拝領唱 "Dominus dabit benignitatem" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ115)

 Graduale Romanum (1974) / Graduale Triplex, pp. 17–18 (これら2冊の内容は四線譜の上下のネウマの有無を除けば基本的に同じだが,本文中で言及するときは,煩雑を避けるため後者のみ記す); Graduale Novum I, p. 6.
 gregorien.info内のこの聖歌のページ
 


【教会の典礼における使用機会】

【現行「通常形式」のローマ典礼 (1969年のアドヴェントから順次導入された) において】

 1972年版Ordo Cantus Missae (Graduale Triplex/Novumはだいたいこれに従っている) では,今回の拝領唱は次の機会に割り当てられている。

  •  アドヴェント (待降節) 第1週 (水曜日を除く)

  •   「種々の機会のミサ」のうち,種まき (文字通りの意味。つまり農業の話) にあたってのミサ

 2002年版ミサ典書においてもだいたい同様だが (PDF内で "benignitatem" キーワードとする検索をかけて見つけることができた限りでは),こちらではアドヴェントにおいては毎日異なる拝領唱が定められており,今回の拝領唱が割り当てられているのは主日のみとなっている。

【20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において】

 1962年版ミサ典書では,PDF内で "benignitatem" をキーワードとする検索をかけて見つけることができた限りでは,今回の拝領唱はアドヴェント第1主日のみに置かれている。
 こちらではアドヴェントにおいては週日 (平日) 用のミサ式文が定められておらず,聖人の祝日などがない限り主日の式文をそのまま1週間用いることになっている。つまり,実質的に「アドヴェント第1」と書いてあるのと変わらない。

 AMSにまとめられている8~9世紀の6つの聖歌書のうち,拝領唱に関係あるのは5つ (M=Monzaモンツァ以外) であるが,そのうち4つにおいて,今回の拝領唱はやはりアドヴェント第1主日に置かれている。残る1つ (C=Compiègneコンピエーニュ) においてもおそらくそうだったのだろうが,この主日の聖歌を記したページが失われている。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Dominus dabit benignitatem: et terra nostra dabit fructum suum.
しゅは御好意をお与えになるであろう,そしてわれらの地は自らの実りを与えるであろう。

 詩篇第84篇 (ヘブライ語聖書では第85篇) 第13節が用いられており,テキストはローマ詩篇書にもVulgata=ガリア詩篇書にも一致しているが,もとのラテン語聖書でこの節のはじめにある "etenim (というのも~だから)" という接続詞はここでは省かれている (「ローマ詩篇書」「Vulgata=ガリア詩篇書」とは何であるかについてはこちら)。

 アドヴェントに歌われるとなると, 「われらの地」は聖母, 「自らの実り」はイエス・キリストを暗示するように私には感じられる。すると「しゅ」が与える「御好意」は聖霊のこととも取れる。アドヴェント第4主日の入祭唱 "Rorate caeli desuper" のイメージに近いものがある。
 

【対訳・逐語訳】

Dominus dabit benignitatem:

訳1:しゅは好意をお与えになるだろう,
訳2:主は気前よくしてくださるだろう,

Dominus しゅ
dabit 与えるだろう (動詞do, dareの直説法・能動態・未来時制・3人称・単数の形)
benignitatem 好意を,親切を,寛大さを,気前のよさを

  •  次の文との関係上,地が豊かな実りをもたらすようにしてくださるということだと考えられ,そのような意味で「気前よくしてくださる」というようなニュアンスも頭に置いておきたいと思い訳2を書いた。

et terra nostra dabit fructum suum.

訳1:そしてわれらの地は自らの実りを与えるだろう。
訳2:(……) もたらすだろう。

et (英:and)
terra nostra われらの地が (terra:地が,nostra:われらの)
dabit 与えるだろう (動詞do, dareの直説法・能動態・未来時制・3人称・単数の形)
fructum suum 自らの実りを (fructum:実りを,suum:自らの)

  •  訳2のほうが日本語として自然ではあると思うが,前の文にもこの文にも "dabit" という同じ動詞が用いられていることを表現するのを優先し,全体訳では訳1を採った。

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