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地域資源の発掘・利活用と向き合うこと

気がついたら『実践から学ぶ地方創生と地域金融』が発売から1ヶ月弱が過ぎていました。おかげさまで雑誌や専門誌などで書評をいただき、比較的専門的な内容でありながら、幅広い人たちに読んでいただいているようです。

いわゆるな金融本ではなく、テーマでもある地方創生を主軸としつつ、企業、地域金融機関、そして行政という様々なセクターを超えた連帯をつくり出すことにより、地域経済を生み出す仕掛けについて、事例をもとに分析していくのが本書の目的です。

そのため、様々な立場の人たちに読んでいただきつつも、特に地域金融機関という機能が持つべき存在に目を向け、経済、地域に対してインパクトを生み出す地域基盤をつくり出すためのヒントとなることを目指しました。ぜひ、お読みいただいた方は感想を教えてください。

今回は、本書の中身について少し解説や補足をしてみたいと思います。

地域資源を付加価値とするために必要な視点と多様性

最初は、プロジェクト紹介 Scene1の「地域資源を発掘・活用する」についてです。本書では「耕作放棄地」や「」「空き家」といった、地域課題をを地域資源として活かした3つの事例を中心に解説をしています。

地域資源とは、その地域内にある特徴的なものであり、資源として活用できるあらゆるものを指します。耕作放棄地や風、空き家、他にも山、川などの自然資源は、広く捉えれば観光資源となれるようなものもあります。また、建築物や土地、技術、といった目に見えるものから、風習、文化という目に見えないものまで、あらゆるものが地域資源と呼べます。

2,000年代後半、地域の人口減少や高齢化などが進む中で、地域固有の文化や技術、建物などの様々な地域資源に着目し、新たな地域づくりや社会のあり方を考えようとする動きが活発化しています。

それまで、地域課題や地域内で活かすのが難しいとされてきたこれらの資源を、いかに活用できるのか。

とはいえ、いきなり「地域資源」と言われても、何が「資源」となるかをきちんと分析できるかというとなかなか難しいものがあります。時には、地域住民自身がその資源について、あまりにも当たり前なものと捉えすぎていて、「資源」として活かせるものだと認識していないこともしばしばあります。

事例でもでてくる自然現象も「風」もその一つかもしれません。「灯台下暗し」ではないですが、当たり前に身近にありすぎて、その特徴や個性をきちんと捉えることができなかったりします。

では、どうやって地域資源を見出すか。以前、街歩きの手法でDigDig Cityという企画を彦根で展開したときには、街歩きをするチームを、地元の人、近隣近県の人、遠方の人と立場の違う人たちをチーム内にまとめ、街歩きを行いました。立場が違えば持っている知識や経験も違えれば、地域を見る目線や捉え方も変わってきます。地元の人にとって当たり前だったことも、立場が違えば新鮮な驚きや気づきを与えることは多々あります。

地域資源の見出し方、発掘の仕方そのものにもデザイン性が問われてきます。地域を面白くする人材としてしばしば挙げられる「よそもの、わかもの、ばかもの」という言葉があります。これは、いわば地域外から地域を見つけ、改めて地域に内在する資源や価値を発掘するための存在がこうした言葉が生まれる背景にあるといえます。



しかし、こうした地域資源を見出す視点があったとしても、それらが地域内で活用できるための基盤や仕組みがなければ意味はありません。地域内における持続的な事業としての仕組み作りには、個人レベルではなく、行政や地域に根付いて活動している組織(商工会議所等)、そして地域金融機関らなどが存在感を発揮します。

活動から事業として、そして持続的な地域経済を生み出すためには、幅広いセクターとの連携を通じて、地域全体において、地域課題と地域資源を組み合わせ、新たな価値創造をつくり出す環境を構築しなくてはいけません。そうしなければ、新たな価値を生み出すエコシステムが生まれないまま、次第に、地域資源が目減りし、地域が枯渇してしまいます。

コミュニティキャピタルの理論でも、緩やかな紐帯のなかにおいて、コミュニティに関わる人を「現状利用型」「動き回り型」「ジャンプ型」「自立型」の4分類に類型しながら、そのバランスと多様性を活かすことによって、コミュニティの持続可能性が高まるということを分析しています。コミュニティにおける多様な立場を内包しながら、互いの立場や役割を理解しながら、地域をより良いものにしていくための知恵や活動を創出することが求められてきます。

以前、HAGISOを運営している宮崎さんと話をしてたときに、ぽんとでた「『負荷価値』を『付加価値』にすること」という表現は、まさに地域資源の活かし方を表現している言葉ではないでしょうか。地域にとって負荷(価値)となっているものをいかにして付加(価値)にするか。そこにこそ、デザインやイノベーションの源泉が隠されています。

地域課題と第二創業を組み合わせた地場産業の創出

本書では、これら地域資源を活かすスキームや取り組みをご紹介しています。

例えば、秋田の田舎ベンチャービジネス倶楽部は、一般的なビジネス倶楽部と違い、「第二創業」を主としたものに限っているのがポイントといえます。

第二創業とは、業態転換や新事業、新分野に進出することを指します。多くが、既存事業や既存組織で培ったノウハウや技術などを活かし、新たな分野や横展開をし新しく会社を創業することが多いです。本書も、建設関係の会社らが新たに「にんにく栽培」や「どじょうの養殖」といった新事業をスタートさせています。

その新事業において、「耕作放棄地」という地域課題をある種の地域資源と捉え、耕作放棄地を活かしたビジネスを生み出そうと取り組んだ過程をまとめています。

もちろん、第二創業といえ、新たな分野や業態であればノウハウなどは不足するもの。それらを信用組合のネットワークを活かして、他地域の信用組合の取引先の連携やノウハウを共有させてもらうなどの動きが活発に行われています。また、信用組合の職員自らが手と足を動かし、ともに汗をかく姿など、超地域密着な関係性も特徴の一つといえます。

そして、一社だけでなく複数社を集め、生産協議会をたちまち設立することによって、地元の生産者同士の連帯によるノウハウの共有を促進させるなど、生産基盤を強固にするための動きを信用組合が推進しています。

こうして生まれた新たな地域ビジネスに対して、行政も積極的にバックアップしています。秋田県のメガ団地構想にニンニク栽培が採択されるなど、秋田県を挙げて地元の産地化を後押ししています。

企業、金融、行政というそれぞれのレイヤーが持つ役割を踏まえ、産地化、地域経済の循環を生み出しているといえます。

再エネと地域経済循環の二つを地域の柱に

二つ目の事例である「風」は、地場企業らが中心となって「風力発電」を設置し、地元に風力発電産業をつくり出そうと取り組んでいるものです。

「風」という地域資源を活用し、エネルギーを自分たちで発電することは、地域経済の大きな柱となります。また、環境問題や地球全体の持続性を考えたときにも、再生可能エネルギーへのシフトは大きな課題であり、社会全体の再エネシフトに向けた取り組みとしても意義あるプロジェクトといえます。

風力発電は、1基を作るのに数万という部品が必要とされていて、これらを地元で調達することによって一大産業が地域に生まれます。多くの風力発電が大手企業や外資企業の設置のため、地域の町工場などへ部品などが発注されていないという大きな課題を抱えていました。地域経済という観点で見たとき、いわゆる「漏れバケツ理論」をもとに考えると理解しやすいかもしれません。

「漏れバケツ理論」とは、地域経済を一つのバケツとして見たとき、入ってくる水の量と、出て行く水の量のバランスを考えながら、いかにしてバケツの中の水(地域経済)を多くするかを考えるための一つの見立てです。

入ってくるお金を増やすには、例えばインバウンドを強化するとか公的資金の投入によるインフラ整備など様々なあります。しかし、どんなに大きなお金を獲得するようにしても、地域の外にお金が大量に放出してしまっては、地域経済が潤いません。

単価の安い海外の工場へ部品を発注することは、ビジネス単体で考えると合理的かもしれませんが、地域経済の観点で見たときには、地域内の工場を仕入れ先として発注することによって、地域経済にとっては何倍も経済効果が生まれ、結果として地域全体の経済循環が豊かになります。

また、いきなり風力発電の装置を作ることはできません。初期投資など様々な資金が必要となります。その資金を調達するため、プロジェクトファイナンスという手法を活用し、地元地銀である北都銀行が主体となって動いたことにより、このプロジェクトが大きく動き出しました。折しも、固定価格買い取り制度(FIT)がスタートしたことも相まり、自然エネルギーを自分たちで生み出すことへの機運の高まりとともに、秋田の「風作戦」が形になってきたのです。

再生可能エネルギーへのシフトとともに地域経済をきちんと循環させる仕組み作りを生み出すという二つの価値創造が、秋田から生まれつつあると言えます。

「漏れバケツ理論」などについては、枝廣淳子さんの『地域経済を創りなおす』にて詳しく書かれていますので、こちらも併せてぜひご覧ください。

地域の文化資源を活かすための街並み再生に向けて

三つ目は、全国的にも課題となっている「空き家」を活用し、地域の街並み再生に取り組む事例です。

昨今、様々なところで空き家活用のプロジェクトや動きが活発化しています。その背景には担い手不足、家主やオーナーの高齢化などが挙げられます。空き家が年々増加傾向にあることは、本書のコラムにてまとめています。

空き家増加の課題から、多くの地域で空き家再生のプロジェクトが立ち上がっていますが、そこに金融的なスキームはまだあまり多くありません。空き家のリノベーションに助成金を出す制度を行政が設けていることもありますが、申請ベースであり、率先して空き家を再生することを主体的に活動しているかというと難しい面もあります。

建物単体だけでなく、かつて城下町だった武家屋敷が建ち並ぶ地域、下町の風景残る街並みなど、歴史的背景による一定の街並みがある種の地域資源として評価されています。古民家として現存しているという価値とともに、その古民家が建ち並ぶことによって地域の文化や歴史が積み重なっている、いわば建物と街並みは相互に補完しあって成り立っているといえます。

そのため、古民家単体の改修にとどまらず、エリアマネジメント全体との連携も重要です。しかし、なかなかエリア全体をみながら、同時に古民家再生、空き家再生を行うことの難しさがあります。けれども、年々空き家が増加してくるなか、何も手を打たなければ地域資源が次第に失われてしまいます。気がついたら、マンションや駐車場だけになってしまい、結果として、地域そのものの価値が低下し、それこそ、不動産価値そのものにも結果的に影響してくることもあります。だからこそ、適切なバランスのなかで町の地域資源、文化資源である古民家再生、街並み再生に取り組むことの意義があるのです。

そうした課題を支える制度として生まれたものの一つが「まちづくりファンド」といえます。単純な古民家再生支援にとどまらず、エリアマネジメントを主導する団体や組織と地域金融機関が連動しながら、古民家を活用した事業に対してファンドによる資金調達を支援し、古民家の利活用や地域一帯の街歩き再生を促す仕組みです。

当該古民家の発掘や、具体的な事業については、エリアマネジメント団体によるサポートや、エリアマネジメントの活動の一環の中から生まれた事業を展開するのに活かされています。まちづくりファンドは年々各地で組成されており、各地域の個性や特色を活かしながら、ファンドの目的や資金規模、ファンドの出資先などが規定されています。

地域に密着する地域金融機関が地元のエリアマネジメントを推進する団体と連携しながら、地域の未来をより良いものにするためのファンド運営は、これまでの利益重視のファンドとは違う、ある種のインパクト投資に近い活用方法と言えるかもしれません。

事実、ファンドの利回りもあまり大きくはないのがほとんどで、エコノミーインパクトだけでなく、ソーシャルインパクト(ここでは特にローカルインパクト、地域経済、地域資源インパクトのようなもの)を重視してファンドを運営していこうとする考えが盛り込まれています。

古民家が適切な形で活かされ、新たな地域の姿を生み出す原動力となる。そのための柱として、エリアマネジメントを基盤に置きながら古民家再生をしていくことによって、地域そのものの次なるあり方が見えてきそうです。

地域経済を生み出すコレクティブインパクト創出に向けて

地域資源の発掘や利活用というテーマにおいて、地域金融機関が果たす役割や存在価値が大きいことがこれら3つの事例からも伺うことができます。

そして、その背景にある地域課題をいかに解消し、さらに、解決だけにとどまらない新たな価値創造をつくり出すか。そのための知恵とノウハウと多様な人的ネットワーク、そして、それぞれの立場や役割に応じた活動を展開していくこと。地域経済を生み出すコレクティブインパクトの形は、本書全体に通底するポイントです。

各事例の詳細は、ぜひ本書をご覧くださいませ。


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江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi

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編集者、ジャーナリスト、プロデューサー。編集デザインファームTOKYObeta代表。著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』 『孤立する都市、つながる街』『日本のシビックエコノミー』等。 https://eguchishintaro.jp