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向日葵



向日葵 (ヒマワリ)



キク目、キク科、ヒマワリ属の植物。
メキシコやアメリカを原産とするもので、この種
もとても美味しい。小学校の時には鳥の餌として
売られていた向日葵の種。飼っていた鳥と一緒に
パリポリと食べながら「美味しいね」と話かけて
ペットと同じものを食べる幸せな時間を私はこの
セキセイインコと共に楽しんだのである。





向日葵というと、私には実はもの凄く耐え抜いた
エピソードがある。死ぬ程に耐え抜いた経験でも
あるのだ。



会社の先輩の母上が亡くなられて、そのお葬式に
向かい訪れたのは滋賀県の田舎町(余りに前すぎ
て忘れた)。周りには自然がそのまま残る日本の
原風景の様な場所である。



時期は6月の上旬。そのご自宅にて執り行われた
お葬式。和室の襖を取っ払い二つの和室が繋がる
カタチで見事に飾られたお棺周り。個人的な面で
お付き合いがあった訳ではなくて、大きく遺影が
飾られてはいるものの、初めて拝見するお顔。畳
の上にはビッシリと座布団が敷き詰められており
その一番後ろの棺から真正面の位置に座り、前の
席から配られてきた冊子を手にする。これまでの
お葬式でこの様なものをこれまで手渡された事は
ない。お経にルビが打たれており、葬式が始まる
と、お坊さんの唱えるお経を参列者たちも全員で
それを唱えるという様式でそれが始まる。



私の身に起こった悲劇は、ここから本番である。
最後列に座る私の前に正座する男性の靴下に凄い
大きな穴が開いていて、それは座る前に気付いて
いたのだが、お経を読み上げる冊子の向こう側に
正座し痺れたのかその足の親指がずっとモゾモゾ
しているのが目に入る。厳かな気持ちで来ている
のに、視界にモゾモゾが見えて穴が広がり完全に
足の親指が出てきている。いかん、こんなものを
見ていたら吹き出しそうになるではないか。私は
上体を直立させて、その笑いネタから目を逸らす。
既に安全装置が外れている状態の私にとって既に
モゾモゾ足指の映像が頭の中にこびりついており
鮮明に頭の中でリプレイされている。一体、何の
罰ゲームに陥ったものなのかと、上体を反らせて
読み上げるお経に集中しようとしたその時に第二
の刺客が私に襲いかかってきた。お坊さんのお経
を唱えるそれに何かが反応している。視界の中の
右側上方で、お経のリズムに合わせその度に動く
ものがある。箪笥の上に置かれた動くもの達は…


コイツとコイツ、一体ではなく二体の刺客…



フラワーロック、ダンシング缶。
このセットメニューである。



私は悶絶した…。死にそうなほどにである。
一般的なお葬式の会場なら絶対に置く筈のない
これら、一般家庭が葬式やお通夜の場合になら
ありうるものなのかも知れない。


いや、勘弁してくれ、あかん、死にそうになる。
他の人たちはお経を読んでるから手元の冊子に
目がいっていて、この場違いな彼らに気付かない。
木魚の音やお経に軽快に反応し、クイックイッと
踊り続けているのだ。グォーッ、死にそうになる
程、私は笑いを堪える。自分の足をこれ以上ない
位に思いっきりつねりあげる。



視線を戻す。前のオッサンの足の親指のモゾモゾ
までお経に合わせ動いてる様にも見える。これを
見ているのもヤバイ。左側に座る葬式参列に同行
した後輩が前のオッサンの足指のダンスを見てて
面白い顔をしている。いかん、コイツは厳かな場
でニヤニヤしていて、私は後輩の楽しんでいる顔
を見たとて吹き出しそうになる。私を全力で悶絶
させ、笑わせようとする四つの試練と向き合わね
ばならない。これは多分私に与えられた煉獄爆笑
禁止の試練の場なのだと理解した。


葬式は終わり、私は耐え抜いた。
笑うのを何とか制した。勝ったと思った。
生まれて初めて、恐ろしいほど笑うのを堪えた。


その豪邸の表に出ると、まだ早い時間なのに蛍が
一匹、ス〜っと目の前を天までも昇っていくのが
幻みたいな光景であった。耐え抜いた私に対する
何かのご褒美だったのかも知れない。


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