそろえ、場の空気を整えることです。場の空気が整えば、居心地の良い場所になり、その場所が、安心安全な場所と分かり、次の活動や行動への準備が整っていきます。でも、実は、アイスブレイクの前から「場づくり」は始まっています。人間にとって、不安は未知からやってきます。その場に足を運んで来てくださった方には、こちらから声をかけ、明るく、にこやかにあいさつをし、出迎えましょう。心のこもったあいさつをされて嫌な気分になる人はいません。このあいさつの一言が、次の会話のきっかけになります。また、会場にも気を配ります。机や会場内の配置、雰囲気がとも重要です。音楽や香り、受付やテーブルに置く案内の掲示や小物なども有効なアイテムとなります。 

では実際に、アイスブレイクの引き出しを増やしていきましょう。絵本には、それぞれに個性があります。その個性を生かしたアイスブレイクをするために、私たちは、使う絵本を大きく4つの種類に分けてみることにしました。①声を揃える②言葉あそび③歌・体を動かす④クイズ・問いかけです。使い方は、もちろんいろいろあると思いますが、私たちの使い方を例に紹介していきたいと思います。 

①   声を揃える  声を出すことで、体の緊張を緩める。

*「こんにちは」にも、いろいろあって、一緒に声に出してまねっこしたくなる1冊。あいさつで、まめうしくんとつながる絵本。
 みんなで一緒にあいさつしましょう。はじめは元気に「こんにちは」。さあ次は、ちょっと恥ずかしそうに、「こんにちは」。今度は・・・。同じ言葉でも、言い方が違うとちょっと違う。こちらの誘導で、みんなの声が重なります。

『まめうしくんとこんにちは』 
あきやまただし 作・絵 2008年 
PHP研究所

『いーれーてー』 わたなべあや さく 2010年 アリス館
『かんぱーい』 山岡ひかる さく 2012年 アリス館
『はっはっはくしょーん』 たあ先生 作 あいはらひろゆき 文 ちゅうがんじたかむ 絵 2020年 KADOKAWA
『あいたいあいたい あいうえお』 聞かせ屋けいたろう 作 おくはらゆめ 絵 2021年 KADOKAWA
『あーといってよ あー』 小野寺悦子 文 堀川真理子 絵 2015年 福音館書店

②   言葉あそび  言葉の持つ音の響きや音のリズム・オノマトペを楽しむ。

*言葉の中に、かくれているもの、なあに?大人の男性向けにもおすすめです。
「れすとらん」の中になんにかがかくれています。さあ、考えてみて。なにがいったいいるのかな?
文字をよーく見てみると、何か浮かんできませんか?

『めくってごらん』 
accototo  ふくだとしお+あきこ 作・絵 2010年 
イースト・プレス

『いろいろごはん』 山岡ひかる さく 2007年 くもん出版
『はやくちこぶた』 早川純子 さく 2007年 瑞雲舎
『でてくる でてくる』 岩田明子 作・絵 2016年 ひかりのくに

③   歌・体を動かす  歌に合わせて絵本を読んだり、声に合わせて体を動かし心をほぐす。

*あなたは、どんな色が好きですか?大きな声で答えてね!
「🎵どんないろがすき?」と歌いながら問いかけ、クレヨンの色を見せると、思わずクレヨンの色を言いたくなります。歌も一緒に口ずさんでもらいましょう。

『どんないろがすき』 
100%ORANGE 作 2016年 
フレーベル館

『やまのおんがくか』 水田詩仙 訳詩 鈴木幸枝 絵 2014年 ひさかたチャイルド
『いっきょくいきまぁす』 長谷川義史 作 2005年 PHP研究所
『ようかいしりとり』 おくはらゆめ 作 2018年 こぐま社
『カ どこいった?』 鈴木のりたけ 作 2018年 小学館

④   クイズ・問いかけ 質問に答えたくなる絵本。さあ、考えて。答えは、なあに?                             
*さあ、ここには何が入っているのかな?ふたを開けてみるよ。「ぱっか」
蓋が上に開く仕掛け絵本。「ここからおいしいよかんがするよ。これはなにかな?」と問いかけます。そして、「じゃあ、一緒に開けてみましょう。せいの(ぱっか)」と開いていきましょう。

『ここからおいしいよかんがするよ』
たな ぶん・え 2021年 
パイインターナショナル

『くちばしだーれ?』 穂高順也 作 サトウマサナリ 絵 2020年 岩崎書店
『だれのほね?』 たけうちちひろ 作 2020年 出版ワークス
『ねえ どっちがすき?』 安江リエ ぶん 降矢奈々 え 2003年 福音館書店
『どっちかな?』 ママダミネコ さく 2010年 ひさかたチャイルド

駆け足で、アイスブレイク絵本を紹介させていただきました。みなさんの引き出しは広がりましたでしょうか?1冊でも使ってみたい、手に取ってみたいという絵本がみなさんの心に届いたら幸いです。
今回ご紹介できなかった絵本に、参加者の皆様からご紹介いただきました絵本を加えてブックリスト作成しました。絵本の特徴をみて、発表者の主観で種類分けをさせていただきましたが、使い方は自由です。いろいろな使い方を試していただき、また、皆様と共有できたらうれしく存じます。皆様のご協力で、森・増田の引き出しにも、たくさんのアイスブレイク絵本が増えました。ありがとうございます。ぜひ、「アイスブレイク絵本ブックリスト」も併せてご覧いただき、ご活用ください。


絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。



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