「海軍主計大尉小泉信吉」

この本をどこで知ったのか正確に覚えていません。失礼ながら、著者の小泉信三氏のことも知りませんでした。これを読んだ学生時代に、日中戦争や太平洋戦争についていろいろ調べていて、おそらくその中で、この本を知ったのだろうと思います。

当時は戦争に関する本ばかり読んでいたので、いつもと同じような話だろう、と何の期待も無しに読みはじめました。

信三氏は、小さい頃からのエピソードを語り、信吉氏からの手紙も載せています。冒頭に戦死を知らせる電報文が掲載されているので、読む方は結果がわかっています。

著者は、実に淡々と書いていきます。結果を知っているこちらとしては、もっと感情的になってもいいのに、と思うのですが、戦死が知らされ、葬儀が終わって、1年が経つ最後までその調子が続きます。

これほどまで落ち着いて亡くなった子供のことを書けるのか、という疑問も湧きましたが、淡々とエピソードを積み上げられると、人一人が亡くなる、ということがどういうことか、思い知らされる感じでした。

吉川英治の「宮本武蔵」の「父母恩重経」を読み上げるシーンにも通じるものがあると思います。

子を持つ親になってあらためて読みかえすと、当時注目した箇所とは違うところにも目がいきます。

本当にいろいろ考えさせてくれる本です。

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