WISHING 12/24/22 インフルエンザの大流行によってコロナが駆逐される可能性 Corona may be eradicated by influenza pandemic (*1)
便を全て洗い流すと、元の腸内細菌叢に戻るのに1週間以上かかる。便移植における腸内細菌叢の定着には8週間を要する (1134)。
シアトルインフルエンザ研究(米国ワシントン州シアトルの地域呼吸器ウイルス監視コンソーシアム)は、パンデミック前後の呼吸器ウイルスの流行状況を教えてくれる(図)(1135)。(*2)
2020年3月から6月にかけての前例のない世界一斉ロックダウンと、マスクや社会的距離を置くというパンデミック対策によって、SARS-CoV-2以外の全ての呼吸器ウイルスの地域循環が一掃されたが、ようやくウイルスの循環量はパンデミック前に近づきつつある。
パンデミック対策の副産物として、子供も大人も、2年間免疫防御を構築したり強化する機会を逃してきた。この免疫ギャップによって、集団レベルでの感染感受性の蓄積が生じている。そのため、米国では、2022年に入りRSウイルスが急増し、11月以降小児の入院率は最高レベルに達し、高齢者の入院率も急増している。インフルエンザは予定より6週間早く10月に流行開始し、すでに少なくとも15万人の入院と9,300人の死亡を引き起こしている。累積入院患者数は、この時期としては過去10年以上ぶりの高水準になっている (1136)。東京でも、2003年にRSVサーベイランスが確立されて以来、2021年はRSウイルス患者数が最も増加した (1137)。
シアトルインフルエンザ研究データにおける最も重要な観察結果は、SARS-CoV-2の導入に逆相関して消えてしまったRSウイルスとインフルエンザウイルスという免疫反応の強いウイルスが、今年の春以降復活するに従い、10月以降SARS-CoV-2のシェアが顕著に低下していることである (図)。
複数の呼吸器ウイルスが同時または順次、呼吸器に感染すると、ウイルス-ウイルス相互作用を引き起こす可能性がある。第一のウイルスによる感染は、第二のウイルスの感染および複製を増強または減少させ、正の(相加的または相乗的)または負の(拮抗的)相互作用をもたらす可能性がある。ウイルス干渉と呼ばれている現象である。
この概念は、細胞レベル、宿主レベル、集団レベルで実証されている。あるウイルスに感染すると、幅広い自然免疫反応とインターフェロンの放出が促され、その後の呼吸器系ウイルス感染が抑制される可能性がある。ウイルスが資源をめぐって競争したり、あるウイルスが宿主へのウイルス侵入に必要な細胞内受容体のダウンレギュレーションを促進する。これらの効果は、二次感染の抑制または遅延、あるいはその後の感染に関連する重症化リスクの低減につながる (1138)。
人類全体の細胞10の23乗個の駒の取り合いであるオセロゲームの盤上から、市中循環していたほとんどの呼吸器ウイルスが2020年に一旦姿を消し、その後、SARS-CoV-2を仲間入りさせてウイルス同士のゲームが再開された。
季節性呼吸器ウイルスの循環が再開した今は、SARS-CoV-2とのウイルス干渉を研究する絶好の機会になっている。
ハムスターにインフルエンザウイルスの後にSARS-CoV-2を連続感染させると、肺のSARS-CoV-2負荷が低下し、SARS-CoV-2の複製が減少することが示唆されているが、インフルエンザのSARS-CoV-2に対する拮抗作用が明らかになっているわけではない (1138)。
しかし、人類のSARS-CoV-2に対する免疫は日々累積しつつある一方で、インフルエンザに対する免疫ギャップは大きいままである。SARS-CoV-2の居場所が制限されつつあるのに反して、インフルエンザの居場所は十分に確保されている。
RSウイルスとインフルエンザウイルスは完全に拮抗する。これから数か月間のうちにコロナの勢いが低下していき、その間に、RSウイルスに代わってインフルエンザの大流行が起きることによって、SARS-CoV-2をさらに駆逐してしまう可能性がある (1138)。
*1: 必要なのは、半年先の見通しである。世界はありえそうにないことが起こるのが常である。2023年に起こりうる出来事の一つとして捉えてほしい。【07/21/22】
*2: コロナの未来は、進化的選択圧によって決まる。それは、コロナを囲む多くの要因、すなわち、宿主であるヒトの免疫やコロナ以外のウイルスや細菌などからなる広範囲の病原体からの影響などである。少なくとも、コロナ以外の呼吸器ウイルスによる選択圧を考慮しなければ、コロナの動向だけを追っても、今後を予測することはできない。
(以下、おまけ)
ライノウイルス、呼吸器エンテロウイルス、アデノウイルスといった非エンベロープウイルス (*3)は、ロックダウン直後こそ減少したが、パンデミック対策の継続にもかかわらず、環境表面への長期残存力、宿主からの長期間の排出、ゲノム多様性および共流行する株数という特性によって、他の呼吸器系ウイルスが抑制され続けているにもかかわらず、パンデミック期間中も顕著な持続性を示し、保育や学校活動が徐々に再開されるとすぐにパンデミック前と同じレベルの地域循環と季節性を回復させた (図)。
さらに、ライノウイルスおよび呼吸器エンテロウイルスの流行によってSARS-CoV-2を抑えるウイルス干渉が起こっていることが明らかになった。パンデミックの間、年中鼻水まみれの保育所の0〜1歳児クラスで、コロナのクラスターが発生しなかったという園医の観察結果と完全に符合する(*4)。
*3: エンベロープウイルスは表面が細胞と同じような脂肪の膜で覆われている。非エンベロープウイルスにはそれがないため、アルコール消毒は無効である。またマスクも無効であることが知られている。
*4: 実験で、ライノウイルスによる SARS-CoV-2 の複製阻害は起きるが、その逆は検出されていない。
一方、ウイルスエンベロープを持つ、季節性ヒトコロナウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスというパラミクソウイルスは、完全に学校が再開されて初めて再流行することができた。ただし、4種の季節性ヒトコロナウイルスのゲノム多様性はパンデミック前後で変わっていなかった。
2020年12月までの呼吸器感染による救急外来受診及び入院の原因ウイルスは、非エンベロープ型のライノウイルスや呼吸器エンテロウイルス、アデノウイルス、ヒトボカウイルスであった。エンベロープウイルス数の減少によって生じたニッチをライノウイルス感染が埋めるという日和見的変化が起きていた可能性がある。
呼吸器系ウイルスの特徴は、感染症に対する集団免疫の蓄積にもかかわらず、地域循環を続けることである。呼吸器系ウイルスの免疫回避には進化が重要であり、多様なウイルス遺伝子プールからの遺伝子変異によって促進される。
特に、エンベロープウイルスかつ、元々遺伝的多様性レベルの低いRSウイルスやインフルエンザウイルスにとって、呼吸器ウイルス感染症の急激な減少は、進化のボトルネックが生じることであった。これは各ウイルスの遺伝子多様性に影響を与えることになった。
流行前つまりベースラインの遺伝子多様性とウイルス固有の特性の両方が、非薬物的介入というパンデミック対策に関連する選択圧に抵抗するウイルスの能力に影響を与えた。例えばオーストラリアにおけるRSウイルスは、A型とB型の両方の亜型が同じような流行率で頻繁に循環し、SARS-CoV-2が出現する以前は、RSVのゲノムの多様性がオーストラリア国内外の感染源によって維持されていた。しかし、パンデミック発生後は、RSV-Aが優位になるという変化が起こった。
RSウイルス(RSV)の循環レベルが低下すると、集団のRSウイルス抗体価が低下し、その結果、妊娠中に乳児に移行する母体抗体のレベルが低下する。このため、母体由来の抗体価が低い出生コホートは、例年よりRSVの循環量が多い時期に、初めてのRSVシーズンを経験することになる。これは、重症化から身を守るための中和抗体価の低下と同時に、感染リスクの上昇を招く。さらに、RSVの初感染を経験する年長児も存在することになった。
インフルエンザウイルスの集団レベルの免疫は、過去の感染やワクチン接種によって発達する。インフルエンザウイルスの循環レベルの低下、ワクチン接種率の低下、抗原ドリフト(ウイルス複製のエラーに伴うウイルスゲノムの小さな変化)により、感染の可能性が高まり、ウイルスの複製が増加、変異の機会が増えて新しい変異型の出現につながる可能性がある。感染免疫の低下により、インフルエンザウイルスのゲノム多様性が限定的であるにもかかわらず、高い感染攻撃率を示す可能性がある。
呼吸器ウイルスの進化は、多様な遺伝子プールの維持に依存しているが、パンデミック時の患者数減少つまり地域感染負荷の減少がもたらした遺伝子ボトルネックによって、インフルエンザウイルスを含むいくつかの呼吸器ウイルスの遺伝子多様性が減少した。パンデミック時に起きた注目すべき進化的変化は、インフルエンザB/山形株が絶滅した可能性が高いことである。2020年3月以降、検出が確認されていない (1137)。
When all stool is flushed out, it takes more than a week to return to the original gut microbiota. Establishment of the gut microbiota in stool transplants takes eight weeks (1134).
The Seattle Influenza Study (a regional respiratory virus surveillance consortium in Seattle, WA, USA) tells us about the prevalence of respiratory viruses before and after a pandemic (Figure) (1135). (*2)
The unprecedented global lockdown from March to June 2020 and the pandemic countermeasures of masking and social distancing have wiped out regional circulation of all respiratory viruses except SARS-CoV-2, but the amount of virus circulation is finally approaching pre-pandemic levels.
As a byproduct of pandemic preparedness, both children and adults have missed the opportunity to build or strengthen their immune defenses for two years. This immune gap has resulted in an accumulation of infection susceptibility at the population level. As a result, RS viruses have surged in the U.S. since the beginning of 2022, with hospitalization rates for children reaching their highest levels since November, and hospitalization rates for the elderly also increasing rapidly. The influenza pandemic began in October, six weeks ahead of schedule, and has already caused at least 150,000 hospitalizations and 9,300 deaths. Cumulative hospitalizations are at the highest level for this time of year in more than a decade (1136). Tokyo also experienced the highest increase in RSV cases in 2021 since RSV surveillance was established in 2003 (1137).
The most important observation in the Seattle Influenza Study data is that the share of SARS-CoV-2 has been declining markedly since October as RS virus and influenza virus, two viruses with strong immune responses that disappeared in inverse correlation with the introduction of SARS-CoV-2, have returned since this spring. The SARS-CoV-2 market share has been declining significantly since October (Figure).
When multiple respiratory viruses infect the respiratory tract, either simultaneously or sequentially, they can cause virus-virus interactions. Infection by the first virus may enhance or reduce the infection and replication of the second virus, resulting in a positive (additive or synergistic) or negative (antagonistic) interaction. This phenomenon is known as viral interference.
This concept has been demonstrated at the cellular, host, and population levels. Infection with a given virus may stimulate a broad innate immune response and the release of interferons, which may suppress subsequent respiratory viral infections. Viruses compete for resources or one virus promotes downregulation of intracellular receptors necessary for viral entry into the host. These effects can suppress or delay secondary infections or reduce the risk of severe illness associated with subsequent infections (1138).
Most respiratory viruses that had been circulating in the marketplace disappeared from the board of the Othello game, a contest for the 23rd power of the 10 cells of the entire human population, once in 2020, and then the game resumed between viruses with the addition of SARS-CoV-2 to the mix.
Now that seasonal respiratory viruses are back in circulation, this is an excellent time to study viral interference with SARS-CoV-2.
It has been suggested that continuous infection of hamsters with influenza virus followed by SARS-CoV-2 reduces the SARS-CoV-2 load in the lungs and decreases SARS-CoV-2 replication, but the antagonistic effect of influenza on SARS-CoV-2 is not clear (1138).
However, while human immunity to SARS-CoV-2 is accumulating daily, the immunity gap against influenza remains large; while SARS-CoV-2's place is becoming more restricted, influenza's place is well secured.
RS viruses and influenza viruses are completely antagonistic. The momentum of the coronas will decline in the coming months, during which time an influenza pandemic will replace the RS virus, potentially further eradicating SARS-CoV-2 (1138).
*1: The task of the experts is to recapitulate data that were already clear six months ago that the fatality rate of coronas was lower than that of influenza, but the demand in the frontline field is analytic future prospects.【07/12/22】
*2: The future of the corona depends on evolutionary selection pressures. It is influenced by a number of factors surrounding the corona, namely host human immunity and a wide range of pathogens consisting of viruses and bacteria other than the corona. At the very least, one cannot predict the future by following coronal trends alone without taking into account the selection pressure from respiratory viruses other than the corona.
(See below.)
Non-enveloped viruses such as rhinoviruses, respiratory enteroviruses, and adenoviruses (*3) have declined immediately after lockdown, but despite continued pandemic preparedness, their characteristics of long-term persistence on environmental surfaces, long-term shedding from the host, genomic diversity, and number of strains co-prevalent Despite the continued suppression of other respiratory viruses, the virus showed remarkable persistence throughout the pandemic period, restoring regional circulation and seasonality to pre-pandemic levels as soon as childcare and school activities gradually resumed (Figure).
Furthermore, it was evident that viral interference suppressing SARS-CoV-2 occurred due to the rhinovirus and respiratory enterovirus epidemics. This is in perfect agreement with the preschool physician's observation that no clusters of coronas occurred in the 0-1 year old class of the nursery school, which was covered with runny nose all year round during the pandemic (*4).
*3: Enveloped viruses have a surface covered with a fatty membrane similar to that of cells. Non-enveloped viruses do not have such a membrane, so alcohol disinfection is ineffective. Masks are also known to be ineffective.
*4: Experimental inhibition of SARS-CoV-2 replication by rhinovirus occurs, but the reverse has not been detected.
On the other hand, the paramyxoviruses with viral envelopes, seasonal human coronavirus, human parainfluenza virus, and human metapneumovirus, were able to re-emerge only when school was completely reopened. However, the genomic diversity of the four seasonal human coronaviruses was unchanged before and after the pandemic.
Until December 2020, the causative viruses for emergency room visits and hospitalizations due to respiratory infections were non-enveloped rhinoviruses, respiratory enteroviruses, adenoviruses, and human bocaviruses. It is possible that opportunistic changes were occurring, with rhinovirus infection filling the niche created by the decline in the number of enveloped viruses.
A characteristic feature of respiratory viruses is that they continue to circulate in the region despite the accumulation of population immunity to infection. Evolution is important for immune evasion of respiratory viruses and is facilitated by genetic variation from diverse viral gene pools.
In particular, for the enveloped and originally low genetic diversity levels of RS and influenza viruses, the rapid decline in respiratory virus infections was the result of an evolutionary bottleneck. This in turn affected the genetic diversity of each virus.
Both pre-epidemic, or baseline, genetic diversity and virus-specific characteristics affected the ability of the virus to resist the selection pressures associated with pandemic control measures of non-drug interventions. For example, RS viruses in Australia frequently circulated both A and B subtypes at similar epidemic rates, and prior to the emergence of SARS-CoV-2, RSV genomic diversity was maintained by both Australian and international sources of infection. However, after the outbreak of the pandemic, a change occurred, with RSV-A becoming predominant.
As circulating levels of RSV (RSV) decrease, RSV antibody titers in the population decrease, resulting in lower levels of maternal antibodies that are transferred to the infant during pregnancy. Thus, birth cohorts with low maternal antibody titers will experience their first RSV season at a time when RSV circulation is higher than in previous years. This leads to an increased risk of infection as well as lower neutralizing antibody titers to protect against severe disease. In addition, there will be older children who will experience their first RSV infection.
Population-level immunity to influenza viruses develops through previous infection and vaccination. Lower circulating levels of influenza viruses, lower vaccination rates, and antigenic drift (small changes in the viral genome associated with errors in viral replication) increase the likelihood of infection, increase viral replication, and increase opportunities for mutation, which may lead to the emergence of new variant forms. Reduced infectious immunity may lead to high infection attack rates despite the limited genomic diversity of influenza viruses.
Although the evolution of respiratory viruses depends on the maintenance of a diverse gene pool, the genetic bottleneck created by the reduction in the number of patients during the pandemic, i.e., the reduction in the local infectious burden, reduced the genetic diversity of several respiratory viruses, including influenza viruses. A notable evolutionary change that occurred during the pandemic was the likely extinction of the influenza B/Yamagata strain, which has not been detected since March 2020 (1137).
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