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No316 オルゴールとシーケンサとコンピュータ

これを書いているのは2023/7/16ですが、いよいよ暑さが本格化してきて、筆者も熱暴走ぎみです。

そんなわけで今回は軽目の話題です。

前回まで、かなり初期のインターネットの話をしてきましたが、今回はさらにさらに時代を遡り、コンピュータのご先祖とも言えるキカイの話をしようと思います。

オルゴール

オルゴールって音色が独特でいいですよね。
でも、ここにソフトウェアの原アイデアが含まれていると言われると驚きませんか?

オルゴールはシリンダーを変更することができます。
当然ながら、シリンダーを変えれば違った曲を鳴らすことができます。

実際に、オルゴール(当時は貴族が顧客の中心である超ハイテク高級品)というハードウェアを販売した後には、新曲のシリンダを(オルゴール本体に比べれば安価に)提供するという今でいうコンテンツ販売ビジネスを行っていたそうなのです。

この新曲をコンテンツとして販売するアイデアは、コンピュータに新しいソフトウェアを入れて別の機能を実現しているのとそっくりです。

ソフトウェアの原アイデアというのもあながち誤りではないと思われませんか?

自動演奏

オルゴールは今も残っていますが、それ以外にも自動演奏できる楽器はいろいろあったようで、自動ピアノや自動オルガンは19世紀にずいぶんと流行したようです。

中でも自動オルガンは、イベント会場でも盛り上げ役として使われていたらしく、大きなものは荷馬車ほどの大きさがあり、中にはオルガンはもちろんシンバルやドラム、シロフォン、トライアングルといった様々な音色を出せる楽器を内蔵させ、横手にある大きなハンドルを手回しすることでかなりの大音量での演奏ができました。

筆者も随分と昔に大阪にある民俗学博物館でそういった大型の自動オルガンを見たことがありますが、仕組みの精巧さに驚いたものです。

さて、こういった自動オルガンを演奏に必要な音楽はどうやって提供されていたと思われるでしょうか?

その答えは「紙」です。

各楽器(や鍵盤)を鳴らしたいタイミングの場所に穴を開けた紙を用意しておき、それを前から順に読み込むと、穴が開いた場所でその楽器から音が出る仕組みに作ってあるのです。
穴を空けたものを用意し、その穴を金属のピンなどで検出して、対応する位置の鍵盤を叩いて音を出すという仕組みです。

紙といってもボール紙などの固くて厚手の紙を使い、一曲が一枚の長い巻物になっていました。一曲が何メートルもの長さなのですね。

自動オルガンにはこういった楽曲がいくつも用意されていました。

自動オルガンも高価なものでしたが、イベント屋さんなどが商売で購入するものでしたから、貴族向けのオルゴールよりもコストパフォマンスが重視されます。

その点でも紙に穴を開けるだけで新作が作成できることは、大変なメリットです。
オルゴールのシリンダよりもはるかにローコストで作れますから。

この紙の楽譜もソフトウェアそのものです。
もっとも、当時は知的財産権もなく、コピーし放題だったように思いますが。

ちなみに、このような紙を使ったソフトウェア的な取り組みは、楽器だけでなく織物(織機)のパターン作成などでも使われており、一定の市場があったようです。

シーケンサ

上記の楽器演奏や織物に限らず、一連の決まった動作を制御したいシーンはたくさんあります。

家庭内でも、洗濯機、炊飯器、冷蔵庫、電気ケトル、エアコン、などいくらでもあります。ビルの自動扉、エレベータの上昇速度制御、事務所入室時のカードリーダ制御、なども同様です。

こういった何かの条件に従って一連の動作をコントロールする方式のことをシーケンス制御(sequence:順序)と言い、シーケンス制御できる機器のことをシーケンサと言います。

上述の洗濯機を考えてみましょう。
標準コースを選んで「開始」を押すと、最初に水と洗剤を入れ、ドラムを回す。規定時間になると排水して脱水する。次にすすぎをし、柔軟剤を入れ....といった具合に毎回同じ手順を繰り返します。

一連の決まった手順を繰り返すという点は上の自動オルガンと同様です。

もちろん、現代の洗濯機では自動オルガンのような厚紙など要りません。
こういった制御機器はすべてシーケンサに含まれます。

シーケンサとコンピュータ

シーケンス制御は順序制御の方式ですので、自動オルガンも洗濯機も立派なシーケンス制御機器であり、シーケンサとしての機能を備えています。

一般的には、シーケンサと言うとPLC(Programable Logic Controller)というシーケンス制御専用機器のことを指すのが普通ですが、これは工場などのライン制御などに使われるいわば専用コンピュータです。

PLCという機器はたくさんの製造機器をコントロールできる機器ですので、工場のようにたくさんの製造機器を効率良く動かすにはもってこいの存在です。

その意味で、PLCというシーケンサはオーケストラの指揮者のようなものです。

オーケストラで指揮者がいないと音楽としてまとまりがなくなるのと同様、工場のラインを効率良く動かすには指揮者であるシーケンサの助けが要るのです。

実は、この構造はパソコンの内部も同様で、工場でのPLCの考え方をさらに複雑に組み合わせたものとなっています。

パソコン内部は膨大な数のシーケンス制御の集合体なのです。
現代のパソコンに含まれるCPU(頭脳部分と呼ばれる半導体チップ)の中には何十万もの機能回路が含まれています。その山のような機能回路が協調して動けるようにコントロールしているのがCPU内にあるシーケンス制御回路です。

例えば足し算をするには、空いている足し算回路を探し、足して欲しい二つの値を与え、その結果を受け取り、結果を必要とする回路に渡す、という作業を行わなければなりません。これを制御しているのがシーケンス回路です。

こういった足し算のシーケンス回路の動作を管理する上位のシーケンス回路、メモリとのやりとりを行うシーケンス回路、他の半導体チップとの通信を行うシーケンス回路などなど、様々な階層の様々なシーケンス回路があります。

こういった大量のシーケンス制御回路を同調させてはじめて、コンピュータとして意味のある動作が行えるのです。

まとめ

オルゴールや自動オルガンといった自動演奏機器がもてはやされた時代がありました。

この時代では、オルゴールや自動オルガンは非常に高価なものでしたから、1つの曲だけしか演奏できないというのはもったいない話でした。

そのため、シリンダーが交換できるオルゴールや、厚手の紙で作った楽譜を読み込める自動オルガンが作成され、新作の音楽がハードウェアを買い替えずに楽しめたのです。

この形態は現代のソフトウェアと非常に似ています。

また、自動演奏はその後さらに精密なものとなっていくのですが、その過程でシーケンス制御という考え方が生まれ、音楽だけでなく、様々な制御の機械化が進むことになります。

このシーケンス制御の考え方は、工場ではPLCという専用機器で、工場内の多数の機器の動作のコントロールを行っています。

こういったシーケンサは現在も多くの産業で活躍しています。製造業はもちろん、倉庫管理、運輸、建築土木、農業などでもその恩恵を受けているのです。

一方、パソコンの内部をミクロに見ると、これ自体が膨大なシーケンス制御回路が協調して動作する工場のような仕組みで実現されています。

今回は、オルゴールからシーケンス制御についてのお話をしました。

次回もお楽しみに。

(本稿は 2023年7月に作成しました)

このNoteは筆者が主宰するメルマガ「がんばりすぎないセキュリティ」からの転載です。
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