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新歳時記より 7月の季語

7/1
七月(しちがつ)
   七月の落梅臭ふ留守の庭
水無月(みなづき)
   水無月や女主も家を出て
半夏生(はんげしやう):形代草
   デジ袋詰めて入院半夏生
夏菊(なつぎく)
   夏菊や茎透けて見ゆプラコップ
蝦夷菊(えぞぎく):翠菊
   蝦夷菊を散らして猫の潜る先
7/2
百合(ゆり):山百合・姫百合・鬼百合・白百合・鹿子百合・車百合・早百合・黒百合・鉄砲百合・百合の花
   白々と鬼百合の色つき始む
月見草(つきみさう):待宵草
   口笛を吹いてみまいか月見草
含羞草(おじぎさう):ねむりぐさ
   勢いで昼は気をはり含羞草
7/3
合歓の花(ねむのはな):ねぶの花
   まり子の忌過ぎて盛りの合歓の花
夾竹桃(けふちくたう)
   真っ黒に夾竹桃の分離帯
漆掻(うるしかき)
   一滴が少なき今年漆掻
梅雨明(つゆあけ)
   母の云ふ遠くに鳴りて梅雨明て
靑田(あおた)
   だだ広い青田の中の人一人
7/4
雲の峰(くものみね):入道雲
   スーパーの朱い屋根より雲の峰
雷(かみなり):雷(らい)・神鳴・いかづち・はたたがみ・雷鳴・雷神・遠雷・落雷・雷雨・日雷
   遠雷や蚊帳から首を空模様
虹(にじ):朝虹・夕虹
   背に西日虹の逃げてく高速道
7/5
夕立(ゆふだち):ゆだち・白雨・夕立雲・夕立風・夕立晴
   夕立や右のワイパーゴム破れ
夏館(なつやかた)
   夏館コーヒーミルを廻す数
夏座敷(なつざしき)
   落ち着かぬ座布団流る夏座敷
扇(おふぎ):扇子・白扇・繪扇・古扇
   よそゆきの扇を開き投げ遊び
7/6
団扇(うちは):繪団扇・絹団扇・水団扇・渋団扇・古団扇・団扇掛
   歌う口団扇を扇ぐビブラート
蒲筵(がまむしろ)
   蒲筵昼寝邪魔してチクリ突き
花茣蓙(はなござ):繪筵
   新品の花茣蓙を敷く香る午后
著茣蓙(きござ)
   ふわふわと著茣蓙は進む母の汗
7/7
寝茣蓙(ねござ):寝筵
   風抜けて昼寝の敷地寝茣蓙かな
ハンモック:吊床
   ゆらり揺れ不安一杯ハンモック
日除(ひよけ):日覆
   旗揺れる日除が向こうガリガリと
日傘(ひがさ):繪日傘・砂日傘・パラソル・ひからかさ
   想像や遠き日傘の中の女
7/8
編笠(あみがさ):臺笠・藺笠・籜笠・檜笠・市女笠・熊谷笠・饅頭笠・網代笠
   紐締めて藺笠の母や田の草へ
道をしヘ:斑猫(はんめう)
   犬の前驚き跳ねて道をしヘ
天道蟲(てんたうむし):てんとうむし
   撮り損ね天道蟲が早くゐぬ
7/9
玉蟲(たまむし)
   玉蟲の潜む引き出し光洩れ
金龜子(こがねむし):金龜蟲・かなぶん・ぶんぶん・ぶん蟲
   ぶんぶらや硬き甲羅や翼となり
髪切蟲(かみきりむし):天牛
   髪切蟲髭の動きの素早さよ
兜蟲(かぶとむし):さいかちむし
   兜蟲羽音大きく部屋に来て
7/10
毛蟲(けむし):毛蟲焼く
   ふわふわの毛蟲の速度駆け登り
靑山椒(あおざんせう)
   靑山椒風流解せぬうちの婿
靑葡萄(あをぶだう)
   膨らむ粒いつ迄待てば靑葡萄
靑唐辛(あをたうがらし):靑蕃椒
   靑葡萄葉っぱ食べられ鷹の爪
7/11
靑鬼灯(あをほほづき):靑酸漿
   靑鬼灯まだ早すぎる舌使い
鬼灯市(ほほづきいち):四萬六千日
   ニュースの鬼灯市の実の赤き
夏の山(なつのやま):夏山家
   短パンと装い身軽夏の山
山開(やまびらき):富士の山開
   頂上に人を集めて山開
7/12
富士詣(ふじまうで):富士講・富士導者・富士行者・篠小屋・富士禅定・富士の御判・お頂上・影富士・お鉢廻り
   しかめ顔白装束が富士詣
峰入(みねいり)
   峰入や思えば遠き吉野口
キヤムプ(きゃんぷ):キヤムピング・天幕村
   ベランダのキヤムプ気分テント張り
7/13
登山(とざん):山登・登山宿・登山小屋・登山杖・登山笠・登山口
   数増える押してスタンプ登山笠
岩魚(いはな)
   ロープウェイ串焼き岩魚土産かな
雷鳥(らいてう)
   乗越やコーヒータイムの雷鳥
お花畠(おはなばたけ)
   疲れ飛ぶお花畠の上り坂
7/14
雪渓(せつけい)
   柔らかくひやり雪渓音の道
雲海(うんかい)
   雲海に城跡公園隠しけり
圓虹(まるにじ)
   圓虹や色付く雲に我のゐて
御来迎(ごらいがう)
   御来迎見えぬ向ふの見える時
瀧(たき):瀑布
   観終われど足の離れぬ滝の前
7/15
泉(いづみ)
   隔年の未到の森の泉湧く
清水(しみず):山清水・岩清水・苔清水・草清水
   山清水貯める強さや土石流
滴り(したたり)
   滴りや五百羅漢の一体へ
巌松(いはまつ):巌檜葉・巌苔
   巌松を敷いて羅漢が澄まし顔
7/16
一ッ葉(ひとっぱ)
   右左一ッ葉の反り朝の露
涼し(すずし):朝涼・夕涼・晩涼・夜涼・涼風
   吾子つれて涼し夕べの堤道
露涼し(つゆすずし):夏の露
   露涼し朝の電車が揺れて畑
帷子(かたびら):黄帷子・白帷子・染帷子
   帷子に袖を通して赤暖簾
7/17
上布(じやうふ):越後上布・薩摩上布
   上布着た母の姿や写真帳
芭蕉布(ばせうふ)
   芭蕉布の綻び丸く繕いて
羅(うすもの)
   羅の羽織羽ばたく田舎道
浴衣(ゆかた):染浴衣・貸浴衣・古浴衣
   シニアライブ揃えて浴衣見得を切り
7/18
晒布(さらし):晒・奈良晒・晒時・晒川
   六尺の晒そろそろ四年生
甚平(じんべい):じんべ・甚兵衛
   藍染の甚平選び息子かな
汗(あせ):玉の汗・汗の玉・汗みどろ・汗の香・汗の水・汗ばむ
   汗みどろ電車の中は澄まし顔
汗袗(あせとり)
   ジム通い汗袗姿見せてみる
7/19
網襦袢(あみじゅばん):紙捻襦袢
   たくしあげ肩いからせて網襦袢
汗手貫(あせてぬき)
   朝一や手首に黒き汗手貫
ハンカチーフ:ハンカチ・汗拭
   お別れねハンカチーフの涙色
白靴(しろぐつ)
   白靴を出して帰るかにわか雨
7/20
腹當(はらあて):寝冷知らず
   腹當や寝ぼけ眼の歩く宵
衣紋竹(えもんだけ):衣紋竿
   じっとりと寝間着拒むや衣紋竹
簟(たかむしろ):籐筵
   簟初ボーナスの届け物
油團(ゆとん)
   ごわごわと耳元騒ぐ油團かな
7/21
圓座(えんざ)
   縁側に人待ち顔の圓座かな
籠枕(かごまくら):籐枕
   縦横と首の高さや籠枕
竹婦人(ちくふじん):竹奴・添寝籠
   「そばよるな」二人で挟み竹婦人
竹牀几(たけしやうぎ)
   竹牀几出して木陰のへぼ将棋

噴水(ふんすゐ):吹上げ
   見続け熱い背中や噴水ぞ
噴井(ふけゐ):噴井(ふけゐ)
   行商や噴井の音の一休み
瀧殿(たきどの)
   瀧殿や届かぬ飛沫風の来て
泉殿(いづみどの)
   腰窓や畳涼しき泉殿
露臺(ろだい):バルコニー・ベランダ
   バルコニーローマの夕日顎で受く

川床(ゆか):川床(かはどこ)・床涼み
   川床を眺めて二人黙す夕
納涼(すずみ):涼み臺・縁涼み・門涼み・橋涼み・夕涼み・宵涼み・夜涼み・土手涼み・磯涼み・納涼舟
   早仕舞たまには親父夕涼み
端居(はしゐ)
   絵葉書や遠くの汽笛端居かな
7/22
打水(うちみづ):水撒き・水を打つ
   街道の車の隙間水を打つ
撒水車(さつすゐしや)
   撒水車エンジン音のけたたまし
行水(ぎやうずゐ)
   生垣や友達の姉行水
髪洗ふ(かみあらふ):洗ひ髪
   洗面器どうと流して髪洗ふ

牛冷す(うしひやす):牛洗ふ
   牛洗ふ地面にいばり穴を掘る
馬冷す(うまひやす)馬洗ふ
   浅瀬入りお尻背中と馬洗ふ
夏の夕(なつのゆふ):夏夕
   夏の夕口笛届き流行歌
夏の夜(なつのよ)
   夏の夕や燈明並び泉岳寺

夜店(よみせ)
   カーバイト夜店の男彫り深し
箱釣(はこづり)
   箱釣や男の顔を見上ぐ子ら
起し繪(おこしゑ):立版古
   起し繪や相模の波を書き加え
夏芝居(なつしばゐ):土用芝居
   一人でも帰る勇気や夏芝居
7/23
水狂言(みづきやうげん)
   二枚目が水狂言の飛沫かな
袴能(はかまのう)
   かがり火の虫焼く音が袴能
涼み浄瑠璃(すずみじやうるり)
   俄舞台涼み浄瑠璃聞こゆ宵
ながし:新内ながし
   聞こえくる隣のながし長し歌

燈涼し(ひすずし):夏の燈
   応募句の五十句揃ひ燈涼し
夜濯(よすすぎ)
   夜濯や月の雫の絞り水
夏の月(なつのつき)
   映る丸浜名の湖の夏の月
外寝(そとね)
   街道へ一人の外寝出勤日

夏蜜柑(なつみかん):夏橙
   夏蜜柑花は咲けども残りもの
早桃(さもも):水蜜桃
   見かけより早桃が甘さ増しにけり
メロン
   水加減メロンの網の休みなく
瓜(うり):瓜畑
   葉隠れて裏返しては瓜畑
7/24
瓜番(うりばん)
   瓜番や相手の謀る時をよむ
瓜小屋(うりごや)
   瓜小屋に休む間もなく出荷終え
甜瓜(まくわうり):真瓜(まくわ)
   厚からず皮実の境甜瓜
越瓜(しろうり):白瓜・浅瓜
   酒粕を持てど白瓜売りに来ず

胡瓜(きうり)
   選り分けて長短曲がり胡瓜かな
胡瓜もみ(きうりもみ)
   薄切りの包丁さばき胡瓜もみ
瓜もみ(うりもみ):揉瓜
   瓜もみやネールの朱く添えたくも
冷し瓜(ひやしうり)
   井戸の中人待ち顔が冷し瓜

瓜漬(うりづけ):胡瓜漬
   発想や味噌ヨーグルト胡瓜漬
乾瓜(ほしうり)
   乾瓜や夏の暑さも酢に閉じて
冷素麵(ひやさうめん)
   蘊蓄や冷素麵が茹で上がり
冷麥(ひやむぎ)
   冷麥や酢味噌に胡麻の昼御膳

冷し紅茶(ひやしこうちや)
   タープ揺る冷し紅茶の昼下り
冷し珈琲(ひやしコーヒー)
   ミル廻す冷し珈琲粒加減
振舞水(ふるまいみず):水振舞・水接待
   あの街に振舞水はまだ有りや
麥湯(むぎゆ)
   ぐらぐらと麥湯の香り台所
7/25
葛水(くずみず)
   葛水ややめて今宵の酒の量
砂糖水(さたうみず)
   長旅の篭の兜に砂糖水
飴湯(あめゆ):飴湯売
   卓袱台に肘つき飴湯飲み干して
氷水(こほりみず):夏氷・氷苺・氷レモン・氷小豆・氷ミルク・ミルクセー
キ・氷店・氷売
   氷水グラスの雫吸ふマット

アイスクリーム:氷菓子
   冷凍庫アイスクリーム一つだけ
ラムネ:冷しラムネ
   仰向けば冷しラムネが泡の音
ソーダ水
   ソーダ水緑の色に消えて泡
サイダー:冷しサイダー
   悩ませてサイダー玉の有り無しか

麥酒(ビール):生ビール・冷し麥酒
   断水の胃にしみわたる麥酒かな
甘酒(あまざけ):一夜酒・甘酒売・醴
   甘酒や冷えてますます甘さかな
焼酎(せうちう):泡盛・甘藷焼酎・黍焼酎
   焼酎やお湯割りが良い鼻つく香

冷酒(ひやざけ):冷酒
   冷酒やかをりそのまま蔵の味
水羊羹(みづやうかん)
   涼しげな水羊羹や織部焼
心太(ところてん):石花菜
   丼へぬるり突き出す心太
葛餅(くずもち)
   葛餅や門前町の縁台に
葛饅頭(くずまんじゅう)
   葛饅頭逃げる黒文字みずみずし
7/26
白玉(しらたま)
   白玉や話終わりの滑らかさ
蜜豆(みつまめ)
   蜜豆や最後の蔕の置き所
茹小豆(ゆであづき):煮小豆
   ふうふうと汗をふきふき茹小豆
麨(はつたい):むぎこがし・麥炒粉・麥香煎・香煎
   舞い上がり咽る香煎水を撥ね

冷奴(ひややつこ):冷豆腐
   冷奴料理の腕の皿選び
冷汁(ひやじる):冷し汁・煮冷し
   冷汁の椀の冷たさ箸も冷え
氷餅(こほりもち)
   ほろほろと解けて氷餅夏の午后
干飯(ほしいひ)
   戯れて干飯を噛む痛き舌

水飯(すゐはん):洗飯・水漬
   水飯やかきこむが如正座して
飯饐える(めしすえる)
   軒先の布巾の匂い飯饐える
飯笊(めしざる)
   宵越しの飯笊寄せて母の鼻

鮓(すし):壓鮓・握鮓・早壓鮓・早鮓・一夜鮓・鮓壓す・鮓漬る・鮓熟る・鮓の石・鮓桶・鮨・鮎鮨・鯖鮓・鮒鮓・五目鮓・ちらしずし・鮓の宿
   見比べて友達の鮓おぼろだけ
鱧(はも):水鱧
   鋭き目俎板の鱧押さえこみ

干鱧(ひはも):五寸切・小鱧
   酢の滲みて干鱧の膾旨さ増し
あらひ:鯉・鱸・鯛・洗鯉・洗鱸・洗鯛・洗膾
   盛り上がる鯉のあらひの話かな
夏料理(なつれうり)
   夏料理川辺の二人じっとして
船料理(ふねれうり):船生洲・生簀船
   浜名湖の風も静かな船料理
7/27
水貝(みづがひ)
   水貝や吸いつく岩のかをりして
背越(せごし)
   味噌用意小魚すっぱり背越かな
沖膾(おきなます)
   妻刻む葱の混ざりて沖膾
泥鰌鍋(どぢやうなべ):柳川鍋・泥鰌汁
   蓋押さえ真っ直ぐに伸ぶ泥鰌鍋

醤油造る(しやうゆつくる)
   ぽたぽたと醤油造る家の午后
醤造る(ひしほつくる)
   豆を煎り精げ小麦醤造る
扇風機(せんぷうき)
   規則的軋めど来ない扇風機
風鈴(ふうりん):風鈴売
   風鈴の昔の音の欠片かな
釣荵(つりしのぶ):簷荵
   釣荵厠の出口吊るしけり

金魚(きんぎょ):金魚売
   金魚売ちゃぷちゃぷ急ぎ田んぼ道
金魚玉(きんぎょだま):金魚鉢
   三日坊主の掃除したがり金魚鉢
金魚藻(きんぎょも):松藻
   あるはずと金魚藻求め小川へと
水盤(すいばん)
   水盤の回る水車の水の音

絹絲草(きぬいとさう)
   掌や優し幼苗絹絲草
稗蒔(ひえまき):稗蒔く
   稗蒔や箱の景色の続く色
石菖(せきしやう)
   石菖や白き水盤水流れ
箱庭(はこには)
   箱庭や風車の汲みし井戸の水
松葉牡丹(まつばぼたん)
   育ちすぎ松葉牡丹の塊よ

松葉菊(まつばぎく)
   門柱の裾を飾りて松葉菊
水遊(みずあそび):水掛合・水試合・水戦
   泣けばやむキッズプールの水遊
水鉄砲(みずでつぽう)
   細い竹試しずぶぬれ水鉄砲
水からくり(みずからくり)
   時忘る水からくりの水の中
7/28
浮人形(うきにんぎやう):浮いて来い
   年毎の浮人形増えにけり
水中花(すいちゆうくわ)
   踊り子の真夜中に咲く水中花
花氷(はなごほり):氷柱
   開店の祝いの名残花氷
冷蔵庫(れいぞうこ)
   閉めてよと高周波音冷蔵庫

氷室(ひむろ):氷室守
   氷室より音なき滑りおがくずへ
晒井(さらしゐ):井戸替・井戸浚
   丸い空体の冷えて井戸浚
閻魔詣(えんままゐり):閻魔王
   釜の蓋閻魔詣の骨休み
盛夏(せいか)
   笹音や盛夏の堤なが長し

祇園祭(ぎをんまつり):二階囃・祇園囃・神輿洗・鉾立・山・鉾・宵山・宵飾・鉾町・宵宮詣・鉾の兒・弦召・無言詣・山鬮・祇園會
   京都駅祇園囃に誘われて
朝曇(あさぐもり)
   どんよりとけふの暑さを朝曇
日盛(ひざかり)
   日盛や西の簾を下ろしけり

炎天(えんてん)
   炎天や開発団地砂煙
晝寝(ひるね):晝寝起・晝寝覺・晝寝人
   寝転べどけふは寝つけぬ晝寝かな
日向水(ひなたみず)
   おうどにはけふは温湯と日向水
片蔭(かたかげり)
   家並みや一歩が長し片蔭

西日(にしび)
   湾岸線右に左と西日かな
夕焼(ゆうやけ)
   夕焼に誘われ吾子と下駄鳴らし
夕凪(ゆふなぎ):朝凪
   夕凪や浮き輪も静か
極暑(ごくしょ):大暑・三伏
   背もたれて角の優しき極暑かな
旱(ひでり):旱天・旱魃
   窪み占む小魚が群れ旱かな

草いきれ(くさいきれ)
   豆柴や何を鼻入れ草いきれ
田水沸く(たみずわく)
   小魚を追ひて丸網田水沸く
水番(みづばん):夜水番・水番小屋・水守る・水盗む
   水番や酒は控えめ夜目光る
水喧嘩(みづげんくわ):水論・水争
   何事ぞ水喧嘩の届き来て

日焼田(ひやけだ)
   日焼田や車窓の色の生気なく
雨乞(あまごひ):喜雨經
   雨乞や水分補給の水筒
喜雨(きう)
   喜雨の傘骨一本の折れていて
夏の雨
   放射能混ざっています夏の雨
蝉(せみ):蝉時雨・唖蝉・初蝉・蝉の脱殻
   蝉の鳴く朝を漸く迎えけり

跣足(はだし):徒跣・素跣
   せっしょうや跣足に優し草を踏む
裸(はだか):赤裸・素裸・丸裸・真裸・裸人・裸子
   田に一人裸の男草を抜く
肌脱(はだぬぎ):片肌脱
   珍しや兄貴肌脱ぎ飯を喰う
日焼(ひやけ)
   訓練日日焼に負けて休みけり

赤潮(あかしほ):苦潮
   赤潮の戸惑う渚足を入れ
夏の海(なつのうみ)
   どこまでも光り眩しき夏の海
船遊(ふなあそび):遊船
   びしゃびしゃと飛沫を浴びて船遊
ボート
   向こう岸近くに見えてボート漕ぐ
ヨット
   準備中ヨットどんどん進みだす

泳ぎ(およぎ):水練・競泳・遠泳・泳ぎ船・水泳・遊泳
   遠泳を見守る教師立ち続け
潮浴(しおあび):海水浴
   浮き輪乗る海水浴へ混む電車
海水着(かいすゐぎ):海水帽
   新品の体を拒む海水着
海月(くらげ):水母
   潮流の海月を叩く湖の中
7/29
夜光蟲(やくわうちゅう)
   渚打つ波の形の夜光蟲
船蟲(ふなむし)
   網すくふ早き船蟲逃げ去りぬ
荒布(あらめ):黒菜・荒布舟・荒布刈る・黒菜刈る・荒布干す
   この年で荒布の料理不得手なり
天草取(てんぐさとり):石花菜取る
   山盛りと天草取の船帰る

海蘿(ふのり):布海苔・海蘿掻・海蘿干す
   ごろごろ石幾年月の海蘿干
海松(みる):水松・みるふさ
   海松ふさや掻き捕る出刃を砥ぐ男
浜木綿(はまゆふ):はまおと
   浜木綿の咲く砂山に残る熱

避暑(ひしょ):避暑地・避暑の宿・避暑客・避暑の旅・銷夏
   避暑客や翻し行くワンピース
夏休(なつやすみ):暑中休暇・暑中休
   昆虫の住まい確かめ夏休
帰省(きせい):帰省子
   過疎の村帰省の声の響く夕
林間学校(りんかんがくかう)
   雉の飛ぶ林間学校始まりぬ

土用(どよう):土用入・土用明
   故郷は土用の夜の指定席
暑中見舞(しょちゅうみまひ):土用見舞
   「無事です」と暑中見舞のメール打つ
蟲干(むしぼし):曝書・土用干・蟲拂
   蟲干や箪笥の底の埃あり
紙魚(しみ):雲母蟲・衣魚・染蠧
   本棚や溢れる自慢紙魚のゐて

梅干(うめぼし):梅漬・梅筵・梅干す・干梅
   梅干や二食弁当隅にゐて
土用浪(どようなみ)
   テトラポット高きぶつかり土用浪
土用芽(どようめ)
   湯治宿土用芽摘み昼下り
土用鰻(どよううなぎ):鰻の日
   川の中土用鰻を踏みにけり

土用蜆(どようしじみ)
   砂すがし土用蜆のゐる浅瀬
土用灸(どようきう):炮烙灸
   連れ立ちて休む楽しみ土用灸
定齋売(ぢやいさいうり):定齋屋
   かたかたと定齋売通り行く
毒消売(どくけしうり)
   声高な毒消売の響く街

暑気拂ひ(しょきはらひ)
   熱々の珈琲啜る暑気拂ひ
梅酒(ばいしゅ)
   酸っぱさのまだまだ消えぬ梅酒かな
加薷散(かうじゅさん)
   出張の予定の伸びて加薷散
枇杷葉湯(びはえふたう)
   汗を拭き枇杷葉湯を煎じけり
香水(かうすい)
   上品な香水に群れ研修生
7/30
掛香(かけかう):匂ひ袋
   掛香を忍ばせ背広電車乗り
天瓜粉(てんくわふん)
   初めての天瓜粉や目をつぶり
桃葉湯(たうえふたう)
   覚えたて桃葉湯の数え声
汗疹(あせも):あせぼ・汗疾
   汗疹の子我を忘れて遊びけり

水蟲(みづむし)
   水蟲や素足で歩き中田島
脚氣(かくけ)
   ぐったりと脚氣の叔母の伏す寝床
暑気中り(しょきあたり):暑さあたり・中暑
   練習日一日だけの暑気中り
水中り(みづあたり)
   水中り避けて知らぬや水の味

夏痩(なつやせ):夏負 
     夏痩と目盛一本喜びぬ
寝冷(ねびえ):寝冷子
   腹巻や寝冷予防の縞の柄
コレラ:コレラ船
   避病舎や昔コレラの人もいて
赤痢(せきり)
   生物を食うな食わせぬ赤痢かな

瘧(ぎやく):おこり・わらはやみ・マラリア
   マラリアの予防生垣消毒を
霍亂(くわくらん)
   霍亂や冷たき水の持つ威力
日射病(につしやびやう)
   バタバタと朝の集会日射病
川開(かはびらき):両国の花火
   川開船縁に咲く花の揺れ

天神祭(てんじんまつり):天満祭・船祭・鉾流しの神事
   煌々と天神祭船のゆく
靑柿(あをがき)
   靑柿や天を仰いで生るもあり
胡麻の花(ごまのはな)
   胡麻の花蟲の飛び出て夜明け前
棉の花(わたのはな)
   眺めては浜松の城棉の花

苧(からむし):眞苧(まを)
   背の高き苧茂る百花園
滑莧(すべりひゆ):馬齒莧
   手を入れぬ裏庭占めて滑莧
瓢の花(ひさごのはな)
   棚の上瓢の花の望む空
夕顔(ゆふがほ)
   庭道やこぶり夕顔咲きにけり

糸瓜の花(へちまのはな)
   どこまでも糸瓜の花が咲く田舎
烏瓜の花(からすうりのはな)
   てふ呼べど烏瓜の花嫌われ
蒲(がま)
   調整池誰も植えない蒲の伸ぶ
蒲の穂(がまのほ)
   届かない蒲の穂叩く吾子の友
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布袋草(ほていさう):ミヅヒヤシントー・布袋葵
   金魚鉢いるかいないか布袋草
水葵(みづあふひ):なぎ
   魚追ふ足音に揺れ水葵
睡蓮(すゐれん):未草
   橋の有りモネの睡蓮真似て庭

蓮(はす):蓮華・はちす・蓮の花・白蓮・紅蓮・蓮見・蓮見舟・蓮池
   蓮池や錦鯉達スラローム
茗荷の子(めうがのこ):茗荷汁
   子らに云ふこれは食べるな茗荷の子
新藷(しんいも)
   新藷や一雨毎の大きさよ
若牛蒡(わかごぼう):新牛蒡
   削らずとかをり楽しみ若牛蒡

干瓢乾す(かんぺうほす):夕顔剥く・新干瓢
   つるつると伸びて干瓢乾すおうど
トマト:蕃茄
   赤身色僅かに着いてトマト取り
茄子(なすび):なす・初茄子
   フライパン並べて茄子湯気を出し
鴫焼(しぎやき):茄子の鴫焼
   鴫焼や甘味噌かをる鉄の鍋

茄子漬(なすづけ)
   釘を入れ茄子の青さを出しにけり
御祓(みそぎ):名越の祓・夏越の祓・六月の祓・荒和の祓・夏祓・夕祓・川祓・御祓川・七瀬の御祓
   そよそよと名越の祓吹き抜けぬ
形代(かたしろ):贖物(あがもの)
   形代を胸に抱きて祝詞聞く

茅の輪(ちのわ):菅貫・菅祓
   人のゐぬ人待ち顔の茅の輪かな
蘇鉄の花(そてつのはな)
   蘇鉄の花つんつんの葉の囲みかな
仙人掌(さぼてん):覇王樹
   仙人掌や知識不要なり盆栽
ダリア:天竺牡丹・ダアリア
   幼き日名前憶えてダリア咲く

向日葵(ひまはり):日車草・日輪草
   向日葵や全員の眼が我に向き
紅蜀葵(こうしよくぎ):もみぢあふひ
   強光に負けぬ強さや紅蜀葵
黄蜀葵(わうしよくぎ):とろろあふひ
   黄蜀葵過疎の村にも高く咲き
こてふ蘭
   こてふ蘭花の数して値踏みかな

風蘭(ふうらん)
   風蘭と見合った黒き鉢を買ふ
石斛の花(せきこくのはな)
   梢咲く石斛の花鼻伸びず
縷紅草(るこうさう):るこう
   絡み付き上へ上へと縷紅草
凌霄花(のうぜんくわ):のうぜんかづら
   教会の凌霄花や園児待ち

日日草(にちにちさう)
   今日も咲き明日明後日も日日草
百日草(ひやくにちさう)
   母教え百日草の花壇かな
千日紅(せんにちこう)
   合忌墓へ千日紅を供えけり
玫瑰(はまなす)
   詩浮かび浜の岸辺の玫瑰よ

麒麟草(きりんさう)
   ざわざわと風で騒ぐや麒麟草
虎杖の花(いたどりのはな)
   虎杖の花茂る庭にも主いぬ
花魁草(おいらんさう)
   花魁草振り込み済みのメールあり
鷺草(さぎさう) 夕闇に鷺草おぼろ白き花

梅鉢草(うめばちさう):うめばち
   金時山梅鉢草が咲き始め
独活の花(うどのはな)
   草むらや秘かにあらず独活の花
灸花(やいとばな):へくそ葛
   灸花遥か高くに咲きにけり
射干(ひあふぎ)
   射干や絶える事なき鉢に咲き

芭蕉の花(ばせうのはな):花芭蕉
   ぽっかりと大きく垂れて花芭蕉
玉蜀黍の花(たうもろこしのはな):なんばんの花
   期を合わせ玉蜀黍の花の咲く
菅刈(すげかり):菅刈る・菅干す
   くたびれたメーカー帽子菅刈りぬ

藺刈(ゐかり):藺刈る・藺干す
   中田島藺干す砂浜柄の出来
麻(あさ):大麻・麻の葉・麻の花・麻畠・麻刈
   森蔭や大麻を育て人のゐて
帚木(ははきぎ):ははきぐさ
   帚木の誘う道や無人駅
夏萩(なつはぎ)
   夏萩や校庭の鉄棒のさび

沙羅の花(しやらのはな):夏椿の花
   雨止まぬ待て未だ咲くな沙羅の花
百日紅(さるすべり):百日紅(ひゃくじつこう)
   名園の山を彩り百日紅
病葉(わくらば)
   病葉の色の寂しや城の庭
落し文(おとしぶみ)
   門先の通る人あり落し文

秋近し(あきちかし):秋を待つ
   秋近しハンカチ落とす前の人
夜の秋(よるのあき)
   夜の秋古いポスター照らし出し
晩夏(ばんか):夏深し
   文机インク半分晩夏かな

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