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PISA調査にみる日本教育の現在地と未来

みなさん、こんにちは。2023年もいよいよ最後の月になりました。みなさんにとってこの1年はどのような年だったでしょうか。

楽しい時もあれば、辛い時も、嬉しい時もあれば、悲しい時も。

たくさんの状況や感情が浮き沈みしながらも1日1日が過ぎていくものだなと感じます。

さて、今日は先日(2023年12月5日)発表されたPISA調査について個人的な見解も踏まえながら日本教育の現在地とこれからについて述べていきたいと思います。

改めて確認するPISA調査とは?

まず、PISA調査について簡単に概要をご紹介しておきます。

PISAは、Programme for International Student Assessmentの頭文字をとった名前で、OECD加盟国を中心として国際的に学習到達度を測るテストです。

個人的にはこのProgramme[イギリス英語]と表記されているところが非常に欧州寄りの思想を感じます。

さて、以下OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイントから抜粋です。

・義務教育修了段階の15歳の生徒が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることを目的とした調査。
・読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、2000年以降、おおむね3年ごとに調査実施。各回で3分野のうちの1分野を順番に中心分野として重点的に調査。
・2015年調査より、筆記型調査からコンピュータ使用型調査(CBT)に移行。
・平均得点は経年比較可能な設計。※平均得点を比較する場合は、数値の差を見るだけではなく、統計的に意味のある差(有意差)の有無の確認が重要。
・3分野の調査結果を生徒や学校が持つ様々な特性との関連によって分析するため、質問調査(生徒質問調査、ICT活用調査(生徒対象)、学校質問調査)も併せて実施。

引用:OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント, 国立教育政策研究所

簡単に言うと、

  • 義務教育終了段階の15歳を対象にオンラインテスト(調査)

  • 「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を3年ごとに測定する調査

  • テスト以外にもアンケート形式での質問調査も実施する

というものです。

そして、PISA2022では、81カ国・地域から約69万人が参加しています。

日本からは、全国の高等学校・中等教育学校後期課程・高等専門学校の1年生のうち、183校、約6000人が参加しています。

実施時期は、2022年6月から8月です。

前回実施したのは2018年であり、本来であれば2021年が3年後にあたる年でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、2022年に延期してます。

※いずれも、『OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント』を参照しています。

たくさんのデータが本資料にはありますので、ぜひご興味のある方はレポートをご覧ください。今日はその中から個人的に関連性があるポイントをいくつかピックアップをして考察を述べていきます。

ちなみに今回の81カ国のリストも気になると思うので記載しておきます。

シンガポール、マカオ、台湾、香港、日本、韓国、エストニア、スイス、カナダ、オランダ、アイルランド、ベルギー、デンマーク、イギリス、ポーランド、オーストリア、オーストラリア、チェコ、スロベニア、フィンランド、ラトビア、スウェーデン、ニュージーランド、リトアニア、ドイツ、フランス、スペイン、ハンガリー、ポルトガル、イタリア、ベトナム、ノルウェー、マルタ、アメリカ、スロバキア、クロアチア、アイスランド、イスラエル、トルコ、ブルネイ、ウクライナ、セルビア、アラブ首長国連邦、ギリシャ、ルーマニア、カザフスタン、モンゴル、キプロス、ブルガリア、モルドバ、カタール、チリ、ウルグアイ、マレーシア、モンテネグロ、バクー、メキシコ、タイ、ペルー、ジョージア、サウジアラビア、北マケドニア、コスタリカ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、ジャマイカ、アルバニア、パレスチナ、インドネシア、モロッコ、ウズベキスタン、ヨルダン、パナマ、コソボ、フィリピン、グアテマラ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ウルグアイ、カンボジア

引用:OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント

気になったのは、中国とインドがPISA調査を実施していないという点です。どうやら「言語が多様なことなどから全国一斉テストの実施は難しい」とのことで参加していないようです。

PISA2022は、数学的リテラシー5位、読解力3位、科学的リテラシー2位の結果

まず、総合的な順位について確認していきます。日本は、表題にあるように数学的リテラシーは5位、読解力は3位、科学的リテラシーは2位という結果でした。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント, 国立教育政策研究所

参加する81カ国中と考えれば非常に上位であることがわかります。

参考までに、国内でもよく海外の教育として取り上げられる「アメリカ」「フィンランド」「オランダ」についても見ていきます。

<アメリカ>
数学的リテラシー:34位
読解力:9位
科学的リテラシー:16位

<フィンランド>
数学的リテラシー:20位
読解力:14位
科学的リテラシー:9位

<オランダ>
数学的リテラシー:10位
読解力:35位
科学的リテラシー:25位

このような結果となっています。いずれの国々よりも全ての項目において日本は高い位置にいます。

他方で、日本の上位にいる国を見てみましょう。

シンガポール、マカオ、台湾、香港、アイルランド

こちらのたった5カ国が日本よりも上位に位置する国です。

人口の比較でみてみるとこのようになります。

シンガポール:545万人
マカオ:69万人
台湾:2357万人
香港:741万人
アイルランド:503万人

いずれの国も人口が多い国ではなく、1億人をこえる規模の国においてこのような高い位置にいるのは極めて優秀な立ち位置にいるといっても過言ではないかと思われます。

OECD iLibrary, https://www.oecd-ilibrary.org/sites/03c74bdd-en/index.html?itemId=/content/component/03c74bdd-en

こちらは、PISA調査の元資料から持ってきたデータですが、1人あたりのGDPと数学的リテラシーの相関をみたデータになります。日本は一人当たりのGDPは先進国に比べてかなり劣っているものの、数学的リテラシーが高いという稀な国であることもわかります。

OECD iLibrary, https://www.oecd-ilibrary.org/sites/da799b6c-en/index.html?itemId=/content/component/da799b6c-en

この図も非常に面白いです。数学的リテラシーと教育課程で単位を取得するための時間数を計算したものです。日本は平均に位置していますが、数学的リテラシーが高いと結果が出ています。これはおそらく塾や宿題など、教育課程外での学習時間はカウントされていないと思われるため、それらを考慮したら時間は変わってくるのではないかと思います。

PISAとコロナの関係性

続いて、PISA2022で印象的だった点としては、新型コロナウイルスの影響について言及されていることです。これはPISA2018以前の調査ではいうまでもなく必要のなかった調査です。

いくつか興味深いデータを共有します。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント, 国立教育政策研究所

こちらのグラフですが、横軸が、コロナによって3ヶ月以上休校したと回答した生徒の割合になります。

まずこの横軸だけをみても、学びが止まらなかった国の一つとして日本があげられます。これは本当に素晴らしいことです。台湾、アイルランド、スウェーデンに次いで4番目に低い数値になっています。

そして、数学的リテラシーについても高い位置にいます。

これは、3ヶ月の休校期間があった生徒の割合が少なかったために数学的リテラシーが高いというわけではなく、過去の数学的リテラシーの順位をみても、常に上位に位置しているので、休校期間のあった生徒の割合が少ないから=学習時間が確保できる=数学的リテラシーが高くなった、というのは一概には言えないかと思います。もちろん影響が0というわけではないと思いますが。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント, 国立教育政策研究所

続いて以下のグラフを見てみます。

OECD iLibrary, https://www.oecd-ilibrary.org/sites/da799b6c-en/index.html?itemId=/content/component/da799b6c-en

このデータは、"得点"について焦点をあてていて、2018年に比べて点数がどのように変化をしたか、確認をすることができます。これをみるとわかる通り、多くの国が2018年よりも点数が下がっています。

これは一つの要因としてコロナが言えるのではないかと思います。

そのような中、数少ない点数が上がった国として日本があげられています。

このように、コロナ禍でも"学びを止めない"と奔走する国、学校、そして先生の多大なる尽力の影響であることが伺えます。

GIGAスクール構想も非常に大きなインパクトを与えた一つの政策であったことも言えます。

また、こちらのデータは、「社会経済文化的背景」のレイヤーごとに数学的リテラシーの平均点を示したデータになります。社会経済文化的背景 (ESCS; Economic, Social and Cultural Status)とは、保護者の学歴や家庭の所有物に関する生徒質問調査の回答から同指標を作成したものです。

この図を見てわかるのは、日本は社会経済文化的背景に関わらず平均点の差が他国に比べて非常に小さいことがわかります。

つまり家庭環境や地域環境に関わらず一定の教育水準を保てていることがわかります。

ICTを用いた探究型の教育の頻度は29位

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント

他方で、表題にある「ICTを用いた探究型の教育の頻度」は81カ国中29位でありました。これは、OECDの平均を下回っています。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント

また、各教科においてデジタルを活用した学習については、いずれもOECDの平均を下回っています。

ICTの有効活用と探究型の授業へのシフトは遅れていることがわかります。

基礎学力の高いが、以前として学びのスタイルが変わらない日本

さて、ここまでは様々なデータを並べていきましたが、ここからは個人的な感想や意見についてまとめていきたいと思います。

まず、先述したようにPISA2022では読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーともに上位に位置していることは大変素晴らしいことだと思います。日頃の教育水準の高さを伺えます。そして、日頃の教育水準を支える先生をはじめ、日本の教育システムについては賞賛されるべき内容かもしれません。

しかし、むしろこの高い水準こそこれからの日本教育を危惧すべきなのではないかとも思えてきます。(非常に皮肉な見方かもしれませんが)

最後のデータでも表れているように、ICTを活用した探究型の学びや各教科におけるデジタルの活用はOECDの平均以下の点数となっています。

読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーはあるもののICTの活用や探究型の授業には頼っていない。

これはある意味凄いことでありつつ、反対を言えばこれらの能力だけに特化し、非認知能力などこれらの3つの能力以外の観点ではあまり重要視されていない可能性があります。(あくまで仮説です)

また、この点についてメディアについても特に報道が強くされることはなく、3つの能力のみに焦点がいきがちになっています。

2018年の時にもそうでした。読解力が18位になり、一気に順位を下げたことが全国的にも話題となり、この数値が一つの次への課題となり、国内で「読解力のない子どもたち」というレッテルを貼られ、次の調査ではなんとしてでもあげなければならない。という意識になっています。

このように私たち日本人はどこか順位や数字に一喜一憂してしまうようです。これ自体は非常に危険なことです。

もちろん素晴らしい結果であることについては大いに喜ぶべきでしょうが、大事なのは10年後、20年後、にグローバル社会において活躍できる人をどれだけ増やすことができるか、という点ではないでしょうか。

そのように考えたときに探究型の学びやICTの活用についてもっと語られるべきであるし、そもそもPISA調査をここまで注目すべきかどうかも議論すべきなのかもしれません。

とはいえ、世界の記事を見てみてもやはり自国の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの順位についてをメインに語られているようですから、どうなのでしょうか。

https://www.washingtonpost.com/education/2023/12/05/us-students-math-scores/

https://www.theguardian.com/australia-news/2023/dec/05/australian-students-2022-pisa-scores-results-declining-oecd

今回は、OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイントの資料を中心に取り上げてきました。実は元データのPISAのレポートも非常に膨大で面白い調査がありましたので、もう少し時間を割いて別の機会にまとめたいと思います。

ぜひみなさんの見解についても教えてください。




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