見出し画像

本を出すことが教えてくれた(前編)

この9月、生まれて初めての本を出版しました。
タイトルは『なんでも図解』
中身は打ち合わせや話の内容をわかりやすく可視化し情報を共有しやすくして、仕事に活かすためのスキルが身につく実践本です。

この本を書くことは、私の想いをもう一度棚卸しする機会でもありました。

なぜ、えがこう!を続けているのか
なぜ、本を書こうときめたのか、
本を生み出すまでの予想もしなかった諸々

この本を書くことで、あらためて感じたこと、見つけたことを記録していこうと思います。 

仕事の味方だった「可視化の力」は諸刃の剣でもあった

日本デザインセンターで、車の宣伝物のラフカンプを描く「イラストラフカンプ部」を経験した後、化粧品会社の宣伝部での制作業務につきました。

宣伝制作の現場はタイトなプロジェクトも多く、頭の中にあるイメージやアイデアをいかにブレずに素早く伝えるかが求められます。描いて伝えたり、図解をしながらコンセンサス(合意)を取り仕事を前に進めてきました。
「見える」形にすれば周りへの説得力が上がる効果を実感してきたのです。

しかし、その頃は、まだ「綺麗に仕上げて周りを黙らせる」アウトプットで満足していたように思います。きれいなラフは、完成度が高いほど反論が出ず、「これでいこう」になりやすかったのです。

そんな形で進んだプロジェクトは後からほころびが出ることも多く、例えばポスターの提案をできるだけ完成に近い仕上げで提示すると、決まるのは早いのですが「よく考えるとなんか安直じゃない?」といったちゃぶ台返しが出ることも。

私自身もともとは伝えるのが大の苦手な、口下手&表現下手の人間でした。

特にロジカルに説明するのが苦手で、「反論」されると混乱し黙ってしまうタイプ。言葉で伝えきれない内容を、どう表現するかを常に苦しんできたように思います。

しかも、大のあがり性で、学生の頃の就職活動の社長面接では緊張のあまり涙声に。
その時は持参した作品を見せて乗り切り、なんとか入社が叶ったのですが、その経験は「目から入る情報」に助けられた、今でも忘れられない経験として焼きついています。

転職後「最速」「その場で」が骨身に染みた

「描いて伝える」しかも「最速で」、ということの重要性を感じたのは、いわゆる大企業から飛び出し、大阪で少人数の制作会社でアートディレクターの業務についてからでした。

多くの中堅企業の意思決定者とプロジェクトを進める機会が増え、それまでよりもさらに短時間での情報共有と最速でのアイデアの提示が求められてきました。

そもそも描くのは元々の職場で鍛えられていたのですが、きれいに描く癖がついており、ぐうの音も出ないほど美しい企画書を作っていました。しかし、「1週間経ってそんなの出しても無駄だ」みたいな感じで、叱られることが続出。

しかしながら、その場で描き意見を求めると、関わっている経営者の人たちの反応がよいことに気がつきました。しかも、信頼感が生まれる。「ああ、俺の考えてたことはそれや」みたいな声をいただくことが増えてきました。
いわゆる汚いラフとか図でも、その場で意見を聞きながら描いて、相違点があればそこを直していくという描き方、それこそが仕事に役立つということが骨身に染みる時期でした。

社内勉強会、そして「えがこう!」

どう描いたらお互いの頭の中が見えるのか、どうやったらこの情報からアイデアが引き出せるか...。
上手く言葉にできない考えを、その場でペンを走らせイメージしていただいたり、書いた図を指さしながら疑問をぶつけ、意見を交わす場を経験しながら、「聞きながら描く」「考えながら描く」ことが、ひとつの「スキル」として活かせる手応えを感じてきた頃です。


私がアートディレクターを務めている会社も人数が増え、社内の意思疎通や対外的な場でも、見せて共有すれば話が早いのにわざわざ持ち帰って苦労している姿が多く見られました。特にPCがデスクトップではなくノートPCが主流となってから、キーボードを叩きながら、本当に分かったのか分からないような打ち合わせをずっと長いことやってる姿も多く、「そんなのパっと描いてさっと共有したらいいやん」と感じていました。

嘆いたり、批判しているだけでは前にすすめません。描く技術を自分だけのスキルにせぬよう、社内勉強会をさせていただきました。8時間の特訓をしてみると、やり遂げたスタッフはくたくたに。疲れ果て、「まさにこれは地獄です」という言葉が出るほど。でも、これくらいきつくなければ力がつく気がしません」という頼もしい言葉もいただき、少しずつ継続的に伝えていきました。

egakou_20170624-14のコピー


そうしているうちに、外部の企業からのトレーニングのご要望も増え、オープンの講座として始めたのが「地獄のお絵かき道場」です。

その頃は「グラフィックレコーディング」という言葉も浸透していませんでした。知る人ぞ知る、で受講のご希望が増えてはいきましたが、企業研修でも「お試し研修」は参加が多くても本番参加者ゼロ、ということもありました。
ただ、時代の流れもあるのでしょうか。
「ゆっくりじっくり時間をかけてわかり合う」終わりのないミーティングや、
クライアントからの課題を「持ち帰ったはいいが完璧な企画書にするまで数週間」などの従来のコミュニケーションのあり方、コンセンサスのとり方では仕事の限界がくる、そう感じている方が増えたのだと思います。

さらにビジネスへフォーカス

お絵かきをビジネスに活かそう!というこの地獄のお絵かき道場を訪れる方も徐々に増えてきました。
そんな頃。
ある参加者が帰りがけに、こう言いました。
「今日はとても楽しく、開放感を感じました。でも僕の会社では、今日のこの力を使えるとは思えないんですよね。」
聞くと、かなりロジカルな上司が多く、目の前で絵なんか書ける雰囲気ではないとのこと。
まだ経験も浅く、他社事例についても即答できなかった私は、彼に返す言葉がなく、講座の会場を去る後ろ姿をただ見送るだけでした。

当時の私は、参加された方の笑顔や楽しかったというアンケートに満足して、自分が教えていた内容に迷いはありませんでした。
そんなときでしたから、彼のその言葉はずっしりと重く私の胸に響きました。

会社に戻って灰色のオフィス家具と腕組みをする上司達に囲まれた場で、わかりやすく絵で伝えると言う事はどれだけ勇気が要ることでしょう。

その言葉がきっかけでした。さらに講座を「ビジネスに活かせるよう」にブラッシュアップしていきました。

いい写真P1050728


それからは
「営業資料を企画するオンライン会議で、内容を描きながら共有したら短時間で内容が定まった」
「ふだん議事録を読みもしない社員が、社内会議に興味を持った」
「新商品の開発で、どうやってファンを増やすかの議論が煮詰まったときに、描きながらブレストしたら、今まで見過ごしていた問題点が見えた」などの声がさらに増えてきました。

たとえば、マシンガントークの上司の下で働いている方。言うだけ言って「じゃあ後は頼むよ」というマシンガントークに困っていて、この講座を受講してくださいました。その方もどんどんスキルアップされて、その後その上司も「俺も描きたいわ」と。会社ぐるみでワークショップされるなどの変化もあったとご報告いただきました。


そんな声に力をいただきながら、えがこう!地獄のお絵かき道場は大学、企業での開催も増えてきました。

画像2

>[本を書くことが教えてくれた]前編
>[本を書くことが教えてくれた]後編
>『なんでも図解』はこんな本なんです





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?