作詞の考え方 / 意味は後付けでいい

前記事にて「意味不明なフレーズをガンガン配置してなんか意味ありげにするのが一番楽しい」と書きましたが、今回はそこを掘り下げます。

最初は何も考えてない

オタクの考察に対して「作者はそこまで考えてないんじゃないかなあ」みたいなやつありますよね。
あれを僕の作詞当てはめて言うと、半分正解と言ったところです。

僕の場合は「書き始めは何も考えてない」というのが実情となります。

とにもかくにも語感、メロデイに対するフレーズのハマり方(前記事で言うところのパズル)を優先して書いているからです。もちろん書き手によって好みではあるでしょうが、意味よりもキャッチーさや耳触りを優先して書いた方が最終的にそれっぽい歌詞にまとまります。これはガチです。

テーマを最初に決めるとむしろ難しくなる

大事なのはまずとにもかくにも字を書くこと。恐れずにフレーズをはめ込んでみることが大事です。
テーマや伝えたいことを先に考えていたらいつまで経っても歌詞が書き上がらないことがしばしばあります。
「メロディに上手くはめ込まなければいけない」という縛りぐらいがちょうど良いのです。そこに「具体的なテーマ」なんてものを先に持ってきてしまうと、縛りが増えて難易度が上がりすぎてしまうんですね。
テーマを決めるんだとしたら最初は「明るい」「暗い」「やさしい」「かっこいい」とかそんぐらいで十分です。

僕も最初のうちは「こんな歌詞にしたい!」という具体的なテーマを先に設定して作詞していました。もちろんそれはそれでやり方はあります。
例えばテーマが「冬」だとしたら、雪、乾いた空気、透明、白、かじかむ、手袋、吐息、足跡、キャンドルetc…といった感じで、使えそうな単語を先に羅列しまくってから書き始める、というやり方とか。
ただまぁこれ問題があって、やり方としては確実に正しいんですけど書き始めるまで時間がかかる上に、テーマによっては凄いありきたりな歌詞になってしまうことがあります。はめ込んでいく最中は楽しいけど、気がついたらひねりのないストレートな歌詞になってるという。

メロディに対して綺麗にフレーズがのっていてキャッチーで、そしてテーマが明確であるにも関わらず比喩や暗喩が張り巡らされていて独特で・・・っていうのは難しすぎるので一回諦めましょう。僕も狙って書くのは無理です。

次項で話しますがテーマは途中で決めるのがおすすめです。

テーマは道中で決める

本題に戻りますが、じゃあ僕がどうしているかっていうと「意味を考えずにとりあえず書く」です。

「この部分のメロディに歌詞を入れよう」という感じで1フレーズの範囲を決めて、そこをひたすら鼻歌で歌います。もちろん脳内再生でもいいです。場所はどこでも良いですが曲の頭もしくはサビの頭をおすすめします。
で、何か浮かんだ言葉(綺麗にはまりそうな言葉)があったら一旦それを書いてしまいましょう。

おめでとうございます。歌詞が書けました。

あとは繰り返しでもいいし、最初に書いたフレーズの続きを想像してみる、でもいいです。とにかくできる限り語感を優先して歌詞を書いていきます。思いついたものをはめ込んでいきます。意味とかそんな、考えなくていいです。真面目かよお前。いいから書け。

こうして「意味を考えないで書き始める」わけですが、2~3行書けたところでなんとなくの全体の歌詞のイメージが固まり始めるはずです。

何故なら人間は最初から最後ま意味不明なことを書き続けることが難しいから。目の前にあるのが言語である以上必ず何かを関連づけようとしまう、要は「意味を見出そう」「意味のある文章を作ろう」としてしまうんです。最終的にはそれをさらにブチ壊すのも大事なのですが、その話はまた今度。

さて、なんとなく浮かんだイメージが気に入ったなら、それを頭の中に浮かべながら書き進めましょう。制作が進むごとにそのイメージはどんどん固まっていくはずです。
最初は何も考えず書き始めて、例えば曲頭から1サビまで書けたとしましょう。そこで一旦筆を置いて全体を見て、このタイミングでテーマを決めてしまうというのが個人的にはおすすめです。

ただしその先も細かい部分は一旦無視して、基本的には語感を優先してみてください。途中で決めたテーマに合いそうな単語を思いついたなら、それをメモっておいて入れられそうなタイミングで入れてみましょう。
そうして書き進めていくと、「ぱっと見何言ってるかわからんけど自分の中でテーマ性がある歌詞」が完成するはずです。

細かい部分は全部後付けで考えろ

さて歌詞が一旦完成したとしましょう。ここからが真の本題なわけですが、前項で話した通り、細かいところを見ていくと意味のわからんフレーズとかがあるはずです。語感を優先したので当たり前です。

その意味を途中で決めたテーマに合わせて後付けでドンドン考えていきましょう。

例を挙げると、僕が書いた楽曲に「サイネリア」という曲があります。
最初の一文がこれです。

水しぶきが凪いだ透明に 君の笑い声が重なりました

も〜全然意味がわかんないですね。「凪ぐ」ってそもそもこの形(〜が〜を凪ぐ)で使わんし。凪いだのに笑い声重なっとるし。この歌詞書いた時のことなんてさっぱり覚えてないですがほぼ間違いなく語感だけで言葉をチョイスしてますね。
この曲のテーマは最終的に「花」と「青」になっています。ではこれを前提に意味を考えてみます。

テーマの一つが「花」なので、まずは花がある場所を思い浮かべてみます。そうすると、この「水しぶき」が海水ではない、情景は海ではないと考えられます。じゃあせっかくなので花が咲いている場所、「庭」とかにしておきましょうか。庭にある水源、じゃあホースにしましょう。とはいえホースから出ている水を「水しぶき」とは言いませんから、ホースから出た水が何かに当たっていることにします。「君」とあるのでその場には二人いると思っていいでしょう。ではホースから出た水がどちらかの顔だかどこかに当たってしぶきが舞ったことにします。「水しぶき」によって「凪いだ」わけですから、水が顔に当たった瞬間は静かなはずです。でもそのあとに「君の笑い声が重なりました」とあります。

結果として、

水しぶきが凪いだ透明に 君の笑い声が重なりました

という歌詞は、

庭の花を見つめていた。
振り返った瞬間、ホースから放たれた水が顔に当たり、水飛沫が舞った。
状況を飲み込めず一瞬きょとんとしてしまったが、ひとまず顔を拭って目の前を見ると、ホースを持った彼女(彼)がくつくつと笑いを堪えている。
そして耐えきれなくなったようで、庭に彼女(彼)の笑い声が響いた。

・・・といった情景を想像できます。

いかがでしょう。

この情景を「水しぶきが〜」の歌詞に変換するのは難しいですが、後付けで歌詞をこの情景に変換するのはそう難しくないのです。要は自分が書いた歌詞に対して自分で考察をしているだけなので。

先に言っておきますが、説明する機会が無いならこれらの後付けはただの自己満足でしか無いです。
しかし意味を後付けで考えようとした時に、どうしてもテーマや伝えたいこととずれてしまう部分があれば、そこを優先的に書き直してみるとさらに歌詞が(自分の中で)まとまっていきます。

また、意味を後付けする必要が無い歌詞が多くある場合はストレートすぎる(=詩的でない)可能性があるので、そこを直すというのもいいでしょう。

ついで言うと後付けで決めた歌詞の意味を説明する機会があるならオナニーとしては最高です(もちろん後付けしたことは伏せるものとする)。

「意味」を後付けすることの「意味」

まとめです。

繰り返しですが、目の前の曲を完成させるためなら歌詞の意味なんざ後付けで全く問題ありません。
なんなら意味不明のまま放置しておくのもまた一興でしょう。僕が今まで書いた歌詞の中にも自分ですらさっぱり意味不明なものが多数あります。
ただ、「後付け」の作業を行なっておくと、

・あとで人にドヤ顔で説明できる
・自分の中でテーマがより明確になる
・後付けできない部分を直すと歌詞のまとまりが出る
・誰かにボーカルとして歌唱してもらう際にイメージを伝えやすい(普通に大事)

といったメリットがあると僕は考えています。
そして何より最初から意味を考えて書くより書き始めは早くなりますし個人的には難易度が低いですし、語感を優先して作業するという前提があるので歌としてキャッチーで良いものになる気がしています。

ただ最初からテーマが明確でメロディに対して綺麗にフレーズがのっていてキャッチーな歌詞が書けるならそれに越したことは無いことは一応申し上げておきます。

また次回。


追記:こちらの記事でも語感についてフォーカスされています。


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