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rain(Soul Bar Stories01)


古い話だがSoul Barを手伝っていたことがある。お願いされてはじめたこともあり、お店のことでやりたいことは全てさせてもらった。中でもいちばん好きな仕事はDJだった。

手伝う前は客として入り浸っていて、その店のレコードのラインナップに魅力を感じていた。お気に入りの曲が多くあったので、いつかあのレコードをターンテーブルで回してみたいと密かに妄想していた。

当時はかなりの繁盛店だったため多くの人と出会ったが、特に仲良くなった客がいた。地元の女性とアメリカ人の黒人男性だった。男性は紛争地域の戦争から帰ってきたばかりだと話していた。ソウルミュージックが大好きだった。

お店を気に入ってくれたようで、毎月のようにお店で会うようになった。毎回自分のDJブースの前に座ってかける曲を気持ち良さそうに聴いていた。

ある雨の日、2人で笑いながら店に入って来た。その日は特別に楽しそうにしていて見ているこちらも嬉しくなった。音楽をかけると喜んでくれて、楽しそうに曲やミュージシャンの話をしながらお酒を飲んでいた。

「何か嬉しいことでもあったんですか」と聞いてみた。女性は少し笑顔になったあと急に寂しそうな顔になった。

「彼が来月またアフガニスタンに行くの」

対応に困って「ごめんなさい……寂しくなりますね」と返していた。キース・スウェットのrainという曲が流れていた。



帰り際に、基地の中で送別パーティーをするのでそこでDJしてほしいとお願いされた。絶対に来てほしいと電話番号までもらったが結局スケジュールが合わなくてお断りした。そのあと2人はどうなったのか知るすべもない。もう店で会うことは一度もなかった。

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