読書感想文 罪の轍
奥田英朗さんの長編小説。
「吉展(よしのぶ)ちゃん事件」という実際に起きた事件をモチーフにして作られているようだ。
小説の舞台は、東京オリンピックを目前に控えた日本。
主人公は貧しい生活を強いられながら北海道で育った青年。
この青年が東京に上京し、いろいろな出来事に巻き込まれ、事件を起こすことによって、日本全国を揺るがすニュース犯罪へと展開が広がっていく。
読んで感じたことは、小説の舞台は約50年前の出来事だが、人間模様やマスコミ、国民の反応などが現在となんら変わってないことだ。(あくまでもこの小説の中での話ではあるが)
マスコミによるセカンドレイプ、報道を見た国民からの言いがかり、お人好しな行動、愉快犯。組織の縦割りや他部署とのいがみ合い。
特に、マスコミ報道や誰もが批判者の立場になる人々の習性は、SNSが発達し、莫大な情報が入るようになった現在だからより被害が大きくなったと思いがちだが、電話という通信手段が発達した当時においても似たような状況が起きていたんだろうなと思った。
そして、登場してくる人物それぞれが己の私利私欲のために動いていて、事件解決をしたいのか、自分の手柄を得たいだけなのか、一体なにが正しいのだろうと考えさせられた。
そう考えると、主人公の宇野寛治は、幼少時代に愛情を全く注がれずに育ったせいか、他人から優しくされると純粋に信頼してしまう。
なんとかして、恩を返そうと犯罪にまで手を染めてしまう。
ある意味、とても純粋な心を持っている。
(かといって、犯罪に手を染めていいわけではないが)
絶対の正義はどこにあるのだろうか、そんなことを考えさせられる小説だった。
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