さっこ

松岡咲子──【sad】出演者インタビュー②

12月14日(金)にロームシアター京都にて幕が上がる、ブルーエゴナク新作公演『sad』。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム‘’KIPPU”の記念すべき第1弾である今作に出演する8人の俳優に、創作過程や今作の魅力についての話を聞いた。

1、「sad」の印象について
イヤホンやヘッドフォンで音楽を聴いている感じです。シャッフル再生してる感じ。自身で操作せずに一人ぼっちで流れてくる音楽を聞いている時間。曲を聞き流す(聞き流れる)こともあれば、急に全てを割り込んで心の奥に侵入してくることもある。すごい勢いで侵入してきたかと思ったら、頭の中には忘れていた記憶が投影されたりする。そんな感じです。

つまりそのくらい、気軽に入って、しっかり得られるというか。

2、自分の役について<江本静枝>
「sad」は、個人的な記憶を立ち上げているだけの作品ともいえると思うんですけど、静枝さんは、記憶がやや曖昧らしい。人って「わたし」であるためには、多くの記憶を必要としますよね。生まれた日・場所とか、育ててくれた家族とか、友達との遊びとか、そういう自分以外のものによって今の「わたし」はできている。「わたし」を形成する記憶が曖昧であるってことは、「わたし」が曖昧ってことになる。でも孫がいてくれるおかげで、思い出せる記憶がある。たとえ孫が自分の孫だとわからなくても、彼と歩くだけで、風景とか虫とか、思い出せる記憶がある。他人の存在によって、「わたし」を認識できている静枝さんは、人生の何かを悲しいと感じることがあっても、決して自分のことを不幸だとは思っていないような気がします。

3、創作過程について
みんなでつくってますね。協同している感じがあるので、楽しいです。嬉しいです。どこの場でも、なるべくそうありたいし。メンバーがみんなバランスのいい人なのかもしれません。私はバランス良くないですけど。みんなありがとう。モノローグが異常に多いからか、他人のモノローグ稽古のときは、応援する気持ちで居てます笑。

個人的には、とにかくセリフを吐いてみる、とにかく体を動かしてみる、それらを繰り返して、自分への影響について敏感に拾い続けて演技として確定させていくことをもっとやりたいなあと稽古している最近です。そのくらい稽古場で生まれるものが興味深い。

4、作・演出 穴迫信一について
誠実にものづくりをする方だなあと思います。目の前にいる人をよく見ているし、どこかで見たかっこいいではなく、誰かのかっこいいでもなく、自身のかっこいいを持っている。目の前の人を尊重しているがゆえに、創作過程においても余白をしっかり存在させていて、作品を一緒につくっている私達が自由に泳げる海をなくさないでいてくれています。だから楽しい。

あと結構、穏やかな方だなあと思うのだけど、あってますかね?創作現場での彼のバランスの良さは、共に過ごしていて私もそうありたいな~と思うことばかりです。

聴覚と視覚と嗅覚が鋭いのか、味覚が適当なのかもしれません。稽古も大詰め、脳にいい成分が入っているからといって、ラムネと豆乳を演出席の机の上にいつも置いてはります。その組み合わせは、結構厳しいものがある。いやほっといてって話ですけど笑。健康でいてほしいです。

あと稽古見ながら、音楽にあわせて指揮者のような身振りをする様子が、私の演劇をはじめたきっかけとなった先生(もう亡くなったおじいちゃん先生でした)にそっくりで感慨深いです。

5、「sad」の見所・魅力について
人は自分を守るために忘れていくことがあります。
悲しいことは、やっぱりなるべく経験したくないし、生きることに支障がでるほど悲しみを存在させたくはない。誰だってそうだと思います。

「sad」の創作を通じて、悲しみを、幸せに生きるための記憶にする方法は、その悲しみを【全体にすること/他者と共有すること】、その悲しみに【耳を傾けること/向き合うこと】だと感じるようになりました。悲しみも、「わたし」を「わたし」たらしめる大切な記憶だから。

例えが正しいかどうかわかりませんが、複数人で1つの冷蔵庫を使えば、節約もできたり環境によかったり、冷蔵庫に入っている1つのおかずを一緒に食べたり、誰かと誰かの食材を合わせて料理したり、なんかいろいろコミュニケーションも生まれたり、幸せですよね。

冷蔵庫と悲しみを同じにして言いたいわけではなく、個人主義といわれる現代において、なんかいろいろ共有していくと、全体で見ても、個で見ても、豊かで幸せになるんじゃないかなと思うのです。

だからやっぱり、お客さんにも、何かを思い出してもらえる時間、今そこに存在している「あなた」と「わたし」に向き合える時間、それらを肯定する時間にしたい。ブルーエゴナク新作《sad》の登場人物は、日常ではありえない具合に、なんだか悲しそうな記憶について、爽快に、愉快に、揚々と語ります。目の前で立ち上がる幸せな悲しさに、じっと目を向け、耳を傾けてもらえたら、とっても嬉しいです。

松岡咲子 ー江本静枝(エモトシズエ)ー
1991年三重県生まれ。京都の劇団、ドキドキぼーいず所属。
舞台俳優として創作活動をする傍ら、小中学校、支援学校、企業、医療・福祉施設など、様々なフィールドでの演劇ワークショップの進行役(講師)として従事。現在は演劇だけでなく、音楽や映画づくりのワークショップにも携わっている。
大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻・助手。
最近気に入っているモノは「girls be poetic&dirty」って書かれたブローチ。

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ブルーエゴナク「sad」
2018.12/14(金)~16(日) ロームシアター京都ノースホール
▼特設WEBサイト


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