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新歳時記より 6月の季語

六月(ろくぐわつ)
   六月が好きわたしの誕生月
皐月(さつき)
   ひと時の皐月の空の深い青
杜鵑花(さつき)
   挿芽して希少失ふ杜鵑花かな
花菖蒲(はなしやうぶ):菖蒲園・菖蒲池
   花菖蒲足し算引き算色の失せ
6/2
グラヂオラス:唐菖蒲
   グラヂオラス父運び込み球根ぞ
溪蓀(あやめ)
   宿場町古きを語り溪蓀かな
杜若(かきつばた)
   老松の裾を彩り杜若
著莪(しやが):胡蝶花
   宵闇や占めて築山胡蝶花の咲き
6/3
一八(いちはつ):鳶尾草(いちはつ)
   葺き替えて一八咲くや去年のこと
短夜(みじかよ):明易し・夏の朝
   遠くから雨戸あく音夏の朝
競馬(けいば):加茂競馬・足揃へ・競べ馬・勝馬・負馬
   誘われし競馬放送煽り立て
6/4
競渡(けいと):ペーロン
   負けられぬペーロン漕ぎの水しぶき
初鰹(はつがつを):初松魚
   初鰹夕焼け空と赤提灯
花橘(はなたちばな):橘の花・柑子の花
   花橘黄金の色の花の中
蜜柑の花(みかんのはな)
   かぐわしき蜜柑の花の宵の道
6/5
朱欒の花(ざぼんのはな)
   みつけたり朱欒の花がちさきこと
橙の花(だいだいのはな):オレンヂの花
   実の陰のオレンヂの花咲きにけり
柚の花(ゆのはな):柚子の花
   宵の白恋のため息柚子の花
柿の花(かきのはな)
   実らない柿の花待つ定めかな
6/6
石榴の花(ざくろのはな):花石榴
   雨が来る石榴の花が短さよ
栗の花(くりのはな)
   傘の中にほひとどけて栗の花
椎の花(しひのはな)
   この屋敷ゆかりや老婆椎の花
棟の花(あふしのはな):栴檀の花
   淡紫棟の花かくし廃車
えごの花
   来る人を連なり迎ええごの花
6/7
山梔子の花(くちなしのはな)
   植えたはず山梔子の花いずこ咲き
南天の花(なんてんのはな)
   品格を南天の花に問うてみ
繍線菊(しもつけ)
   繍線菊の染めて掌包み摘む
榊の花(さかきのはな):花榊
   月初め八幡様の花榊
6/8
未央柳(びやうやなぎ):美容柳
   夫人問ふ未央柳の札を指す
紫陽花(あじさゐ):七變化・四葩
   逝くコーチ紫陽花散らすシャトルよ
額の花(がくのはな)
   額の花隅田の花火名の出でて
葵(あふひ):はなあふひ・ぜにあふひ
   「おかえり」と花葵立ちて迎えけり
6/9
岩菲(がんぴ):剪夏羅
   公園の朱き岩菲や句碑囲う
鋸草(のこぎりそう):はごろもそう
   鋸草ぎざぎざ葉っぱいかめしく
蠅捕草(はえとりぐさ)
   蠅捕草六足固め標本よ
矢車菊(やぐるまぎく)
   青白と矢車菊や山の裾
6/10
茴香の花(うゐきやうのはな)
   疲れ心を茴香の花の香
紅の花(べにのはな):末摘花・紅藍の花
   観てみたし北の国咲く紅の花
十薬(じふやく):蕺菜(どくだみ)
   蕺菜や占拠築山宵明かり
鬼灯の花(ほほづきのはな):酸漿の花
   鬼灯の花終われば寄るな疣のでき
6/11
萱草の花(くわんざうのはな):忘草・忘憂草
   萱草の花野暮な男の刈りしあと
紫蘭(しらん)
   妻の植う紫欄花壇の主役なり
鈴蘭(すずらん)
   入笠山鈴蘭狩へ霧の道
蚊帳吊草(かやつりぐさ)
   蚊帳吊草みられたり線香花火
6/12
瓜の花(うりのはな)
   一日だけその日にかけて瓜の花
南瓜の花(かぼちゃのはな):花南瓜
   カサカサと受粉南瓜の花探し
西瓜の花(すいかのはな)
   とんとんと西瓜の花の受粉かな
胡瓜の花(きうりのはな)
   とげの端おばけ胡瓜の花のあと
6/13
溝浚へ(みぞさらへ)
   何もゐぬ昔懐かし溝浚へ
螻蛄(けら)
   大きいと螻蛄と争ひ出して見せ
入梅(にふばい):梅雨に入る・ついり 
   入梅と肌を湿らす雨もなき
梅雨(つゆ):梅雨(ばいう)・黴雨・梅天・梅雨曇・梅雨空・梅雨寒 
   梅雨を待ちオーダー傘の裏の柄
6/14
五月雨(さみだれ):五月雨・さみだるる
   五月雨待つ熱き小石や天井川
出水(でみづ)
   土の色苗が緑が出水かな
水見舞(みずみまひ)
   新聞社ヘリがプロペラ水見舞
空梅雨(からつゆ)
   空梅雨や破れワイパー視野のくろ
6/15
五月闇(さつきやみ)
   湿る椅子今宵月食五月闇
黒南風(くろはえ)
   黒南風やバタバタ聯が季語の見え
梅雨茸(つゆだけ)
   梅雨茸や練習も無くパラダイス
木耳(きくらげ)
   木耳や大樹の陰の一休み
黴(かび):黴の香・黴の宿・黴げむり
   黴ぬめり顰め面して母の指
6/16
蒼朮を焼く(さうじゆつをやく):をけらやく
   をけら焼く煙の行方影一人
優曇華(うどんげ)
   優曇華や運びなめらかガラスペン
苔の花(こけのはな):花苔
   水やりの色の変化や苔の花
魚簗(やな):簗打・簗番・簗守
   人もゐぬ跳ねる音なく夜の魚簗
6/17
鰻(うなぎ)
   ふんわりと鰻重よそふ湖畔亭
鯰(なまづ):梅雨鯰・ごみ鯰
   浮世絵や鯰溢るる揺れ過ぎて
濁り鮒(にごりぶな)
   釣り竿と父と連れ立ち濁り鮒
龜の子(かめのこ):銭龜
   絵の如し親亀の上亀の子が
6/18
蠑螈(ゐもり):赤腹
   川石の甲羅干しをする蠑螈哉
蟹(かに):山蟹・川蟹
   川流蟹はゆっくり登りけり
蝸牛(かたつぶり):かたつむり・ででむし・でんでんむし
   雨の日やでんでんむしの早いっこ
6/19
蛞蝓(なめくぢ):なめくぢり・なめくぢら
   蛞蝓やははは塩壺持って来て
蚯蚓(みみず)
   魚釣り蚯蚓探しの事始
蟇(ひきがへる):蝦蟇・蟾
   蟇腹はつけない四足かな
雨蛙(あまがへる):枝蛙・青蛙
   雨蛙明日は降るぞと大合唱
河鹿(かじか):河鹿笛
   日暮れ前河鹿笛吹き河鹿呼ぶ
6/20
竹植う(たけうう)
   何処なり竹植う人や竹藪か
豆植う(まめうう):菽植う・豆蒔く
   豆植うも鳩の好みや土の中
甘藷植う(かんしょうう):甘藷植う(いもうう)・藷挿す
   高くして畝によこたへ甘藷植う
粟蒔(あはまき):粟蒔く
   雲厚し粟蒔く穴の深きこと
6/21
桑の實(くはのみ)
   桑の實や染めて唇紫に
さくらんぼ:櫻の實・チェリー・桜桃
   蜜豆やかぞえができてさくらんぼ
ゆすらうめ:山桜桃(ゆすらうめ)梅桃(ゆすらうめ)
   ゆらゆらと食べてもよいと落ちにけり

李(すもも):酸桃・巴旦杏・牡丹杏
   絵に描いた李が如し美味きかな
杏子(あんず):杏・からもも
   昨日よりけふの杏子が色の濃き
實梅(みうめ):青梅・小梅・豊後梅
   我が家より産地が實梅比べけり
紫蘇(しそ):靑紫蘇・紫蘇の葉
   掻き分けて紫蘇の香りや母何処
6/22
辣韭(らつきやう):薤・らっきょ・薤掘る・薤漬る
   辣韭や砂丘の下に太りけり
玉葱(たまねぎ)
   天井まで玉葱を積む倉庫開く
夏葱(なつねぎ):刈葱・わけ葱
   素うどんの夏葱に載す生卵
夏大根(なつだいこん):なつだいこ
   雨上がり夏大根をぶら下げて

枇杷(びは)
   あれこれと枇杷選り選び嫁の尻
楊桃(やまもも)
   楊桃を採れと姑籠を持つ
靑柚(あをゆ)
   香を放ち靑柚転がる籠の中
夏茱萸(なつぐみ):たうぐみ
   夏茱萸やガードレールの消えていく
木天蓼(またたび):木天蓼の花
   雨ぬいて木天蓼の花の香届き
6/23
黐の花(もちのはな)
   黐の花波の先端光る粒
錦木の花
   干す敷布錦木垣根染める朝
燕の子(つばめのこ):子燕・親燕
   燕の子口の大きく声かれず
烏の子(からすのこ):子烏
   烏の子仰ぎ見る人見下ろして

御田植(おたうゑ):お御田祭・御田・神植
   御田植や赤い腰巻声揃え
早苗(さなへ):早苗取・早苗束・餘り苗・捨苗・苗運・苗配・早苗舟・早苗籠・苗籠
   早苗取ぺちゃくちゃとなかみ無く
代田(しろた)
   真っ平代田の映す逆さ富士
6/24
代掻く(しろかく):田掻く・田の代掻く・田掻牛・田掻馬
   雨傘や代掻く人が遠くなり
田植(たうゑ):早苗開・田植始・田植歌・田歌・田植笠
   陽差し込む田植の朝の気忙しく
早乙女(さおとめ)
   手袋と早乙女姿日焼け止め

植田(うゑた)
   境界線写して曲がり植田かな
早苗饗(さなぶり)
   早苗饗や鰹と餃子出前来る
誘蛾燈(いうがとう)
   誘蛾燈ぽつりぽつりと灯りだし
虫篝(むしかがり)
   翻る翅の音絶えて虫篝
藍刈(あゐかり):藍・藍玉・藍搗
   藍刈や掛け声強し血洗島
6/25
火取蟲(ひとりむし):灯蟲・燈蛾・火蛾・燭蛾・夏蟲
   放電やぴちと落とされ火取蟲
除蟲菊(ぢよちゆうぎく)
   あの花になってはならぬ除蟲菊
金魚草(きんぎょそう)
   手作りの花瓶似合わぬ金魚草
アマリリス
   これを描けガラスの花瓶アマリリス

ヂキタリス
   白き鈴連ね蟲呼びヂキタリス
螢(ほたる):源氏螢・平家螢・初螢・螢火・飛ぶ螢・螢合戦・螢賣
   映す星螢ふわりと田に遊ぶ
螢狩(ほたるがり):螢見・螢舟
   門先や声は子供ら螢狩
螢籠(ほたるかご)
   編み上げて硬し渦巻螢籠

水鳥の巣(みづとりのす):鴨の巣・鷭の巣・水鶏の巣
   柔き島水鳥の巣硬きガード
浮巣(うきす):鳰の浮巣・鳰の巣
   水がひく流れて浮巣ゐぬ親子
通し鴨(とほしがも):夏鴨・輕鴨
   北眺め一羽の潜り通し鴨
6/26
輕るの子(かるのこ):鴨の子
   輕るの子や転がり転ぶ毛の丸(まろ)き
田亀(たがめ):高野聖・どんがまえめ・河童蟲
   ゆっくりと田亀の鼻のしぶきかな
蛭(ひる):馬蛭・山蛭
   流る血や蛭の吸い跡ない痛み

源五郎(げんごろう):龍蝨
   捕まればじつと動かず源五郎
まひまひ:水澄・豉蟲
   光りはね水面戯れ水澄
あめんぼう:水鼉・水馬
   風吹けば動き忙しきあめんぼう
目高(めだか):緋目高
   せせらぎを目高探して聞きながら

蓮の浮葉(はすのうきは):錢荷
   ころりころ蓮の浮葉の水たまり
萍(うきくさ):あをうきくさ・ひんじも・浮草・根無草・萍の花
   絡み合解かれ萍流れゆく
蓴(ぬなは):蓴菜・蒪採る
   蓴摘むはははぺちゃぺちゃ水の音

蛭蓆(ひるむしろ):蛭藻
   蛭蓆波の形の花揺れる
水草の花(みずくさのはな)
   さして棹水草の花かき分けて
河骨(かうほね):かはほね
   河骨や八寸鮒を釣り落とし
澤瀉(おもだか):花慈姑
   風わたる澤瀉の咲く田圃脇
6/27
莕萊(あさぎ):淺沙の花・花蓴菜
   莕萊咲く沼の緑の揺れ具合
菱の花(ひしのはな)
   深き淵半分占めて菱の花
藻の花(ものはな):花藻
   潜りては浮かび息継ぎ藻の花よ
藻刈(もかり):藻を刈る・藻刈棹・藻刈舟・刈藻・刈藻屑
   滑らかに湖面揺らさず藻刈舟

手長蝦(てながえび):川蝦
   たも網や睨んで川面手長蝦
田草取(たぐさどり):一番草・二番草・三番草
   汗まみれ背茣蓙が動く田草取
草取(くさとり)
   草取や両手いっぱい放り投げ
火串(ほぐし):照射(ともし)
   後を追ふ子らも照らして火串かな

夏の川(なつのかわ):夏川・夏河原・五月川
   群れなして六尺姿夏の川
鮎(あゆ):鮎狩・鮎釣・鮎掛・鮎の宿
   水澄みて風の緑や鮎の宿
鵜飼(うかひ):鵜飼火・鵜篝・鵜松明・鵜匠・荒鵜・鵜疲・鵜遣・鵜籠・鵜川
   歓声や鵜飼火揺れて跳ね返り
川狩(かはがり):網打・毒流し・川干し
   川狩や川堰き止める大き石 
夜振(よぶり):夜振火
   松明を求め銀輪夜振かな
夜釣(よづり)
   防波堤船灯り遠き夜釣かな
夜焚(よたき)
   浜名湖や流れに乗りて焚夜舟
釣堀(つりぼり)
   入喰ひの拒む釣り堀隙間なき

夕河岸(ゆふがし):晝網
   夕河岸の掛け声遠く急ぐ足
鯵(あぢ):夕鯵・鯵売
   坂の上夕鯵売が桶の裏
べら:べら釣
   べら釣や隣の女傘の中
鯒(こち)
   俎板と柳刃を持ち鯒釣へ
黒鯛(くろだひ):茅海(ちぬ)・ちぬ釣
   やみつきや黒鯛を釣る手のしびれ

鰹(かつを):鰹釣・鰹船
   庭先の見せる捌きや鰹売り
生節(なまりぶし):なまり・生節(なまぶし)
   古女房捌きの下手な生節
赤鱝(あかえひ):鱝
   衛星の群れて赤鱝写りけり
藺(ゐ):藺草・燈心草
   中田島藺草干す先波頭
6/28
太藺(ふとゐ)
   庭の池濁りも解けて太藺咲く
藺の花(ゐのはな)
   藺の花やゆらゆら照らす螢舞う
靑蘆(あをあし):蘆茂る
   蘆茂るさざ波の立つポイントは
靑芒(あをすすき):靑萱・萱茂る・芒茂る
   通学路足元広き青芒

真菰(まこも):真菰狩
   真菰舟喫水線の見え隠れ
葭切(よしきり):行行子・葭原雀
   葭切の河原の昼寝さえぎりて
翡翠(かはせみ):ひすゐ
   翡翠や水平に飛ぶ光る川
絲蜻蛉(いととんぼ):燈心蜻蛉
   巻きつきて瞬間移動絲蜻蛉

川蜻蛉(かわとんぼ):鉄漿蜻蛉
   二メートル鉄漿蜻蛉や一休み
蜻蛉生る(とんぼうまる)
   まず眼蜻蛉生れて光る翅
蟷螂生る(たうらううまる):蟷螂の子・子蟷螂(こかまきり)
   米粒の蟷螂の子さつと消え

鳥黐搗く(とりもちつく)
   鳥黐搗く旅のプランの電話口
蠅(はえ):蠅を打つ
   犬睨む蠅は堂々聞かぬ「まて」
蠅除(はえよけ)
   蠅除や目を凝らし買ふ穴の無き
蠅帳(はへちやう)
   晝過ごし晩まで待てり蠅帳

蠅叩(はへたたき)
   汚きを家の真ん中蠅叩
蠅捕器(はへとりき):蠅捕紙・蠅捕リボン
   蠅捕器風にまかれて自分捕り
蠅虎(はへとりぐも):蠅捕蜘蛛
   ふわりでも蠅虎が着地音
蜘蛛(くも)
   父が声逃がせ殺すな夜の蜘蛛

蜘蛛の圍(くものゐ):蜘蛛の巣
   夕焼けや蜘蛛の巣光る雨上がり
袋蜘蛛(ふくろぐも):蜘蛛の太鼓
   袋蜘蛛狭き隙間が走り逃げ
蜘蛛の子(くものこ)
   生まれでる蜘蛛の子一気四方へと
蚰蜒(げぢげぢ)
   蚰蜒や今年は見えぬ肥料小屋

油虫(あぶらむし)
   油虫匍匐前進換気扇
守宮(やもり):壁虎
   最果ての守宮が壁へ旅の宿
蟻(あり):蟻の道・蟻の塔
   塀潜り犬の鼻先蟻の道
羽蟻(はあり):飛蟻
   久々の屋根裏部屋や羽蟻占む

蟻地獄(ありぢごく):あとずさり
   さらさらの砂に穴あり蟻地獄
蠛蠓(まくなぎ):めまとひ・糠蚊
   新品の蠛蠓の越す網戸かな
蚋(ぶと):部柚・ぶよ・蟆子
   雨戸開け逃げ回る部屋蚋の舞ふ
蛆(うじ)
   肥溜めや蛆のうごめき風も無き

孑孑(ぼうふら):ぼうふり
   孑孑や二秒止まりぴんしてぴん
蚊(か):蚊の聲・蚊柱・鳴く蚊・蚊を焼く
   汗も無き蚊の聲遠き老の道
蚤(のみ):蚤取粉・蚤の跡
   朝起きの眼で捉え跳ねる蚤

蚊遣火(かやりび):蚊遣・蚊遣木・蚊遣草・蚊取線香・蚊遣粉・蚊遣香・蚊遣
香水・蚊火の宿
   蚊遣火や煙残して雨戸閉む
ががんぼ:蚊蜻蛉・蚊姥
   ががんぼや照らす明りに映えて舞ふ
蝙蝠(かうもり):かはほり・蚊食鳥
   縄張りと蝙蝠の飛ぶ夕まぐれ

青桐(あをぎり):梧桐
   青桐やぶら下がる子ら枝の傷
葉柳(はやなぎ):夏柳
   葉柳を押して車をおりて足
南風(みなみ):大南風・南吹く・はえ・南風
   大南風太平洋の貨客船
靑嵐(あをあらし)
   北の旅終えて我が家の靑嵐

風薫る(かぜかをる):薫風
   退院や庭の草花風薫る
鞍馬の竹伐(くらまのたけきり):竹伐・鞍馬の蓮華會
   豊凶の鞍馬の竹伐五段切
夏至(げし)
   寝汗かくかきよせ掛布夏至の朝
老鶯(おいうぐひす):夏鶯・老鶯・亂鶯・殘鶯・鶯・老を鳴く
   正調の老鶯が果樹園に
6/29
時鳥(ほととぎす):子規・杜鵑・蜀魂・杜字・不如帰・山時鳥
   時鳥今年も声を聞かせども
閑古鳥(かんこどり):郭公・かっこどり
   尾瀬ケ原こだまの響き閑古鳥
佛法僧(ぶつほふそう):慈悲心鳥
   佛法僧夜の茶の間のラジオ聞く

筒鳥(つつどり)
   くうくうと庭の梢の筒鳥よ
夏木立(なつこだち):夏木陰
   夏木立戦の名残のトーチカ
茂(しげり)
   茂より空気銃だけ彼もダメ
緑陰(りょくいん)
   緑陰や頁の進む風のあり
木下闇(こしたやみ):下闇
   単独行道の隠れて木下闇

靑葉(あおば)
   靑葉風ランチタイムの客の足
鹿の子(かのこ):子鹿・親鹿
   大和路や鹿の子呼ぶ声途切れなく
夏蠶(なつご):二番蠶
   越屋根を抜けて夏蠶や風拾ふ
夏桑(なつぐは)
   籠重き育ち盛りの夏桑よ
尺蠖(しやくとり)
   はっついて糊を剥がして尺蠖

夏の蝶(なつのてふ)
   ひとまわり大きな翅や夏の蝶
夏野(なつの)
   父のゐてサナトリウムヘ夏野ゆく
夏草(なつくさ)
   夏草や墓苑の外へ延び逃げて
草矢(くさや)
   赤ふんどし草矢の届き向こう岸
草茂る(くさしげる)
   草茂る悪戯好きの作る罠

夏蓬(なつよもぎ)
   背の伸びて縛るトンネル夏蓬
夏薊(なつあざみ)
   間に合いてラヂオ体操夏薊
草刈(くさかり):朝草刈・草刈り女・草刈籠・草刈る
   草刈や燃やす煙の変わる色

干草(ほしくさ):草干す
   干草や匂ひの絶えて田んぼ道
晝顔(ひるがお)
   晝顔や美しきさが萎む夕
浜晝顔(はまひるがほ)
   中田島浜晝顔が咲き乱れ
酢漿草(かたばみ)
   目を凝らし塀際探して酢漿草
小判草(こばんさう)
   皮肉にも廃墟群生小判草

山牛蒡の花(やまごぼうのはな)
   駆けていく山牛蒡の花咲く朝
葫蘿蔔の花(にんじんのはな):人参の花
   葫蘿蔔の花来年の畝決めかねて
蕃椒の花(たうがらしのはな)
   白くとも蕃椒の花辛かろ
茄子の花(なすのはな):なすびの花・花茄子
   小き棘あつと手を引き茄子の花

馬鈴薯の花(じゃがいものはな):じゃがたらの花・馬鈴薯の花
   二毛作馬鈴薯の花急かされて
木苺(きいちご)
   木苺やフェンス飛び出て赤々と
苺(いちご):覆盆子・苗代苺
   温室の傍ら苺間延びかな
蛇苺(へびいちご)
   赤くとも触りも避けて蛇苺

蛇(へび):ながむし・くちなは
   草伸びて蛇は出ないか堤行く
蛇の衣(へびのきぬ):蛇の脱殻・蛇衣を脱ぐ・蛇の殻
   松の先翻す風蛇の衣
蝮蛇(まむし):蝮酒
   通学路蝮のゐてと回り道
飯匙倩(はぶ)
   薬売り飯匙倩を砕きて虚弱児へ

蜥蜴(とかげ)
   光る目や樹洞に潜む蜥蜴いて
百足蟲(むかで):蜈蚣
   油断して百足で腫れて太き腕
蝉丸忌(せみまるき):蝉丸祭
   坂の上逢ふと契りて蝉丸忌
朝顔苗(あさがほなへ)
   あの色に咲いてくれよ朝顔苗
6/30
靑芝(あをしば)
   手入れせぬ隣の留守の靑き芝
木斛の花(もくこくのはな)
   木斛の花かをり漂ふ雨があと
サルビヤ
   サルビヤよとても好みよこの花よ
虎尾草(とらのを):虎の尾
   虎尾草の白き乱れを愛でし時
孔雀草(くじゃくさう)
   あかきいと色いろいろの孔雀草

釣鐘草(つりがねさう):螢袋・カンパニュラ
   釣鐘草つがいの二匹愛の場所
石竹(せきちく):からなでしこ
   石竹や昔のことを悔やみたり
常夏(とこなつ)
   常夏の羽合という村砂祭
雪の下(ゆきのした):鴨足草・きじんさう
   水流すついでに手酌雪の下

蓼(たで):ほそばたで・蓼の葉
   犬の鼻ぱたぱたやれど蓼喰わぬ
莧(ひゆ):ひやうな
   いにしえより古庭に咲きすべり莧
若竹(わかたけ):今年竹
   裏藪の若竹高く伸びにけり
竹の皮脱ぐ(たけのかわぬぐ)
   竹の皮脱ぐ如く化けの皮

竹落葉(たけおちば)
   ふかふかな根本ふわふわ竹落葉
雹(へう):氷雨
   ぼとぼととゴルフボールが雹が降り
羽脱鳥(はぬけどり):羽脱鶏
   威厳抜け鶏冠の赤き羽脱鳥
水鶏(くひな):緋水鶏・水鶏笛
   夜散歩黒き塊水鶏かな

鷭(ばん):大鷭
   初めての鷭と出くわす川もあり
靑鷺(あをさぎ)
   靑鷺やしびれ切らして撮るをやめ
五月晴(さつきばれ):梅雨晴
   五月晴隣の夫婦車乗る
暑さ(あつさ)
   寝不足か今朝の暑さを今知りて

夏衣(なつごろも):夏衣・夏着
   今朝替えて帽子カバーと夏衣
単衣(ひとえ):単物
   そろそろ年頃と単衣誂へて
夏服(なつふく):白服
   夏服へ変えて電車の明るさよ
夏羽織(なつばおり):麻羽織・絽羽織・紗羽織
   白足袋や透け見え黒き夏羽織

夏帽子(なつぼうし):夏帽・麥藁帽・パナマ帽・経木帽子
   さあどうぞ壁一面に夏帽子
夏襟(なつえり)
   夏襟や思い出新たうづめけり
夏帯(なつおび):単帯・一重帯
   夏帯をきりり締めて参観会

夏袴(なつばかま):麻袴・絽袴・単袴
   夏袴的が踊ると打ち直し
夏手袋(なつてぶくろ)
   傘握る夏手袋の肌の透け
夏足袋(なつたび)
   夏足袋や昔は足袋や今素足
夏座布團(なつざぶとん):麻座布團・藺座布團
   直しても夏座布團が滑り良さ

皮布團(かはぶとん):革座布團
   すまし顔汗の貼りつき皮布團
夏蒲團(なつぶとん):夏衾・麻蒲團
   夏蒲團今朝は何処や夢の中
靑簾(あをすだれ):葭簾・伊予簾・繪簾・玉簾・簾売・古簾
   昼見えぬ夕べは見えて伊予簾

葭簀(よしず):葭簀茶屋
   葭簀張る菓子屋冷たいき声溢れ
葭戸(よしど):簀戸・葭屏風
   開け閉めて葭戸交換父のこと
葭障子(よししやうじ)
   柔らかき葭障子の抜けて風
籐椅子(とういす):籐寝椅子
   おだい様籐椅子を積む西廊下

夏暖簾(なつのれん):麻暖簾
   夏暖簾押して親父が小言かな
業平忌(なりひらき)
   リムーバー変わる色塗り業平忌
虎ヶ雨(とらがあめ)
   路上飲みけふは一掃虎ヶ雨
富士の雪解(ふじのゆきげ)
   とうとうと富士の雪解の冷たさよ
皐月富士(さつきふじ)
   雲の中肩すかしとは皐月富士


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