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本を出すことが教えてくれた(後編)

本を書く動機

グラレコ という言葉も浸透し、グラフィックレコーディングの講座も増えてきました。
しかし、「グラレコ」が、場を可視化するというよりも「うまく素敵に」仕上げる、クリエイターでなければおいそれと描けないアクションになっているようにも感じることも多くなってきました。
せっかく日常や仕事の現場で定着してきたものが、また一部の人のものになってしまうような。

可視化=絵心 という固定概念はやはり根強く、会社の中で、ビジュアルでのファシリテーションを取り入れる難しさは大きいと思います。
学びの場は安心安全かもしれませんが、一歩外に出ると、腕組み上司、硬い雰囲気、そもそも可視化する風土がない…など、ビジネスの現場でペンを握るのは意外とハードルが高いといえるでしょう。

そんな中で、書きながらその場で、「おっしゃっているのはこういうことですか?」と形にするには、どんなスキルが必要か、どんなマインドセットを用意すべきか。それらをクリアにして、ビジネスパーソンが呼吸するように可視化を実践できる本を書きたかったのです。

まずは、最初の一歩

私が企画書を送付したのは、ダイヤモンド社の中村 明博さん。
私の憧れの編集者でした。
図解に関する類書でベストセラーを既に複数生み出されている方で、企画書を送るときは、封筒を目に留めてくれるだけでもありがたい、そんな気持ちで郵送したのを覚えています。

とはいえ、私の企画書は、ほぼ、自分の講座の内容を箇条書きにしたもの。
この企画書を見て頭を抱えたことと思います。
「図解の本は難しい。力になれないかもしれませんが、一度お会いしましょう」という連絡をいただきました。

そこから、打ち合わせをさせていただき、はっきりと、「率直に言ってこのままでは本として成り立たない」という言葉をいただきました。

でも、えがこう!の活動とセミナーに差別化のヒントがあるかもしれない、企画会議にかけてみる、とおっしゃっていただきました。

その時の中村さんの「ではこれでいきましょう。いいですね?」は、ここからが本当にハードな道のりですよ、覚悟はいいですか?という意味だったと、今はわかります。が、そのときはただうなずくばかりでした。

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ダイヤモンド社の社内で、企画書が企画会議のテーブルに乗り、それから以降の苦労は並大抵ではなかったことと聞きました。
私が無名であることはもちろん、「図解や絵で表すこと」がビジネスの棚に並び、かつ手にとってもらえるのか、差別化は?タイトルは?
会議では意見が割れ、提出と再考を繰り返し、ようやく企画を通していただけました。

編集の中村さんから、先生と生徒みたいな「対話形式」でいきましょう、というアイデアの提示をいただき、尚且つ「地獄の」テイストは活かしながら執筆を開始しました。

地獄のブラッシュアップ「現場の道具となる」本を

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今でこそ、

『この本で私がお伝えしたい「図解」は、リアルタイムに図にしていくスキルです。書くものは、いわゆる上手い絵ではありません。
また、時間をかけて精緻な図を仕上げるのが目的でもありません』


と、胸を張ってクリアに言えますが、私の最初の原稿、企画の目次はゆるゆるのものだったと思います。

実際の8時間の講座ではアイスブレイクがあり、楽しさをつたえるコーナーがあり、一人一人にフィードバックする時間もあります。それをそのまま本にしていては、読者にとってはあっちこっちに趣旨がずれている面倒な本になってしまっていたでしょう。

「セミナー講師の著者は、普段順を追って教えるのでその通りに読者が読むのだと思いがち。しかし、実はどこからページをめくるのかもわからないし、いつ本を閉じるのかもわからない。常に興味をもって読んでもらえる立て付けが必要」と、徹底的に構成にダメ出しをいただき、それに応える形で練り上げていきました。

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書き進めていくうちに、私の原稿には潔さが足りなかったということもはっきりしてきました。
・「仕事でどう活かすか」
・「抽象的なところを具体的に」が伝わるようにアウトプットできていなかったのです。

テクニック的に、例えば棒人間の走ってるところを描くとすごくいいよ、という部分でも、「なぜこれを書くといいいのか、その理由を明確にしてください。」「ビジネスのどこで使うのか教えてください」「まだこの内容は、絵をうまく描こうとしてる人の文章・内容です」そういった指摘をバンバン受けて、当初の原稿から削った要素は数知れず。

辛い時期でしたが、編集という仕事の凄さを目の当たりにしました。

その本が世の中に出たとき、著作がいい加減だったらその著者も軽んじられます。だから、自分に預けられた本気の原稿に、また本気で応える。徹底的にダメ出しをし、解を引き出す。
その人の人生を預かることを踏まえた編集担当・中村さんのブレない姿勢に、頭が下がりました。


ゲラが出て、ここまでこられたことに満足しそうな私に
「まだまだこれからです!体感的には80点ぐらいなので、これを120点まで上げていきましょう!」というメール。
中村さん、すごい。。ついていきます。

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その後の校正では、さらに自分の力の無さを目の当たりにしました。
図版の中の誤字で猛省、レイアウトに沿ったさらなる内容の練り上げや内容の差し替えでフル回転。
よく漫画家さんが修羅場という言葉を使いますが、修羅とはこういうことなのだと思い知りました。

そんな中、「著者から大量の赤字が入ったゲラをいただき、これはキツいと思う反面、この著者は、本を良くするためにここまで汗をかいてくれたのかと感動もする。経験上、著者赤字がたくさん入る本は売れる。なぜか。著者の思い・熱が本にのりうつるから。その思いは必ず読者に届く。大変だけどがんばろう」
というツイートが目に入り、未熟な自分が情けなく、そして死ぬ気でやってやるという衝動がごちゃまぜに。そんな地獄のブラッシュアップ(徹底的に目的に向かって余分なものを削ぎ落とした大吟醸のような)を経て

『複雑なことをシンプルに、難しい内容をわかりやすく、そして議論が活性化する。
次のアクションに直結するアウトプットの技術を伝える』本が生まれたのです

書き尽くせない過程を経て、本を手にしたときの震えは忘れられません。

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>[本を書くことが教えてくれた]前編
>[本を書くことが教えてくれた]後編
>こんな本なんです



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