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経済的自立のために永遠の労働に隷属する


 むかし働いていた出版社は坂の途中にあった。一方通行の狭い坂道だったが、大きな道路への抜け道だったので、よく車が駆け降りていった。ある日、坂道を登っていると、電柱に供えられた花束に気づいた。白いかすみ草が透明のセロハンに包まれていた。そこはガス管の工事をやっていた場所だった。どうやら車を誘導していた警備員のおっさんが、車にはねられて亡くなったらしかった。

 交通整理をおこなう警備員は「最底辺の職業」とよく自嘲するらしい。『交通誘導員ヨレヨレ日記』を記した柏耕一氏は、かつて編集プロダクションを経営していたが、いまは編集や執筆の仕事をしながら、警備員として働く「ダブルワーカー」だ。2500万円を超える税金の滞納があった会社を精算したものの、いまでも1000万円の借金があり、月々5000円を返済しているそうだ。
 「高齢者が手っ取り早く仕事をして収入を得たいと考えれば、警備員が一番かもしれない」と柏さんは言っている。日本語が話せて健康であれば、ほとんど採用される。実際、自身が勤めている会社は70歳以上の高齢者が8割を占めていて、最高齢は84歳なのだそうだ。柏さんのご年齢も72歳である。

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