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【小説】をんごく/北沢陶 感想

突然ですが自分語り。
私は「家族従業者」という、労働基準法が適用されないスーパー雇用体系のもので、平日はフルタイムだし、休みは多くて週1日。
しかもその貴重なお休みのうち、半分は掃除と一週間分の買い物でもっていかれる。
そして追い打ちをかけるように、大抵その曜日はどこも定休日

それは図書館も例外ではなく・・・。

本好きとしては、これはかなりの痛手。
図書館という有象無象のジャングルから本に出会い、
貸出期限というタイムリミットの中で積ん読をせず、
自分に合わなくても無責任に手放せるこのスタイルが、自分にはお気楽で心地良いのに・・・!

と、しばらく涙をのんでいたのですが。
最近「移動図書館」という存在を知り、生活は一変。

移動図書館とは、1ヶ月間に2回ほど、キッチンカーの本屋さんバージョンといったような可愛らしい自動車が、地域を巡回するというサービス。
毎回ラインナップを変えた1000冊ほどの本が積まれ、貸出や返却も行える。
しかも停留所が、徒歩1分、家のすぐ近くときたものだ!ヤッタネ!

でも、まあ、その停留所、長男を預けている保育所の駐車場なんですよね。

年長さんにもなると社会活動の一環とかなのか、みんなでその移動図書館の本を借りるようで。みんなできゃいきゃい列を成しているんです。
可愛いブックカーに、可愛い子どもたちが集まる光景は、なんとも微笑ましいものです。が、しかし。

「あっ、○○ちゃんのママだー!」「なんでいるのー?」

長男がガンガン年上に絡んでいく性格のうえ、私も子ども好きなので話しかけたりするうちに、もれなく他学年の子にも顔が割れていた。
「マジでなんでいるの?」と声に出さずとも顔に出ているのかも知れない保育士さんとはなるべく目を合わさないように。
(保育所は、親の労働が前提で子どもを預かる施設なので)


・・・そんな視線の中、目についた本がこちら。

今回はこの本の感想を、書き散らしていきたいと思います。
あと、今度からは園児のいないタイミングを狙います。

◆◇◆

あらすじ

第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!

嫁さんは、死んでもまだこの世にうろついているんだよ――
大正時代末期、大阪船場。
画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。

倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って生きていると言い、倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する――。

家に、死んだはずの妻がいる。
この世に留めるのは、未練か、呪いか。

選考委員満場一致、大絶賛!
第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!

Amazonより

個人的満足度

★★★★★★★★★☆

こんな読後感の怪談は初めてだと唸りました。
なんてエンタメ性が豊かなホラーなんだ。

これをエンタメというべきなのか、
とにかく、同じホラーでも、映画「来る」ラストのお祓い天下一武道会のような、ポップでエネルギッシュな「陽」のイメージではないのですが。

しっとり物悲しい雰囲気の中で、様々なニュアンスがちらちら光る、月夜のような作品だなと思いました。


彩度は暗く 要素は豊か

ストーリーは主人公・壮一郎が妻の死を受け入れられず、降霊を試みたシーンから進んでいくのですが、
妻への喪失感や悲しみが(なんなら霊や死人が出てる状況においても)色あせることはなく、常に深く影を落とし続ける様は、故人を偲ぶ純愛モノのようで。

それでいて怖い場面は、ジャパニーズホラーよろしくじんわり湿度高め。
わらべうたの不気味な演出。霊の佇むような現実っぽい存在感。
グロさは抑えめだけれども、想像すれば凄惨な場面もあり。
ひやと息をのむヒトコワ系(結局生きてるヒトが一番怖いよね系)の落ちもありで、怖さを感じさせる引き出しが!多彩!!天才!!

それでいて今作を語るうえで外せないのが、
霊を喰うのっぺらぼう「エリマキ」の存在。
一緒に呪いを解明していく、相棒的なポジションとなるのですが、
このキャラがね、本当良い造形してはるのよコレが。

得体の知れない、この世のものじゃない奴とのバディ関係って、
もれなく旨味が多いんですよ。
寄生獣のミギーとか、ヴェノムとか、ネウロとか。

第一印象がもれなく命に関わるほどスリリングに最悪だし、
日常パートは「なんだコイツ」と話題に事欠かず、
最終的に種族や価値観をブッ超えて、お互いを認め合う展開は、もう最高じゃないですか。

そういうのが、ここに、あります。(大好物)


呪いを解明するバディものやミステリー、
主人公が死と向き合う文学的なエッセンス、
語り尽くしてしまうと勿体ないくらいの要素が、随所に埋まっていて。

でも語り口がひどく落ち込んで落ち着いているため、主張しない。
その奥ゆかしさが、怪談として美しくまとまっている。
なんてとても巧い構成・・・。
これがミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作のちから・・・!



厭な気が残らないホラー

そしてこの本を読んで驚いたのが、
ホラーの原動力ともなる圧倒的な「憎悪」が、この話には存在しないこと
呪いの起源となると、おぞましい事件や殺意、恨み辛みに魑魅魍魎・・・などマイナスパワーの塊みたいなイメージがほとんどだと思うんですが、
ここで描かれている「呪い」は、紐解けばどれも「願い」から生まれたしたたかな感情ばかり。
だからどこか、読んでいて気色の悪さがない。


願いも一歩道を違えれば・・・的な怖さも当然あるのですが、私には登場人物がそれぞれが、
「亡き人に会いたい」
「商売繁盛したい」
「居場所が欲しい」
「自分が何のために生きるのか知りたい」
といった、闇の中で望みにすがるしかない切なさを、
どこか人間臭くて、愛おしく感じました。

大抵は「まだまだ呪いは終わってませんよ」と、後味の悪いエンドが多いホラーというジャンルにおいて、この読後感は目が覚めるようなあたらしさ。


関西のことばで会話が進むので、関東圏の方には察しなければならない表現があるのは多少気になるところですが、それも土着の雰囲気があっていい感じ。
むしろキツいイメージの関西弁が、どこか品のある響きに聞こえる不思議さも、ぜひ体験に値するかと。
夏の夜の熱気払いに、多くの人におすすめできる一冊です。

…こんな良書がさらっと乗っけてある移動図書館、やるじゃん!!


こんな方にオススメ

・しっとり湿度高めな気分の読書に
・バットエンドで時間を潰した読後感はイヤ!な方
・普段あまりホラーは読まない方

今回はここまで。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

◆◇◆

次回もまた、ホラーの感想文になりそうです。
ホラーホラー打ち続けてると、アンパンマンの骸骨のキャラクターが浮かんできます。
奴のキャラソンが存在するのですが、「信じるものは何もない、敵と思えば味方だし」とけっこう身も蓋もない歌詞なんですよね。
身、無いんですけどね!ヨホホー!


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