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書評 宅配がなくなる日 同時性解消の社会論

今回は、松岡 真宏, 山手 剛人 共著の「宅配がなくなる日 同時性解消の社会論」を取り上げたいと思います。

2016~2017年頃、宅配サービスの再配達問題や将来的にも増加していくであろうネット通販問題が、ワイドショーなどで特集され、宅配業界はどう対応すればよいかが、社会問題として取り上げていた時期でした。
この本は、そのような状況下で出版されたもので、かなりタイムリーだったと記憶しています。

この本を読んで、私が面白いと感じた点は、宅配サービスの問題を取り上げながらも、再配達問題という狭義の枠組みにとどまらず、人々の意識変化と時代の趨勢から、宅配便問題を取り上げている点です。

私が理解した中で本書を要約してみると、宅配便問題は人々は待つことが出来なくなったために起きた問題。ということです。これを筆者は同時性という言葉で説明しています。

このような流れが進んだ背景は何か。筆者は、スマホの登場が大きいとしています。
誰もがスマホを持つことによって、すきま時間の価値に重きを置くようになりました。スマホを持っている私たちは、すきま時間の中でなにをしているかというと、
・ショッピング
・SNSやメールの確認、返信、アップロード
・交通ダイヤの確認
・評判の飲食店の検索
・ゲーム

スマホを持ったことで、すきま時間でいろんなことができるようになったのです。
つまり、人々の時間価値が高まりました。
宅配便には、配達時間を指定できるサービスがありますが、たいてい2~3時間の枠内でしか指定できません。すきま時間を有効活用している私たちは、2~3時間という時間を待てなくなっているのです。

なお、同時性には「時間」だけでなく、「空間」の同時性があります。
現代は、この同時性を解消し、「時間」と「空間」価値を増加させるサービスが主流になっています。

同時性の価値を増大させるサービスとは、

例① 電車の鈍行と新幹線のグリーン席の比較:
・時間を短縮してくれるサービス
→速さ=特急料金=時間価値を購入。
・空間の快適さを提供してくれるサービス
→グリーン席=空間価値を購入。


例② 人と人との情報交換の場合:
・時間の同時性解消は、手紙や伝言メモ(同じ時間を共有しなくても情報交換が可能)
・空間の同時性解消は、電話(同じ空間にいなくても、離れた場所で情報交換可能)
・時間と空間のどちらの同時性も解消されているのは、電子メール。

また、クラウドやストリーミングは空間の同時性を解消してくれています。

この観点から宅配サービスの現状を見ると、
宅配サービスは川下である宅配ドライバーから受け取り人へ商品を受け渡す行為がネックになっています。
配達してくれる人と受取人が同じ時間を共有しないと受け取れません。
つまり、いまだに受け取り側に時間の同時性が求められています。

これを解決する方策として、宅配ボックスの設置が提案されます。
ですが、コンビニでの受け取りやコンビニでの宅配ボックス設置には、消極的な姿勢です。
自動販売機を撤去して、宅配ボックスを設置すること提案しています。

以上のように、宅配サービスの解決策も書かれていますが、個人的に読むべき点は、時間と空間の同時性という観点から、様々な分野を眺めるきっかけを与えてくれる点だと思います。

タイトルと本書の内容は、必ずしも一致していません。
現状では、同時性が解消されようとも宅配サービスはなくなりません。
ですが、様々な示唆を与えてくれる良書だと思いました。

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